その左手首が見えたとき、僕は思わず
「あ。同じだ」
とつぶやいてしまった。
ココはコンビニのレジカウンター。僕はお客にお釣りを渡すトコロ。
お客は黒髪色白美人。彼女は、どうやら僕のコトバに気づかなかった
らしい。スタスタと出口へ。
朝の忙しさは尋常じゃない。見送る暇もなく次のお客の相手をして
いて、その子のコトはもう頭になかった。
次の日。
彼女を見かけた。
例のリストカットの色白美人。
僕は興味本位で、数十メートル彼女の足跡を踏んだ。ケーキ屋の手前
で飽きたので、すぐやめた。
また次の日。金曜日。
店に彼女が来た。
おとといは髪を下ろしていたけれど今日は二つに結っている。彼女の
制服は大巴高校だ。有名な進学校。
高校生だったのか。
ふーん。
カゴにノートを入れた彼女は、なぜだか僕のレジに来た。
ピピ。
「147円が一点」
チャリン。
彼女は200円を出し、僕は義務的に金額計算してお釣りを彼女に
渡した。
と。
彼女の口が、少し、動いた。
『あ。同じだ』
僕にはそう動いたように見えた。
僕の手首にも傷があるから。
★
僕が手首を切り始めたのは、今から……何年前だか忘れた。
とにかく中学生で、季節は冬だったと思う。
その時、僕は典型的ないじめにあっていて、誰にも何も言えず、ただ
蔑みの視線を受け止めるだけだった。
そして
「お前ウゼーんだよ。消えろ」
と言われて僕は
「うん、そうしようかな」
筆箱の中にあったカッターを左手首にあてた。
スー…っと。
そんな効果音がぴったりな感じ。僕はカッターを滑らせて、消えろと
言った奴は泣いて謝った。その目には恐怖も混じっていた。どうして?
僕はただ、楽になりたかったダケなのに。
今はもう、左手首だけでは飽きたらず腕にまでせりあがってきている。
いつになったら他の方法で楽になれるのだろう?
毎朝コンビニへ来る彼女に聞きたい。
「いらっしゃいませー!」
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