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城下町の朝市は、木曜日がいちばん込む。
色とりどりのテント。樽いっぱいに積まれた野菜。木箱からはみ出る魚や貝。行き交うサンダル。商売人の呼び声。人々は綿のトーガや、シャツのうえに皮をなめしたベストを着ている。
その朝市の入り口に、異質とも呼べる人物が立っていた。
アロハシャツと短パンに、スリッパを履いたオッサンである。
アロハは原色の黄色に鮮やかな赤のハイビスカス柄。短パンは南海プリントの青。スリッパはふかふかの白。犬の顔が前面についている。
「いやぁ〜、ここが朝市かぁ〜! 活気あるねぇ〜!!」
「リッツ様……! 声が大きいですよ」
オッサンの横についている青年と女性が、あわてて周囲を見渡した。しかし住人達は、異質な人物に無視を決め込み、彼ら三人を避けるように路地を歩いていく。
青年、宮廷警備隊の一人ラングドシャ・プリッツはため息をついた。
「なんでその服装にしたんですか、リッツ様……」
女性、宮廷警備隊の一人メルカス・リトルシューは首を左右にふった。
「ま〜、お忍びってほどでもないっしょ、広報には顔が載ってるしぃ〜」
オッサン、カシ領三賢者が一人リッツ・ブリュッセルは、物珍しそうに朝市を歩き、果物を手に取り、匂いを嗅いだ。柑橘系の香りである。
「――あんらぁ、賢者様じゃねぇのが?」
青果店の主人は一瞬驚いたが、すぐに売り込み文句をマシンガンのようにまくしたてた。言葉の嵐にぽかんとするリッツ。宮廷警備隊の二人は、素早くリッツの手から果物を奪い取り、店頭に返し、愛想笑いでごまかしながらリッツの背中を押した。
「リッツ様、買っちゃダメですからね!」
「リッツ様が買うと、それだけで宮廷お墨付きになっちゃうんでぇ〜、ホント、自重してくださいよぉ?」
「わーった、わーったてば! ラング、ちょっと痛ェよぉ」
「もっ、申し訳ございません!」
人ごみをかきわけ、三人は朝市でにぎわう通路を歩いていく。
野菜や魚の生鮮ブースを抜けると、その先には生花のブース、城下町の名物揚げパン、惣菜、と商品が移り変わっていく。ひとたび足をとめて覗くと、とたんに始まる店主たちのマシンガントーク。人ごみをすり抜け、揚げパンを手に駆けていく子供たち……。
ようやく路地の終わりまで来た時、朝日が完全にのぼりきった。と、突然。大きな鐘の音が響き渡る。すると、商売人達は一斉に店じまいをはじめた。商品を荷台に積み、テントを解体し、客は蜘蛛の子をちらすように走り去り、ものの十分で朝市は消えうせた。
「すんげぇな……、毎日こんななんか?」
「もちろんです。ゴミひとつ残さない旨、朝市協定で決まってますので」
「戻って朝食にしましょうよぉ〜♪ もうお腹ペコリンコですよぉ! ――あっ、でも、ちょっと待ってくださいよぉ〜?」
メルカスが、リッツに紙袋を渡す。中身は、城下町名物の揚げパン。
「ナイショですからね! 城に着くまでに食べちゃってくださいよぉ」
「マジか!! うひょ〜っ、メルちゃん気がきくなぁ!」
はふはふと、嬉しそうに揚げパンをほおばるリッツを後ろから眺め、ラングドシャは肩をすくめた。
「……全っ然内緒になってないけど…、まっ、いいか」
頭の中が平和な賢者リッツ・ブリュッセルと同調するように、城下町も毎日、平和そのものであるのだから。