■ 津軽弁→日本語 解釈 ■

■ 「雀こ」 太宰治 ■

 原文 青空文庫「雀こ」

「雀っこ」
(こ、は、ちいさくて可愛い物につける愛称。飴っこ、だら(銭)っこ等)


(作者は言う)
 長い長い昔話を教えてあげようかな。
 山の中に橡の木一本あったとさ。
 その頂点に、からす一羽来て止まったんだとさ。
 からすが、があと啼けば、橡の実が、一つぼたんと落ちるんだとさ。
 また、からすが、があと啼けば、橡の実が、一つぼたんと落ちるんだとさ。
 また、からすが、があと啼けば、橡の実が、一つぼたんと落ちるんだとさ。

****

 ひとかたまりの集団の子供たち、広い野原に火三昧して遊びふけっていたんだとさ。
 春になったら、雪こ(こ…愛称)溶け、ひろいひろい雪の原のあちこちに、広野の黄はだの色の芝生こ(こ…愛称)に火をつけ、それをね、野火と称して遊ぶんだとさ。
 そうしたぐあいに、お互い野火をして隔て、子供たちは二組にわかれていたとさ。
 片側に散らばった5・6人、声を揃えて歌ったとさ。

 ――雀、雀、雀こ欲しい。

 他のほうの子供たち、それに応えて

 ――どの雀、欲しい?

 と歌ったとさ。
 そこにきて、雀っこを欲しいと歌ったほうの子供、打ち寄り、相談したのだと。

 ――誰を貰えばいいのかな?
 ――アホの子(*1)のヒサのこと貰えばどうだい?
 ――鼻水たれてるし、汚ねーわ。(要らないニュアンス)
 ――タキならいいんじゃない?
 ――女腐れ(女を下に見る差別用語)だから、(一番にするのは)おかしくね?
 ――タキは、いいじゃん。(なぁ、皆、と呼びかけるニュアンス)
 ――そうだな。

 そうした具合に、とうとうタキのことを貰うように決まったんだとさ。

 ――右側の端っこの雀こ欲しい。
 って、歌ったんだとさ。

 タキが居る側のほうでは、意地悪くやろうとしたんだとさ。
 ――羽っこが無いのであげられない。

 ――羽っこあげるから飛んで来い。
 こっちでこう歌い返したけれど、向こうのほうでは調子に乗って、また歌ったんだと。

 ――杉の木、火事だから行けないよ。

 けれども、こっちの方ではとても欲しくて歌ったとさ。
 ――その火事避けて飛んで来い。

 向こうのほうでは、雀っこ一羽離してよこしたんだとさ。タキは雀、双方の腕を翼みたいに広げ、ぱお、ぱお、ぱお、って羽ばたきの音を口で喋って喋って、野火の炎よけて飛んできたんだとさ。
 これ、うちの地方の、子供たちの遊びごとなんですよ。
 こうして一羽一羽と雀こ貰えるんだけれど、お終いに一羽残れば、その雀は今度は歌わなきゃいけないのだそうだ。

 ――雀、雀、雀っこ欲しい。

 じっくり分析しなくてもわかる事なんだけれど、これは「うだでぇ遊びごと(*2)」なんだよね。
 一番先に欲しがられた雀は大きく(楽しさやカースト制上位だという利益を)得るけども、お終いの一羽は泣いても泣いても足りない(幸せがない)ではないか。
 いつでもタキは、一番先に欲しがられるのだとさ。いつでもマロマサは、お終いに残されるのだそうだ。
 タキはよろずよ屋の一人娘で、うんと威勢よく育ったのだそうだとさ。誰と戦っても負けた事はなんだとさ。冬、どんなに(今まで見たことない)恐ろしい雪の日でも、くるめん(吹雪をさけるため顔面を覆う布)を被らないで、たわわに成るどの林檎っこ(こ…愛称)よりも赤いほっぺたを吹きさらし、どこにでも行けたのだそうだ。
 マロマサは、たかまどのお寺の息子で、体つきが細くてボサッとしていて、みんなみんな、仲間外れにしていた(*3)のだそうだ。
 さっきから、マロマサは、着物を乱して歌っていたんだとさ。

 ――雀、雀、雀っこ欲しい。雀、雀、雀っこ欲しい。

 不憫っぽい様子…(作者が外側から見ている感想)、これで二度も、売れ残りになってしまった。

 ――どの雀、欲しい?

 ――真ん中の雀っこ欲しい。
 タキのことを欲しがるんだとさ。中の雀っこのタキ、野火の黄色い黄色い炎ごしに、気分を悪くしたような目つきでマロマサを睨みつけたとさ。

 マロマサはおっとりした声っこで、また歌ったとさ。
 ――真ん中の雀っこ欲しい。

 タキは、他の子どもたちに、何やら、こしょこしょと(小声で)命令したんだとさ。他の子はそれを聞き、ニヤニヤして笑い笑い、歌ったのだとさ。
 ――羽っこが無いのであげられない。

 ――羽っこあげるから飛んで来い。
 ――杉の木、火事だから行けないよ。

 ――その火事避けて飛んで来い。
 マロマサは、タキがぱおぱおと飛んでくるのを、当然来るだろうといった感じで待っていたんだとさ。けれども、向こうのほうでゆったりと(速度のことではなく精神的に余裕で、みたいな意味合い)歌うのだとさ。

 ――川が大水で行けません。

 マロマサは首っこを傾げて、分析したんだとさ。なんて歌ったらいいのかな、ってすごく真剣に考えて考えて、
 ――橋を架けて飛んで来い。

 タキは、人魂(鬼火)みたいに、目を怒りのあまり燃やして、独りだけで歌ったんだとさ。
 ――橋っこ流れて行けません。

 マロマサは、また首を傾げて分析したんだとさ。なかなか考えられなくて。そのうち、声をたてて泣いたのだとさ。泣き泣き喋ったんだと。
 ――阿弥陀様や。

 子供たちはみんなみんな、笑ったんだとさ。

 ――馬鹿の念仏、雨、降った。
 ――根暗な愚図の泣き虫が。
 ――西曇って、雨ふった。雨ふって、雪とけた。

 そのとき、よろずよ屋のタキは、きずきず(*4)と叫び声をあげたんだとさ。
 ――マロマサのクソ野郎が!(*5)私の心を知らないで、お念仏(欲しがって喋り続けて)。あわれ、馬鹿らしいわ!

 そうして、雪玉を握ってマロマサにぶつけたんだとさ。雪玉は、マロマサの右肩に当たり、ぱららっと白く砕けたんだとさ。マロマサは驚いて、泣くのをやめて、雪が溶けかけた黄はだの色の広野を、どんどん逃げていったとさ。

 そろそろ夕方になったとき。野原、暗くなり、寒くなったんだとさ。子供たちは、めいめいの家に帰り、めいめい婆様のこたつに潜り込んだのだとさ。いつもの夕飯のとき、(婆様が)同じ昔話をして、聞くのだとさ。

****

(婆様の言葉)
 長い長い昔話を教えてあげようかな。
 山の中に橡の木一本あったとさ。
 その頂点に、からす一羽来て止まったんだとさ。
 からすが、があと啼けば、橡の実が、一つぼたんと落ちるんだとさ。
 また、からすが、があと啼けば、橡の実が、一つぼたんと落ちるんだとさ。
 また、からすが、があと啼けば、橡の実が、一つぼたんと落ちるんだとさ。

■ 注釈 ■

*1
 はにやすとは、「ほンずなし」のことを他に分かりにくいように書いたのだと思います。ほんず(頭)無し=知能がない=低能。差別用語ですがマイルドにアホの子としました。女腐れもそうですが、津軽はわりと罵倒や差別の言葉の種類が多いです。腐れどんずとか、くちゃべりザメとか(笑)。

*2
 うだでぇとは。非常につまらない、面倒くさい、いやらしい(性的な意味ではなく、性格がひん曲がっているみたいな意味のいやらしい)など、自分にとって煩い対象を嫌がる意味合いがあります。「あらんど(あいつら)うだでぐ(つまらない事を)くちゃべて(がちゃがちゃと喋って)」とか「なもかも(何もかも)うだでして(面倒くさくて)まね(だめだ)」みたいな使い方です。この場合の「うたて遊び」は「ゲーム性がいやらしい遊び」「作者にとってクソつまらない遊び」といったところでしょうか。
 そして、津軽弁を知らない人間は「うたて遊び」を「歌って遊び」と勘違い解釈する罠仕様となっています。これは絶対ワザとです。壇が勘違いしているのを、きっと太宰はこっそり笑ったのだと思います。太宰自身もうだでぇ人間ですね。

*3
 仲間外れといじめの中間地点というか。みんなそれぞれ、マロマサと一対一だと普通に話す。でも大勢対一だと仲間外れに(必然的に)なっちゃう感じ。そこに誰も疑問を抱いていない状態。

*4
 きずきず、は、きじきじですね。うなるようなギ〜っというか、野太いガラガラというか、もう心の奥底から意思を絞り出すビリビリといった感じの声です。

*5
 愛ごこ、には実は二通りの意味があります。
 可愛らしい子供、といったプラスの意味と、小憎たらしい、というマイナスの意味です。
 例えば皿を割った子供に対して親が「な〜んぼめごいっきゃの!」と言ったときは、「なんて可愛いの!」ではなく「こンのクソガキが〜〜!!」という意味です。そして子供の方では、クソガキと言われたことは理解しつつ、額面通りの「愛ごこ」としてのリアクションを返すという、いわば意趣返しのようなやりとりもあったりします。