途方に、くれた顔。
それから、すこし笑って。
焦ったようにひらく瞳。
眉がよせられ、唇が。
形の良いくちびるがうっすら、ひらいて。
静かなのに。
コンビニで笑っていても、静かなのに。
店員さんは今、顔をくしゃくしゃにして、
「……君が、」
それ以上泣きそうな言葉が続かないことを、知っているんじゃない。
願っているんです。
「店員さん!」
知っているのは後悔が先にたたないことだけ。
「ちょっと待ってください、あの、いえ、あの、みませんでした。店員さん。
私、あの、間違いです。私っ、」
なにか、言わなきゃ。
心臓の音が体をゆらす。
顔ごとそむけて、ぎゅうと、にぎった手を胸に当てた。
生きている心臓が、早い音を鳴らした。
そんな私をいつもならとなりで私が見ているのに。何年たっても、
そこに冷静に居る、もう一人の私なのに。
目をつむった。
どうして今日は居ないの。
「……ヒ、」
「え?」
顔を上げると、店員さんはすぐ目の前で、強い、力。抱きしめられた。
私。
どうしていまさらにわかってしまったの?
彼が。
本当に、実在しているのだということに。
心のどこかで店員さんを、私の生み出した影かなにかだと思っていた
のです。都合のいいカタルシス。バカバカしい幻想。違う生き物だと
いうことに、気づいてしまった。戻れない。壊れそう。
大きな手が、長い、指が、私の髪の毛をやさしく梳く。耳もとに頬が
あたって、
「ヒミ、」
それは厳かに密やかに紡がれた、低くただよう美しい音だった。
私の名前。
もう、戻れない。
「いや……ッ!」
急にゆるんだ腕を、すりぬけた。店員さんはぐらぐらと揺れて、いいえ、
これは私が揺れているの。コートをつかんで、力任せに引き寄せる。
――カッン。
彼の。
大事なものを落とした。
傷つけたとわかっていながら飛び出した。走る。店員さんは、きっと
追いかけてはこないだろう。
それを知っていても、走らずにはいられない。
部屋にこもって一晩中ふるえた。勉強も手につかない。気がつくと朝に
なっていて、カーテンを開けると庭に雪が積もっていた。
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