■ 41 ■
いつのまにか踏みにじっていた。
それでも雪はただ、水になれなかった哀れな泥をやさしく、包んでいた。
いつのまにか踏みにじっていた。
それでも雪はただ、水になれなかった哀れな泥をやさしく、包んでいた。
ああ!
雪殺し……雪殺し!
あんたは雪を殺したのよ
わたしのコドモを
白い コドモを
「えぇ、わかっています。彼女には所詮救えるわけがなかったのです。最近はAEDとかいう心臓の鼓動を蘇生させるマシインがあるのだとか? そうはいっても、なんといっても、コドモたちはみな、著しく低温だったのです。そして、軽く、彼女でさえ触れたら融けるコドモだったのです彼女は、掬えるわけもなかったのです。ワタシにさえ、すくえないのですから。」
白い あなたは
ワタシのあなたは
コドモを 雪を殺しているのに
気づかないのだ
ああ! 雪殺し……雪殺し!
真夜中
死体を交換していると雪が降ってきた
ワタシは眠っている彼女を棺に寝かせ
しばらく
雪をのせたあとに土をかけ始めた
冷たさで起きたら
冗談にしてやるつもりだったのに
そうだね いたたまれないひと は吹雪をよくうたう
ひひょほほほオう ら、らら、らはや ぁ
せつげんは枯れた はかられた
うそだよ てくびがかれたひと は吹雪をよくうたう
君は去っていくね/自然などどこにもない都会へ/あすこの道路に植えられた/作為的な環境木からは/ひどく黒いニオイがする/アスファルトを破壊した草を見て/自然って強い///だって/やめてくれないか/残忍なだけで/強さなどどこにもない打ちつける風景謀られた進路希望別られた雪原かじかんだのは/遠い薄い朝日(吹雪の音で目が覚める薄暗いあさには、二重窓やら吹雪に遮られた灯篭のような太陽があって、ガス釜で炊かれたかあさんのご飯は、少し柔らかいんだ、決まって)
あめだね いたたまれないひと は春のためにおどる
ひひょほほほオう ら、らら、らはや ぁ
せつげんは知るよ はしるよる
とけたね なみだがかれたひと は春のたびにわらう
全てをさらけだしているようで、
じつは
まったく
表層ばかりをなぞっているのに気づかず、
彼等は
ワタシのことを知った気になっているのだ。
だから
まったく
真相を 深層を 神葬をも 封じ込めている、
氷の層には
まったく
穴もキズも何もあいてすらいないのだ。
浸蝕は
まったく
犯されることなくお前たちを犯している、
ワタシは
慈悲も無慈悲も友情も愛情も持ってはいないだろう。
氷層の上に立って
まったく
じれったい薄ら笑いをうかべながら、
ワタシは
耳から上を雪原として切り取るヴィジョンを視ている。
いつしか
取り憑かれ
まったく
夢をおもうことはない。
雪の鳴る丘零時五分
外套の男は六を食み
にんまり笑ひて飽いて居る
夜明けも遠けりゃ街燈の
キシキシ照る先吹き溜まり
三ッつ飛ばしに駆けくだる
男の頬の明るさは
倒れてしまへと
叫ぶよう
雪が終わった
なんのことはない
世界は閉じられたのだ
ここには何もない
愛だけがある
君は半狂乱になって
雪を探している
ぼくはそれをただ見つめ
君を抱きかかえようともしない
満たされている
目の前には 愛だけがある
東京にはまだ秋が咲き
さきにサヨナラと呟く
まぶたを閉じるごとに散り
深夜の移動販売はなく
眠気は
明るく
過ぎ去るごとに近づく
アナウンスを遠くに
窓は
つめたくまどろみ
降り立つホームに風が立つ
北へ向かって
どうしてだか向かって
すこしの雪を置いて
迎えのヘッドライトに
とけるばかりの
仙台はいま とても寒い
それが
サヨナラと知っている
さくじつは、雪が、ふりましたね
選ぶように、道を、蔽う、白……
ほんじつの二、度目の手紙たしかに受け取りました下駄箱の
おくのおくに伸ばし、腕がしび、れてき、たわ……
うちの、親は、
あなたと、いても……、
この話、題はもう(あと)おしまいにしましょう……
そうい、えば窓の、
結露、取ってたら、
舐めた、ヤツがいて(太田)苦いと言っていた……
そ
れと
こ
んど
親のつごう、で遠くに行くけれど君のことは忘れない
もしも再び会える時があったら季、節は……、
冬
だだ漏れの黒い情が
ただ積もれば鼻を利かせ久しぶりの薬指に光るリング
「変わらないね」目を細める大人の君を
過去の恋と嘯いては
ただ嘘だけただ散らして屈辱だけひた隠して雪のようにただ落ちてく
融けきるのを
道 連れ に
あ の 雪 にふれ て
き みの足に ふれ て
い つか 影 にかく れ
き みの口を ふさ ぎ
と てもじゃないけれ ど し ずかにあい せな い
と めどなくあ ふれ て し のしのと も え て
「必ず、禁じられつつある言葉を騙り継ぎましょう、震えているこの指先も強く強く強く!」
あ
の
こ
とを 思い出す
たびに
は
じ
けて
ゆくよ記憶から
夜 明 け の来る
しんとしてる 路地
明日からを気にして
歩く しかな いと
さあ、
(すきだすきだすきだすきだと)
さあ……
(そんなのは恋に恋してるだけ)
さあっ、
(でも本当は忘れたことなんて)
――さあ!!
「帰ってから私は泣いた誰にも知られず六角色の結晶が落ちて融けて床に染みをつくった……」
いつから取って置いたか知らない
辞典にはさんだままの手紙がある
書いたのは過去の自分と分かってる
出さなかったのも自分と知っている
一度きりの邂逅 断言できるのは不正解だという事だけ
この雪を鍵に 思い出は閉じた
忘れはしない 届きもしない
あの、雲に、光がさす……、
融けるのは、悲しいです、ね……、ねぇ、ねぇ……
さ い しょから諦めれば く る しくも無かったのだろう
あ の 仕草
あ の 言葉
あ の 笑顔 あのため息さえ心から好きだった
さ い しょから諦めれば く る しくも無かったのだろう
もう 戻らない
もう 届かない
もう 続かない ど れ だけの
押しつぶして 雪を押しつぶして
押しつぶして 熱を押しつぶして
さあ押しつぶす 雪を押しつぶして
そう押しつぶす 夜を押しつぶして
ほら押しつぶす 恋を押しつぶ
ポッ
ピィン
冬が終わり水が生まれていく
――灰の明星_
急に。
僕の
頭の
後頭部の
穴、から
ピアノ線がのびていく。
くい、と、
メロンのように切られた頭から
どこまでも氷原が見える。
そう、
どこまでも見える。
今なら泣ける、
そう妄想する。
それは
ずいぶんと悲しい場所なんだ。