■ 101-110 ■

下手人を埋めた桜がもう咲く

夢みる時雨に名持たぬ花よ散れ

「見て」幻想のハルを病室にて

桜より団子より君のほっぺた

新人の花見支度はコンビニ100均

米をぬらし春の準備あおは遠く

「まだまだ三寒四温」と袖合わす妻

凍み豆腐の味噌汁しみ入る死別

背を向けて時雨の君が橋を去る

手をつなぎ頬染め見るは冬銀河

■ 110-120 ■

ヨロロクリアできずに終わる冬あぁ

其処空けて春が隣に座るから

祖母焼かれ冬ぎれの庭とかしていく

笑い歩く冬野の道ひとりきり

水涸るる公園ひねってもひねっても

春を待つ今期アニメはクソだらけ

みぞれ煮る冬の暮れ風邪ひきながら

寒の雨フードで乗り切る東北人

さむいさむいと帰るなり抱きつくなよ

冬の蝶だと思った君をカゴへ

■ 120-130 ■

年惜しむ手からこぼれし五円玉

雑踏に見かけて凍る浮気の芽

はずむこえ室内に咲く恋の薔薇

妹よ誰に手渡す枇杷の花

寒灯を見つつ干す唇を噛み

焼き鳥の棒をカミカミ父の癖

ペーチカ歌えや亡弟旅する星

炭を消す住職眺めて酔いもさめ

炭とりに平成うまれは蜜柑入れ

引きこもり本読みあさる冬の虫

■ 130-140 ■

コレはまだアレもまだじゃん十二月

祖母想ふ十一月の散歩道

冬の日はココア練る手に重ねたい

「もしもし」と受けて「しもしも」窓一枚

寒林で吊れる大木さがし逝く

首かしげカブの味付け迷う母

舞い終えて足袋ぬぐ度の指の違和

もう九時よ雪と貴方を起こす朝

ほうぼうを知らずに方方尋きまわる

凍らせた蝶の羽根食む君が笑む

■ 140-150 ■

お年玉値上げ約束ハリセンボン

春仕度三寒四温と日脚のび

ネギ入れるタイミングが分からん味噌汁

冬の鳥も私の声も枯れきり

雁の枝を拾い君を弔う

くちびるに霜降る夜はウォッカ飲み

年の内デートした日を指折れば

文士らの討論ききつつ泥鰌鍋

百合がほしくて君を連れだす深夜

氷室の涼けずりて蜜をかけて食む

■ 150-160 ■

北窓の冬の標本みおろして

空也忌に銀座のもなか並び食べ

繁忙期クシャミハナミズ気合い止め

枯野往くワタシのやうな花さがし

初氷手に取りはしゃぐ三十路妻

魚屋にわかさぎ売ってる帰り道

根ゼリ鍋箸で争う息子達

春告げる鳥の鳴き初め散歩道

酔ってないよ千鳥のマネだってば

冬の海こころのように荒れ鳴いて

■ 160-170 ■

鮫肌におろすは山葵ブリ刺身

木の葉おちきり病は治りきり

枯園と共に枯れるは彼の恋

寒の水もサウナあがりはそれほど

花いちりん凍土の郷里に立ちつくす

「コオリオニ」息子の園では「バナナオニ」

短き日カゲも短しハゲ近し

悪夢見ゆハツと目覚めし冬の夜

追う娘にげる綿虫わらう妻

墓囲ふあの日の涙思いつつ

■ 170-180 ■

墓も木も家も囲いて雪待ちぬ

ねんねこや早く寝なけりゃモッコ来る

押され往く羽子板市の朝混みて

街ブラリ値引きの暦ワゴン見つ

あかぎれた手すら愛しくキスをする

サンマの神を送る七輪合掌す

霜月や沖縄に降るは星の砂

マグも君も冷たし何故恋は冷めぬ

をしどりも喧嘩する日はあるだろよ

念願のフグは味ナシ何ぞこれ

■ 180-190 ■

ホッカブリは豆絞り伝統だはんで

駄目だコレ土鍋で湯葉は失敗だ

たで食いてなおたでさがす本の虫

さんざしと君の笑顔が花ひらく

すみれとドレミは似てると歌う妻

指で「アホ」黄砂が積もるボンネット

彦星を見上げてうらやむ独り酒

晴れの山きぎす追い追い一仕事

歌遠き校舎見下ろす桜坂

枯草よ我は老いても項垂れぬ

■ 190-200 ■

運命の海は凍りて泳げずに

冬の田が見えないほどに雪降りつ

湖氷ればどっかり座して釣る

山深く氷る滝壺連写して

年越せばあいさつ変わりて皆笑顔

ズンチャチャと除夜にあいの手入れる妻

泣きながら子供と鰤が起きる夜

熱燗をちびり舐めつつモツ煮食う

忌み多し芭蕉も一茶も蕪村もか

ゲシュタルトあじさいシカクの宇宙なり