■ 11 ■
僕が 肺 と言うと
あなたは 脳 と言った
街頭には雪が積もっていた
僕が 嘘 と言うと
あなたは 層 と怒る
街頭には雪が積もっていた
僕が 愛 と言うと
あなたは 死 と答えた
街頭にまた雪が積もり始めた
そして僕はあなたのマネをする
あなたは 勇気 と笑った
もう僕を相手にもしてくれない
僕が 肺 と言うと
あなたは 脳 と言った
街頭には雪が積もっていた
僕が 嘘 と言うと
あなたは 層 と怒る
街頭には雪が積もっていた
僕が 愛 と言うと
あなたは 死 と答えた
街頭にまた雪が積もり始めた
そして僕はあなたのマネをする
あなたは 勇気 と笑った
もう僕を相手にもしてくれない
あと
何ヶ月待てば
まだ
何ヶ月待てば
そう
何ヶ月待てば
あなたに逢えるのでしょうか
白い
白い白い
素晴らしい雪を瞳に入れて
私は眼帯を手に
あといくつ眠れば良いのでしょうか
恋しい
あなたが恋しい
手紙と一緒に眼球を冷やして
あといくつ食べれば 私は凍ることができるのでしょうか
君は苦い。
雪にはない 人間の汚さだ。
そうか、
僕も人間なのか。
君が美しい味を持ったとき、
僕は雪を欲しなくなるのか。
それはとてもイヤなんです 兄さん…… ・・ ・ 死なせて。
あぁ、
僕はどうしようもなく雪が好きだ。
あぁ、
君はどうしようもなく孤独が好きなんだね?
いつか
バターの上にペパーミントジャムをのせて
おとといの思想とかき混ぜたりするんだ
おっかなびっくり、
お帰りって
言ってみてよ。
たぶん僕は
あぁ、
僕はどうしようもなく孤独が好きなんだね?
「独り言か、」とつぶやくと思うよ。
それも かき混ぜる 前に。
時間が止まったような
枯れ木の群生のなか、
シプールを描いてストックを突き刺した。
ゴーグルの上から
手袋で
ついた雪を拭き取る。
輝かしい笑顔。
-------------テレビノムコウ-------------
輝かしい笑顔。
手袋で拭き取った
まぶたの上の雪は
やっぱりどんどんと
積もる。
ストックやらスキー板やら帽子やら
ゴーグルさえも放り投げて彼は云った。
「素晴らしく だ、」
時間が止まったような枯れ木の群生。
凍屍体が
見つかった。
メルティ。
メルティ。
僕のメルティ・スノウ。
少しだけ霞んでいる、君の。夜もひらかない、あの花。
もどかしい。
なんといったらいいか、わからない。
君ならきっと、これを……愛と呼ぶんだね。メルティ。
T
空を見ている。
窒素の奥を見ている。
オゾンの暗がりを見ている。
ただ、拡散した焦点をゆらしているだけなのに。
U
「飛行機の音が聞こえるということは、間違いなく空だよ」
少年は上を見上げ、首をかしげた。
少年の前には僕が。手すりにつかまり飛行機以外のことを
気にしている。
ワイシャツのしわの具合や、後ろの少年が死ぬ瞬間、果たして天井ではなく空を見ることができるのかどうか。
あぁ、こういうのは嫌だ。
こういうことばかりなんだ。
空も、世間も。みんな僕のワイシャツではなく、飛行場の狭い見送り場について論じている。
トリは、後ろを見ないで飛ぶ。
確認したからでもなし、飛んでからもふり返らない。
こういうことばかりなんだよ、実際。
いちばんいいのは、
僕がそれを気にしないということだ。
「あの、飛行機の音が聞こえないところは、何て呼べば良いのかな、」
「常温で気体になる窒素をはじめとする元素の集合域、ちがうなら、海」
「それが空だとしたら、ボクはまだ空を知らないの? 見えないよ」
「なら、行ってみたらどうでしょうか。飛行機も、トリも、気球も雨もあられも雪も……音がしない場所へ」
「同じだよ! どこを見上げても同じだよ……! 飛行機を遠ざけたらトリの声がする。家に居たって雨の音は聞こえる聞こえなくても、ボクのこの耳は聞いている筈なんだ。湿った風の色も、ホントーは見えるんじゃないの?!」
空。
空。
空。
それはまるで、僕の辞書からこぼれた音のようだった。
少年は嘘をついている。少年は飛べないトリだった。
V
空を見ていると、
空と窒素を見てしまう。
空と窒素を見ると、
空とオゾンを見てしまう。
空とオゾンを見ていると、
空を見ているかのように僕の視界は拡散する。
それが虹だということを、気づいていて焦点をゆらす。
空を見上げても
もうなにも降ってこない
衝動も 死線も
チョット待ってよ。
どうしてこんなトコロにかまくらなんてアルんだ?
確か俺は遭難したハズで
しかも今季節は夏なハズなのに。
あぁでも寒い。とりあえず
お邪魔しまーす。
うわぁ暖かい。ん? 蜜柑?
食べちゃってイイの? やっぱ止めておこう。
はぁそれにしても参ったな。
俺狂っちゃったのかなぁ。
夏だって。
今は夏だよ。
ふぅ眠い。随分ジャングルの中歩いたし。
おやすみー。誰か見つけてくれよ……?
「次のニュースをお伝えします。三日前に
××山地で行方不明になった25歳の
男性が、凍死状態で発見されました。
季節は夏のハズなのに……と、医者も
首をかしげています。××山地は、
神隠しで有名とあって、地元の人々は
祟りではないか? 山神様のお怒りでは
ないか? と、急遽神祇を執り行っております。
科学が進んだ現代において、まったく
奇妙な事件だ。と、捜査当局でも頭を
悩ませております。事件の可能性も含め
今後捜査本部を設置する予定だそうです」
サクサクと
潰す様に抱きしめる
それは 雪にとても似ている
なんでもない素振りをして
傷ついていたね
救えなくてごめんね
救わない方が好きなんだ
サクサクと
潰す様に抱きしめるだけ
素晴らしい声で虫が嘆いているよ
そうか キミは虫が嫌いだったね
素晴らしい声で君が啼いているよ
救えなくてごめんね
救わない方が好きなんだ
サクサクと
瞳をつむれば枯葉は雪になるさ
サクサクと
その気になれば空だって飛べるさ
潰してしまったら僕は眠るだろう
だから本当は
潰さない様に抱きしめているよ
救わない方が好きなんだ
僕を救ってくれない君が
だから
本当は
雪みたいに素晴らしく見えるよ