■ 01-10 ■

柿ピーのピーだけほおばる晩酌に見かねた妻が三日月をさらう

顔はもう妻にそっくりな我が子だが耳の形はワタシの遺伝だ

年明けてインフルエンザで熱出してあのおみくじの大吉はウソか

ありし日の想いを沈め椿落つ遺影の笑顔に目を閉じ一礼

君いそべ私あんこと論争すカルチャーショックはずんだとくるみ

髪をかかえ古い落日この地平遠くまで月が叶える前に

意識は遠くの海まで走ってもう戻らないですね

花火散り流星が浮かぶ隅田川どうか願いを渡って海へ

残響をしずかに待つ盆の仏間触れたらいいくちびるを噛んで

ベルの音玄関に落ちた暑中見舞い裏を返して今朝の活力に

■ 10-20 ■

あの子の目「そんなんじゃない」という叫び無視したら雨打たれて消えた

湯気の立つ打ちたてお餅と粒あんをほおばる隣で祖母が笑う

ぼた雪の湿る巨大な六角形喉奥鳴らすこのシズル感

爪切りが?耳かきさんと逃避行?そこじゃないならうーん子機の棚

納屋に吊り首切り羽根をむしる素手痴呆の祖父もと思い首振る

文学があふれる秋にふさわしい別れの言葉と辞書をひきつつ

雁が鳴き御影に椿落ちきりてか細き遺影に紅を引く様

美しいという言葉が詐欺なら雪をさかさまに降らせてみよう

ぼた雪に傘をささずは私だけ都会の冬往く北国育ち

晴れ渡り昨日の雪は融けきるも日陰に氷見つけ踏む道

■ 20-30 ■

吹きすさぶ故郷の幻影首をふり緑萌ゆ道伸展の一歩

薄切りレモンを三枚飛ばしハチミツも恋に蓋をする

執拗なまでのアルペジオで月をさいたのは君である!

塩漬けを噛むと桜が香り散る清めの川は冷やか上燗か

可視光線上の城より不気味な希望が舞い降り伏す

雪恋し散った桜が嘲笑うこのまま遠くへ逝ければと踏み

霧雨に香り通して散る藤の葉間(はざま)で泳ぐ触れられぬ傘

母親がひっそり植えた芝桜倉庫の裏でのしのしと咲く

葉桜と共に散りゆくハゲ姿愛でる妻の手こどもが握る

閉店後人間モドキに服着せて窓辺に連れ出し花火のデート

■ 30-40 ■

元気でねアルデバランにさようなら下弦の秋はきっと見れない

吹雪く声あるひつぎ足した暗月の祈り積もれ積もれ

咲かずに散り落つ蕾を食す鳥どれ一寸絞めてやらうか

春の夜のかいな眠りて静かなる星はさめざめ我が心みて

冬の夕日は君を美しくさせるよ不意に影から消えそうで

人生で一度は乗りたい砕氷船着けば南極日帰り希望

生ぬるい牛乳と砂糖ひとさじと毛布と本をお供に眠る

喫煙室にて会い夏のアツさを語り合うひと時嬉し

長編の小説書けず千文字のバトルも書けず川柳どまり

牽牛星ながめる心またたきて明日の便りをねがう羽衣

■ 40-50 ■

正午すぎ端居のジジイと茶菓子賭け目隠し将棋も2敗更新

鳥放つ八月十五の日の出前ひと鳴き去りてがらんどうのカゴ

背後より余寒の予感がせり上がるタンスの中身はまだこのままで

滝落ちる木の下やみて早三日多岐亡羊とプラス思考で

匂い立つ洗濯物に囲まれて梅雨明け待てず焼肉はじめる

第三のビール片手に延々と上司がホップの味わい語る

舞い落ちて肩たたく葉は君からの故郷の便りと詩集にはさむ

病弱を気取って窓の枯れ葉みつパブロン飲んだら翌朝元気

枯れた葉を深まる山の底に敷く眠りを夢む閉じた目の先

椿を潰し汁を吸うと治るとデマ拡散し一輪も無し

■ 50-60 ■

牡丹鍋みな箸でつつき感染し猪神の呪いと恐るる

マスクせず危機感無しと記者うたう実際は買えず毎度死覚悟

買ってきたエアマスクなるスプレーを顔面噴射後メガネに気づく

引きこもり快適すぎて早十日そろそろ真面目に筋トレしよ…

ベランダに雪がちらりと沈むウィルスもこの位見えればなぁ

映えるメシSNSにアップして爛漫としたいいね来て