≪ウィッチーズ・マスター≫

U−10 メロン×コーラ

 双子はすぐにやってきた。
「「兄さん!!」」
 二人で同時に叫び、
「ずっとさがしてたのに!」
「ずっとどこいってたの!」
 二人それぞれ高橋憲太に抱きついた。縄を解かれた高橋は、起き上ると無言で双子の頭を撫で、子供たちは安堵からか盛大に泣きだした。
 その横で腕を組みながらため息をつく猫野黒月に、洋介は再度尋ねる。
「成人……って、ハタチ過ぎてるって事か?」
 黒月は、ちらりと洋介を見てから視線を戻すと、またため息をついた。
「説明メンドー…。それに、知るってコトは「関わる」ってコトだけど?」
 ――関わる。
 洋介はチェリィの笑顔を思い出した。
 何も知らずに関わるのはもう沢山だ。出会ったら勝手に怒ってきて勝手にバイトと決めつけて、笑って、心をつかまれた挙句、勝手に隠しごとをされ勝手にヒトヒラ消え去った。
『――ヨウスケ、ホントごめん……あたし、初めてちゃんと「一人」として見てもらって、嬉しかった……だからコレ、もらってほしいんだ――』
 制服の上から、ペンダントを握りしめる。
 心なしか、ペンダントが熱をもっているようだった。
「……っ、憲太!」
 高橋が顔をあげる。
 洋介はその目をまっすぐ見つめた。
「おまえ倉之助に心配かけてたんだぞ! 友達なんだからもっと―…」
「先輩、」
 遮ったあと、高橋憲太は立ちあがった。
「オレ、練習したいんで。一旦そっちの陰のほうに移動してから結界解きましょう。レモンもピーチも向こうに帰れ。じゃあな」
「そんな……兄さんボクたち」
「帰れ。いいな」



 練習が終わったあと、高橋憲太は洋介を一軒家に案内した。表札には「高橋」と掲げてあり、入るとリビングには老夫婦。息子自慢なのか、高橋の着替えを待っている間、小さい頃からの野球の写真を洋介に見せた。
「――母さん。オレ、先輩と話あるからちょっと出てくる」
「気をつけるのよぉー」
「わかってるって」
 住宅街を抜け、しばらく大通りを歩き続ける。最初に口をひらいたのは、高橋憲太のほうだった。
「人間界で迷ってるところを、拾ってくれた人たちッス。小さい頃の写真は本物のほうの息子で、そっちはもう……」
「だから帰れないのか?」
「………」
 地獄ラーメン激辛本舗がある小さな路地に入り、自動販売機からコーラを買う。高橋はすぐに飲みほした。はす向かいの空き地は、ついこの間まで黒一色の喫茶店があった所で。
 次に口をひらいたのは、洋介のほうだった。
「チェリィはさ……、まぁ、出会ったのは偶然だったんだけどな。なんかちっちゃくて、コロコロ表情変わって面白い奴で、でも、スグ居なくなっちまった。お前、好きだったんだろ。日記見たぜ」
「好きっていうか、憧れで……って、日記!?」
「あぁ。カノジョと、同じ、道、走る、だっけ?」
「あああああー〜〜…!!!」
 高橋は奇声を発しながら頭をかかえてうずくまった。
 が、すぐに
「違うちがう! 今は!!」
 立ちあがった。
「オレ、駄目ですか? 野球続けちゃ駄目ですか??! 先輩っ!」
「だってお前ハタチ過ぎてんだろ?」
「ハタチじゃないです! 見た目は!!」
「見た目は?!?!」
「戸籍も!」
「詐欺じゃんッ!!!」
 ゼーハーゼーハーしている二人をよそに、地獄ラーメン激辛本舗には次々とお客が出入りしていく。
「――もちろんタダでとは言いませんよ先輩。姫様が向こうに戻られたのなら、弟たちと一緒に向こうに旅行できるようにします。きっと城にいますから、サワーク・フォカリア様への挨拶のついでに会えたら儲けものだと思うし」
「………」
「佐々倉先輩?」
「ひ、……ひめっ?」
「何言ってんですか先輩! カシ様の御息女であらせられるチェリィ王女様のことですよ」
「はああああー〜〜!?!?」
 今度は洋介が奇声を発した。
 その様子をいぶかしげにジロジロ見ながら、地獄ラーメン激辛本舗にお客が入っていく。
 高橋はビルを見上げ「お前たち、いるんだろ!」と声をかけた。すると一陣の風と共に双子の少年・レモン&ピーチが現れる。高橋憲太は咳払いしてキリッと双子を見つめた。
「オレはまだ当分戻りません。高校を卒業するまでの約八年、お前たちが農園の手助けをしてほしい。サワーク様にもそう伝えてくれ。不意打ちみたいな形になったのは謝るけど、留学と思ってほしい、と」
 レモンが「わかりました、兄さん」と小さな声で言った。
「それから、佐々倉先輩が一週間ほど向こうに行きたいそうなんだ。手続きが面倒だと思うが、事例は何件かあったはずだし、やってくれるか」
 ピーチが「ハイ、兄さん」と小さな声でこたえた。
「じゃ、そういう感じでいいッスよね、先輩」
「よくねーよ!!」
 洋介はあわてて手を左右に振った。
「一週間も休めねーって! 家とか学校とか……つうか憲太は二年なんだから高校はあと一年半くらいだろ、なんだよ八年って」
「あ、向こうとこっちで時間の流れが違うんで。こっちの一年が向こうの五年に相当するんで」
「へ……へー…、そう……なのか?」
「「ハイ!」」
 双子が元気よく同時に返事したところで話がまとまり、洋介は次の土日を使い「向こう」に旅行することとなった。

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