■ 課題詩 ■

■ 「夏の弔ひ」 立原道造 ■

 逝いた私の時たちが

 私の心を金にした 傷つかぬやう傷は早く愎るやうにと

 昨日と明日との間には

 ふかい紺青の溝がひかれて過ぎてゐる


 投げて捨てたのは

 涙のしみの目立つ小さい紙のきれはしだつた

 泡立つ白い波のなかに 或る夕べ

 何もがすべて消えてしまつた! 筋書きどほりに


 それから 私は旅人になり いくつも過ぎた

 月の光にてらされた岬々の村々を

 暑い 涸いた野を


 おぼえてゐたら! 私はもう一度かへりたい

 どこか? あの場所へ(あの記憶がある

 私が待ち それを しづかに諦めた――) 

■ 立原ぷよぷよおばけ説 ■

 ぷよぷよおばけとは、SEGAの対戦型パズルゲームぷよぷよの超上級者を指し示す言葉。
 素点計算を完ぺきにこなし、17連鎖以上を組み立てることができる人間のこと。


 この詩を最初に読んだ時、描写が視覚的に仲間はずれになっているのが面白いと感じました。
 例えば最初の2行

      >逝いた私の時たちが
      >私の心を金にした 傷つかぬやう傷は早く愎るやうにと

 を見てみる。
 言葉の意味の区切りとしては「逝いた私の時たちが、私の心を金にした。」で1行を使い、「傷つかぬやう傷は早く愎るやうにと」で2行を使う、というのが一般的です。
 立原の書き方だと「逝いた私の時たちが、私の心を金にした。」を、まるでぷよぷよのように縦に並べて「傷つかぬやう傷は早く愎るやうにと」さんを、単独で読ませるようにしている。
 このような場所がいくつも見えてくる。意味を分割し、パズルゲームのように並べ替えていく面白さを、立原は体現しているのではないでしょうか。
 もうひとつ例をだします。

      >それから 私は旅人になり いくつも過ぎた
      >月の光にてらされた岬々の村々を
      >暑い 涸いた野を

 この辺りも、スペースを入れることで意味を分割しています。
 「それから(私は旅人になり)いくつも過ぎた」という風に読めて、「私は旅人になり」が間に入っている。これは普通だと思いきや実は、次の「月の光にてらされた岬々の村々を 暑い 涸いた野を」をポンと追い出して描写を仲間はずれにしている。
 描写を間に入れ、並べ替えてみましょう。
 このようになるはずです。

 それから 私は旅人になり
 (月の光にてらされた岬々の村々を)
 (暑い 涸いた野を)
 いくつも過ぎた

 しかし、別の場所では逆の方法にしている、入れこむ方法を変更しているのがこの詩の面白さです。

      >投げて捨てたのは
      >涙のしみの目立つ小さい紙のきれはしだつた

 こちらは前述の方法とは逆で、「投げて捨てたのは(涙のしみの目立つ小さい紙の)きれはしだつた」と、描写を間にしっかり入れています。
 なぜこのように、描写を仲間はずれにしたり間にしっかり入れたりと、同じ一篇の詩の間で方法が変わっていったのか?
 その答えは、「過去と現在の書き分け」にありました。


 @過去回想

  ・旅人になって過ぎた→過ぎた場所の追加情報
  ・何もがすべて消えてしまつた!→筋書きどほりに
  ・あの場所へ→(あの記憶がある私が待ち それを しづかに諦めた------)

 @現在進行

 ・投げ捨てたのは(〜描写〜)だった
 ・昨日と明日との間には(〜描写〜)ひかれて過ぎてゐる


 過去回想部分では、描写を「追加情報」と言う形で後出しにすることで、読者にも読んだそばから回想させる……回想に巻き込む効果が得られていると感じました。
 さて。
 このように、立原は、本来であれば1行で書かれ得るはずの描写を分割して随所に配置するというパズルを行っているわけですが、もし立原道造がぷよぷよをやったら、どんな連鎖が組めるのか?
 「夏の弔ひ」の文をぷよに変換してみました。

■ 夏の弔ひをぷよ並べ(全消し!) ■

 赤
 赤 緑
 赤
 黄

 緑
 黄
 青 緑
 青 青

 青 青 黄
 黄
 黄 黄

 緑 赤
 緑 赤 赤
 緑 黄 黄

ぷよ夏