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魔法使いたちの世界、という未知の領域へ旅するにあたり、洋介の一番の心配事は交通手段であった。
乗った事もない飛行機……乗った事もない船…はたまた乗った事もない寝台特急か。それとも突如空間をワープするのか、アタッシュケースの中から謎の階段が続くのか、どれにせよ、驚きすぎて心臓が止まるのではないかと洋介は思っていた。
が。
土曜の昼。
双子が佐々倉家に現れると、彼らは玄関先に立ったまま
「じゃあ、行きましょう」
「では、行きましょう」
と洋介の服の袖をひき、ガチャリと玄関のドアを開けると、そこはサックリ異世界だった。
いつもの、佐々倉家の門へ続く短い石畳ではなく、明らかに大理石とわかる白い石畳。洋介がハッと顔をあげると、門の向こうにあるはずのいつもの住宅街は、天井が高くのびた廊下に変わっていた。
廊下の両はじには、紫色の軍服を着た男たちがピシリと直立したまま等間隔に並んでいる。
「大丈夫です、まっすぐ歩きましょう」
とピーチ。
「つきあたりの部屋が入国審査室ですから」
とレモン。
二人の少年のあとを付いていくような形で、洋介はおずおずと歩を進めた。途中、ずれ落ちそうになった野球用のバッグを洋介が持ち直そうとした瞬間、両脇の男たちがバッと白く長い何かを構えた。洋介は心底ビビったが、よく見ると刀でも銃でもなく、奇妙に曲がった白い棒だったので肩の力が抜けた。――その棒が、攻撃魔法を効率良く相手に命中させる道具だと洋介が知るのは、まだまだ先の話である――。
三人は長い廊下を抜け、入国審査室に入った。
手前には長いテーブルとそこに腰かける三人の男たち。奥には五つの扉がある。扉には、左から「青・緑・白・黄色・赤」の色が塗られていた。列をなす人々は、手前の三人の男たちに要件を話すと、五つの扉のどれかに割り振られて扉の向こうへ消えていく。行列は順調に進んでいた。
「……っていうか、けっこう人いるんだな…」
洋介がボソリとレモンに話しかけると、レモンは
「でもリスキーですから。覚悟決めないと旅行できませんよ」
と返した。
「は? 日本のゲーム大会に出るのが、そんなにリスキーなのか?」
「う〜ん、でもボクたちは兄さんを探すついでだったから、なんとも言えませんね。こんな格好になっちゃうのは最初から織り込み済みでしたし」
レモンの要領を得ない言葉に洋介が考え込んでいるうちに、審査の順番が回ってきた。ピーチが前に出る。
「ボクはクリーム領ゼルフラッペ家が三男、ピーチ・ゼルフラッペ。こっちは次男のレモン・ゼルフラッペ。こちらのエンコーダは従者です。広範囲捜索願いが出ていたメロン・ゼルフラッペの件で、サワーク・フォカリア様にお目通り願いたいのですが。緊急の用なので、必ず今日中に!」
男たちはペラペラと書類をめくったあと、中央の白い扉を指差した。
扉を開けて中へ入ると、応接室を思わせる小さな部屋に出た。赤く金の模様が入ったカーペットの中央に、ロココ調の低いテーブルやソファが中央に置かれている。壁は全体的に分厚いカーテンがたれ下がっており、絵画が掛けてある一部分だけ白い壁が見えた。窓はなく、天井のシャンデリアが昼のような強烈な光を放っていた。
ぎこちなくソファに腰掛け数分、扉が開く音とともにバサリとカーテンが持ち上がった。
鶸色(ひわいろ)の軍服に身を包んだ人物が、ツカツカ軍靴を響かせ入ってきた。少年たちが立ちあがったため、洋介もあわてて立ちあがる。
その人物は、立ちはだかるように洋介のすぐ目の前で止まった。茫然と見上げたままの洋介に、その人物は
「私は元老院七光のうちがひとり、四大候族御目付役のサワーク・フォカリアだ。初めまして」
と握手を求める。
ガッチリとした手は、明らかに肉体を鍛え上げた者のそれだったが、発した声は甲高く、また、茶色の髪を左右に可愛らしく結いあげている事から、たぶん、おそらく、たぶん、女性なのだろうと洋介は見当をつけた。
双子はすかさず小声で
「……挨拶だよヨースケさん…!」
「……領と家と名前だよヨースケさん…!」
洋介を促した。
「あっ……えっと、初めまして。俺はー…えっと日本? の? あー…、佐々倉洋介……、あ、の、佐々倉家の長男? っていうか…、はい、えっと、そんな感じで……あれ? 日本語??」
挙動不審な洋介をよそに、サワークはドッカリと三人の向かいのソファに座った。足を組み、持ちあがったほうの膝に両手を組んで置く。仕草は完全に男の軍人だったが、ピーチが「本日も麗しい御姿、拝見できて光栄に思います」と挨拶したため、やはり女性なのだと洋介は結論づけた。
レモンとピーチは交代で、メロン・ゼルフラッペの現在の居場所について、また、あと8年は日本に留学したいという意思、その理由は野球が楽しいからだという事、そして、コーコーヤキュウのチームキャプテンである佐々倉洋介をこの地に招き、今までメロンに良くしてくれたことを労いたい、などなどを話した。(※なお、最後のあたりはもっともらしいが双子が即興で作った方便で、洋介も初耳である。)
サワークは、一切口をはさまずにじっと二人の話を聴いていた。話が終わると瞳を閉じ、
「――許可する」
と一言。
瞳を開け、もう一度言った。
「メロン・ゼルフラッペの長期国外滞在を認めよう。認可証明書は、こちらの事務局からゼルフラッペ家へ郵送する。家長のサインとともにクリーム家のほうに送り返すこと。それから、日本のエンコーダ・佐々倉洋介のクリーム領内での7日間の滞在を許可する。……まぁ、ただ、エンコーダというだけで滞在許可をするのもなァ……」
サワーク・フォカリアはちらりと洋介を見ると、急に思いついたといった顔つきで身を乗り出した。
「君、「ヤキュウ」とは一体どういうものだ? 体を動かすゲームか? それとも頭を使うゲームか?」
「え?? っと、体を動かすスポー…」
「よしきたッ!!」
勢いよく立ちあがったサワークは大きく伸びをすると笑顔で洋介にこう言い放った。
「君の滞在条件は、運動ゲームをして一つでも私に勝つことだ!!」