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桜田東中学校のチャイムが鳴り、生徒たちは帰り支度をはじめた。 今日はPTA会議と職員会議のため、部活動はお休みとなっている。
高遠フジムネは、ざわめく教室内で机に座ったままボーっとしていた。
――視える。
フジムネには、玄関先で待機している火影と風切が視えている。生徒たちが続々と下校しているなか壁に寄りかかり、くだらない事を言って笑い合っている。その会話さえも分かる。
今年の六月あたりから突然、耳がよく聞こえるようになった。
フジムネは元々遠視で、施設では眼鏡を買ってもらえなかったため、耳の良さについては自覚があった。高遠三八木と四ノ二に引き取られ、眼鏡を買ってもらった頃には落ち着いていたが、最近どんどん発達している。目を閉じると様々な音が混ざり合い、少し先の情景が鮮明に思い起こせるほどに。
フジムネ自身はこの突出しすぎている能力を、自然なものとして受け入れていた。施設にいる以前の記憶を失っていることもそうだ。「本当の親は誰なのか?」「どこ出身なのか?」などの余計な詮索は、しようとも思わない。この名前は、フジムネ自身が名乗ったのではない。引き取られた際に、父と母がつけれくれた名だ。
フジムネにとっては三八木と四ノ二が本当の親で、洋介と加奈子は本当のいとこだ。ここに居る自分自身こそが本物で本当で、失った記憶については特に重要とは思わない。
きっと、捨てたかったから捨てたのだ。
フジムネはそう思っている。
今日は洋介と加奈子が尾行してくれる日だ。フジムネは深呼吸し、椅子から立ち上がった。鞄を持って玄関に行くと、視えた情景と同じく火影と風切が壁に寄りかかっている。
身を起こしてと手をあげたのが火影冬河。ややぽっちゃりめで、前髪は整髪料でツンと上げている。
ブンブンと大きく手を振り
「待ってたよ〜ん♪」
と楽しげに言ったのが風切湖太郎。顔はイケメンの部類に入るが、行動と言動が残念な問題児だ。
フジムネの予想通り、今日もついてくるつもりらしい。
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洋介と加奈子は商店街の入り口に立っていた。
桜田東高校の制服に身を包んだ洋介は、ちらりと隣を見下ろす。
茶色のロングコートに帽子をかぶり、サングラスをしてアンパンを持った加奈子が
「よし!! コードネームで呼び合うぞ!」
と叫んだ。
「加奈子その服脱げ。変だから」
洋介がコートを没収しようと肩に手をかけると「やめてよお兄ぃ!」と加奈子は逃げる。コートは母親・叶のものだ。母親が着ると腰丈のコートだが、加奈子が着ると超絶ロング。必然的に袖口もダボダボで、加奈子は袖をまくって対処していた。ちなみにサングラスは縁日で買ったもので、アンパンは3分前にコンビニで購入した。
遠くの通りにフジムネの姿を認めると、洋介はどうしたもんかと思案した。変に印象に残りたくないが、この加奈子は絶対印象に残る。
「か……、加奈子〜。お前昨日「ゆめ☆ドキ」の五巻欲しいとか言ってたよな? そこに本屋あるぞ〜?」
「お兄ちゃん! 今は漫画じゃなくてフジちゃんの方が大事でしょ!?」
「いや、大事だけどな、大事なんだけどな〜〜ッ…!」
三人の姿が近づいてくる。
洋介は、道にはみ出ているドラッグストアの商品の間に加奈子を押し込み、商品を選ぶフリをした。
北条院倉之助ほどではない小太りの少年を中央にして、フジムネと細長い少年が左右にいる。昨日のお笑い番組の内容がサッと聞こえて通り過ぎた。
ある程度遠ざかったのを見て、洋介は尾行を開始しようと身を起こす。
が。
――ポンッ。
「うわっ!!!」
急に腰のあたりを叩かれ、思わず大声が出た。ふり帰ると、驚きながらを手をおろした猫野黒月が立っている。黒いジーンズに黒いTシャツ。片手には有名塾の手提げ袋を持っている。
「どーしたの。こんなトコで……、」
商品の間からニュッと出てきた加奈子が
「しーっ!!!」
と人差し指を口にあてた。
「いま尾行してる途中なの!!」
黒月は呆れたようにため息をつく。
「尾行中? なら叫んでどーすんの。あと、その服変。目立ってる」
少年が指さしたのは、加奈子のロングコートである。
兄はおろか少年にまでロマンを否定され、加奈子は「ぐぬにゅー…!」と苦虫をかみつぶした。ダンダンと地団駄をふむ。
洋介が商店街の奥を見ると、既に三人はかなり遠くへ進んでいる。駆け出した洋介。それに気づいた加奈子も後を追った。
と。
後ろから猫野黒月がついてくる。
「ついて来ないでよ!」
加奈子がと叫ぶと、少年は「面白そうだし」となおも追いかける。中華料理店の陰で洋介と合流すると、黒月は
「……で、誰を尾行してんの、」
と訊いた。
洋介が無言で三人を指さすと、少年は「うわ…」と顔を歪める。
「二人も魔法使い見つけるとか……。ホントなんなの」
「「えっ?!」」
洋介と加奈子は同時に声をあげた。
魔法使い――。洋介は顎に手をあて、思い出した。確かフジムネの話では、急に転校してきて生徒会を滅茶苦茶にした、と……。動向が、最初の頃の高橋憲太とかぶる。そしてそれを許した生徒会長もグルだとしたら。
「あの二人組、やっぱり……」
「? 二人組?」
黒月が首をかしげた。
「もしかして、男二人のことだと思ってる? ボクが言ってるのは、左端のお姉さんと、右端のお兄さんの二人だよ」
洋介と加奈子は一拍間をおき、再度同時に声をあげた。
「「は??!?」」