![]() ![]() |
「梅のほうがすき」
加奈子はそう言って、洋介のご飯の上に乗っている梅ぼしを自分の茶碗に移す。
佐々倉家最後の一個だった梅干しは、加奈子の口にかぷりと入った。
「……ちっ、しゃーねーな」
洋介は朝食の席から立つと、のっそりとした足取りで台所へと向かった。冷蔵庫から納豆を取り出し、追加の醤油も一緒に持って来る。リビングのソファに座るとプラスチックカバーを開け、混ぜ合わせはじめた。
佐々倉家の父と母は、昨日から別々の出張で居ない。
兄妹にとってはもはやこれが当たり前の風景だったが、今度ばかりは期間が違う。
洋介は妹と一緒に、半年間の草木の水やりや掃除、ご飯当番を決めなければならなかった。
「じゃーんけーんっぽん!」
加奈子はグー。
洋介はパー。
「うっし、オレがまず飯担当」
兄は大きなチラシを裏にして、キュキュゥーっとマーカーで当番と名前を書いた。
「じゃーんけーんっぽん!」
加奈子はまたグー。
洋介はチョキ。
「んじゃ、加奈子は玄関掃除な」
キュキュゥー。
「ちょっと待ってよお兄ちゃん!」
――ドカッ!!
加奈子のドロップキックが炸裂!
「あたしが勝ったんだから水やり当番したいの! って、あ〜あ、書いちゃったし。修正機、修正機」
「それ言うなら修正液だろ。なんだ機械って」
ツッコミを入れた洋介に、加奈子は「ふふん」と笑った。
妹は部屋の角に置かれていた赤いランドセルへと向かう。座って何やらカチカチごそごそ。立ち上がり、手のひらサイズの小さな機械を兄に見せた。
「あるんですよーだ」
チラシの裏にピーっと機械を引くと、白いテープのようなものが出てきて字の上にくっついた。
「ハイテクだな」
と洋介が感心したように言うと、加奈子は
「これだからお兄は、時代遅れって言われるんだよ」
水やり当番のところに自分の名前を書いた。
「じゃーんけーんっぽん!」
加奈子はチョキ。
洋介はパー。
「やっっったあ! また勝ったぁ!! えーっと、じゃあ、なにやろっかなぁ〜…」
こうして佐々倉家の当番制度は、洋介が炊事洗濯担当、加奈子があらかたの掃除と植物の世話担当となった。
だが、叔母の四ノ二が定期的に掃除に来るため、加奈子は植物に水やっておくだけでいいことに、兄はまだ気づいていない。