■ 11 ■


 僕が 肺 と言うと

 あなたは 脳 と言った


 街頭には雪が積もっていた



 僕が 嘘 と言うと

 あなたは 層 と怒る


 街頭には雪が積もっていた



 僕が 愛 と言うと

 あなたは 死 と答えた


 街頭にまた雪が積もり始めた
 そして僕はあなたのマネをする



 あなたは 勇気 と笑った


 もう僕を相手にもしてくれない

■ 12 ■


 あと
 何ヶ月待てば

 まだ
 何ヶ月待てば

 そう
 何ヶ月待てば


 あなたに逢えるのでしょうか



 白い
 白い白い

 素晴らしい雪を瞳に入れて

 私は眼帯を手に

 あといくつ眠れば良いのでしょうか



 恋しい
 あなたが恋しい


 手紙と一緒に眼球を冷やして

 あといくつ食べれば 私は凍ることができるのでしょうか

■ 13 ■


 君は苦い。

 雪にはない 人間の汚さだ。


 そうか、
 僕も人間なのか。

 君が美しい味を持ったとき、
 僕は雪を欲しなくなるのか。


 それはとてもイヤなんです 兄さん…… ・・  ・  死なせて。

■ 14 ■


 あぁ、
 僕はどうしようもなく雪が好きだ。

 あぁ、
 君はどうしようもなく孤独が好きなんだね?


 いつか
 バターの上にペパーミントジャムをのせて
 おとといの思想とかき混ぜたりするんだ


 おっかなびっくり、
 お帰りって

 言ってみてよ。

 たぶん僕は


 あぁ、
 僕はどうしようもなく孤独が好きなんだね?


     「独り言か、」とつぶやくと思うよ。
 それも かき混ぜる    前に。

■ 15 ■


 時間が止まったような
 枯れ木の群生のなか、

 シプールを描いてストックを突き刺した。

 ゴーグルの上から
 手袋で
 ついた雪を拭き取る。


 輝かしい笑顔。




 -------------テレビノムコウ-------------




 輝かしい笑顔。


 手袋で拭き取った
 まぶたの上の雪は
 やっぱりどんどんと

 積もる。


 ストックやらスキー板やら帽子やら

 ゴーグルさえも放り投げて彼は云った。


 「素晴らしく  だ、」


 時間が止まったような枯れ木の群生。
 凍屍体が
 見つかった。

■ 16 ■


 メルティ。

 メルティ。

 僕のメルティ・スノウ。

 少しだけ霞んでいる、君の。夜もひらかない、あの花。

 もどかしい。
 なんといったらいいか、わからない。

 君ならきっと、これを……愛と呼ぶんだね。メルティ。

■ 17 ■ 少年(トリ) ■


 T

 空を見ている。
 窒素の奥を見ている。
 オゾンの暗がりを見ている。

 ただ、拡散した焦点をゆらしているだけなのに。


 U

 「飛行機の音が聞こえるということは、間違いなく空だよ」

 少年は上を見上げ、首をかしげた。
 少年の前には僕が。手すりにつかまり飛行機以外のことを

 気にしている。
 ワイシャツのしわの具合や、後ろの少年が死ぬ瞬間、果たして天井ではなく空を見ることができるのかどうか。

 あぁ、こういうのは嫌だ。
 こういうことばかりなんだ。
 空も、世間も。みんな僕のワイシャツではなく、飛行場の狭い見送り場について論じている。
 トリは、後ろを見ないで飛ぶ。
 確認したからでもなし、飛んでからもふり返らない。
 こういうことばかりなんだよ、実際。

 いちばんいいのは、
 僕がそれを気にしないということだ。


 「あの、飛行機の音が聞こえないところは、何て呼べば良いのかな、」
 「常温で気体になる窒素をはじめとする元素の集合域、ちがうなら、海」
 「それが空だとしたら、ボクはまだ空を知らないの? 見えないよ」
 「なら、行ってみたらどうでしょうか。飛行機も、トリも、気球も雨もあられも雪も……音がしない場所へ」

 「同じだよ! どこを見上げても同じだよ……! 飛行機を遠ざけたらトリの声がする。家に居たって雨の音は聞こえる聞こえなくても、ボクのこの耳は聞いている筈なんだ。湿った風の色も、ホントーは見えるんじゃないの?!」

 空。
  空。
    空。
 それはまるで、僕の辞書からこぼれた音のようだった。
 少年は嘘をついている。少年は飛べないトリだった。


 V

 空を見ていると、
 空と窒素を見てしまう。
 空と窒素を見ると、
 空とオゾンを見てしまう。
 空とオゾンを見ていると、

 空を見ているかのように僕の視界は拡散する。

 それが虹だということを、気づいていて焦点をゆらす。

■ 18 ■


 空を見上げても

 もうなにも降ってこない


 衝動も 死線も

■ 19 ■


 チョット待ってよ。
 どうしてこんなトコロにかまくらなんてアルんだ?

 確か俺は遭難したハズで
 しかも今季節は夏なハズなのに。

 あぁでも寒い。とりあえず

 お邪魔しまーす。

 うわぁ暖かい。ん? 蜜柑?
 食べちゃってイイの? やっぱ止めておこう。

 はぁそれにしても参ったな。
 俺狂っちゃったのかなぁ。
 夏だって。
 今は夏だよ。
 ふぅ眠い。随分ジャングルの中歩いたし。

 おやすみー。誰か見つけてくれよ……?

「次のニュースをお伝えします。三日前に
 ××山地で行方不明になった25歳の
 男性が、凍死状態で発見されました。
 季節は夏のハズなのに……と、医者も
 首をかしげています。××山地は、
 神隠しで有名とあって、地元の人々は
 祟りではないか? 山神様のお怒りでは
 ないか? と、急遽神祇を執り行っております。
 科学が進んだ現代において、まったく
 奇妙な事件だ。と、捜査当局でも頭を
 悩ませております。事件の可能性も含め
 今後捜査本部を設置する予定だそうです」

■ 20 ■


 サクサクと
 潰す様に抱きしめる

 それは 雪にとても似ている


 なんでもない素振りをして
 傷ついていたね

 救えなくてごめんね
 救わない方が好きなんだ


 サクサクと
 潰す様に抱きしめるだけ

 素晴らしい声で虫が嘆いているよ
 そうか キミは虫が嫌いだったね

 素晴らしい声で君が啼いているよ
 救えなくてごめんね
 救わない方が好きなんだ

 サクサクと
 瞳をつむれば枯葉は雪になるさ
 サクサクと
 その気になれば空だって飛べるさ


 潰してしまったら僕は眠るだろう
 だから本当は
 潰さない様に抱きしめているよ

 救わない方が好きなんだ
 僕を救ってくれない君が

 だから

 本当は

 雪みたいに素晴らしく見えるよ