どうしてだろう。あの店員さんのことが気になる。
傷が増えていたから?
記憶の奥に残っている手首に、重なる、オレンジ色の、線が、私の
鼓動を早くする。
店員さんに何があったんだろうか。
それは私が知ってはいけないコトかしら?
教室の窓からのぞく。校庭の、もっとずっと向こう側に、店員さんの
コンビニがある。
私は、唐突に手首を切りたくなって、授業中なのだけれど手首にカッ
ターをあてた。
誰も見ていない。
教室の中で、私の存在に気付いている人はダレモイナイ。
★
放課後にコンビニへ寄っても見かけないので、あの人は朝から昼まで
働いているのでしょう。
今日も。祝日だけれど。
私は、話そうと決めたらスグに話したくなって、朝から家を出ました。
丁度良く外には店員さんが居て、なんでもないように、お早うござい
ますと、声を。
小さく「え?」と聞こえました。
「少しオハナシできますか?」
私がそう言うと、店員さん――プレートを見ましたが、名前は言い
ません――はしばらく考えて
「掃除しながらでよければ」
両手のホウキとチリトリを見せました。
店員さん、あなたが、私と同じ理由で切っているのか知りたいのです。
それ以外は何も望みません。
これは興味ですか?
私は自問自答する。ハイそうです。
それは手首のせいですか? ハイ。
今ドキドキしていますか? ハイ。
それはもしかして、恋ではありませんか? ……イイエ。
だって、考えて。私、今汚い。こんなのが恋なのだとしたら、そんな
悲しいこと、ないもの。ほら言ってみて、汚い言葉。ぶつけるの。
自分に聞いても、答えが、出ないから。
「――店員さんは、何から逃げているんですか?」
店員さんは少ししてからこうこたえました。
「一時におわるから」
「え?」
「バイト、」
「それなら知ってます」
「知っ、て?」
「何時に終わるかぐらい、知ってます」
「――…そう、」
ホウキとチリトリを持ちなおして、店員さんは私の足元から目を
そらしました。もう何も、言いません。
口元からは、白い吐息がこぼれて。
こうして視線をあわせない、奇妙な会話が、終わった。
|