■ 201-210 ■

五月雨の車中で待ちぬ父の影

雨降ればベランダみょうがも嬉しそう

梅雨時期の送り迎えはめんどいな

雪解けと思うそばから夏至来たり

夏至の夜の窓からまんどろ銀の爪

父の帰りを待つ駅かさ流し見て

春の花摘む娘あれば踏む息子

アラさびじゃフェーンも届かぬやませの地

長沼やボートの熱気も今は無く

信号で停まるとなりに青紫陽花

■ 210-220 ■

白魚を踊らせ続ける我が子かな

野を焼けば土手までせまる岩木川

のんべえの君にはチョコよりバランタイン

この鳩も陽気終われば鷹成るか

五月雨に唐傘さして江戸気分

少年は半夏生のよる羽化し

あの店で土用の予約を今年こそ

晩夏のごとし髪を垂れ泣くおんな

四迷忌にくたばりぞこねたラムネ瓶

草茂る廃墟の奥にトマト投げ

■ 220-230 ■

今年の反省も寄せ鍋の具材

しばれでら夜さ干すモヂあっちゃの手

仕留めて死と目で見下す猟人よ

後ろ向く新入生に手振る親

散るもみじ見上げた君のほほ紅く

「コレ炭火焙煎?」「市販の安物…」

負けられぬ豆まき前の鬼ジャンケン

二重まわしのマントで文学館へ

厄落とし行きつ戻りつ榊の葉

ストーブにかざす素足はみかん色

■ 230-240 ■

雪が沿う夢立つ光氷る橋

門松立てる家過ぎて足早に

整った囲炉裏にみる主の手際

ピウピウとカマイタチ鳴く土手の空

渡り鳥冬探し我も所在なく

今日のメシは寒いので初鍋とする

ぼんやりと妄想するうち大寒

小寒とあなどり裸足しみる板

寒の入り酒と笑いで温かく

過去の声ふり向けば記憶呼ぶ火鉢

■ 240-250 ■

つぼ湯から見上げる薄雲つばめ舞い

かほどりの鳴き声見つける蜘蛛の糸

「もう知らない」フイッとうそぶく鳥と君

巣立つ子ら雁の名残りのごとき椅子

花守も夜は花見てカップ酒

春服のセールにつられて千鳥足

晴れた日は庭にゴザ敷き桜もち

雪囲いとれて伸びする我が家の木

箱なぞりひいなを納める娘の手

十三湊しじみ食いつつ母と甥

■ 250-260 ■

散り落ちたセキレイの羽根と芝桜

明日のよは桜散るぞと犬が吠え

草もちが好きな息子のために買う

旅先の桜並木はかくありて

乙女立つ湖に映える紅葉かな

氷抱きいつもきしきし泣いている

あてどない旅の最後は新そばで

春日のあいた井戸の淵覗き

涼しき手秋のかさねを選ぶ妻

明日におびえるのも飽いた椿と死す

■ 260-270 ■

ひとすじの朝日に焦がれる麦と恋

蛙消音装置つけ日暮れ待つ

カリマが怖がる五月晴れを隠す

しろうるりぬるりとあらわる半夏生

踏青こえて谷間に死す若獅子

走りきりゴクリ飲み込むラムネ染み

夏至の月夜に人形踊るカタリ

キーンと冷えた頭に手をあてつつ

花火散り私の恋も秘密裏に

涼むは喫煙室くゆらすは噂

■ 270-280 ■

土下座して謝る先の萩の靴

毛糸編む指先みとれて鍋焦がす

新品の綿入れようと一番町

夢雪はコートの少年透かして

霜枯れた土手に佇むホームレス

冬薔薇のトゲに刺されたバレンタイン

血で錆びた短針供養し中級へ

追難の方角かよひし姫(めご)の家

あの人さァ牛乳寒天好きなの

君にきた牛鍋定食ひとくちネッ?

■ 280-290 ■

行年悔いばかり月仰ぐ瞳

雨氷の中にユメ巡り溶け亡く

木枯らしが公園遊び散らかして

靄よモヤ!よもや靄とはもうヤァね

鯨幕冬の日つめたひ祖父氷る

寒のあめ熱燗つけるは女将の手

枯れ蔦の洋館住むは猫ばかり

雪吊りも今年は意味なく冬終わる

火の番もすっかり慣れて酒片手

雪だるま動きだすかと見張る子ら

■ 290-300 ■

冴えわたる空と烏の合唱団

寒潮釣れるか垂らす針じっと無心

父亡きて厳しい寒さ我が心

たすき持ち冬霧深き箱根路へ

雪きた雪きた子供ら走りだし

義母に日向ぼこりをすくわれ

古暦切ってメモにす貧乏性

社会鍋スル―の人ごみ時世みえ

十夜を越えて神堕ちし山に死す

ついに来た寒波に歓声スキーヤー