■ 1 ■

 吐息 吐息 吐息 肌
  白い 白い 白い 花

 鈍色に光る雲の奥
  舞い散るために生まれた

 あの白い 花の名

 一瞬
     雲間から差す
    音も
   光も
 かけらも
       終わる  手に

■ 2 ■

 沈黙の丘にまた 雪が 降りはじめた

 アセンチウムで濃厚に色づけ去れた
 ウランの濃縮は農耕に痣付けわすれ

 危険地帯に留まっている 夫婦には

 奇形の男児が生まれた
 貴兄の弟でもあつた.


 写真に貼り付けた灰色の雨も
 いつしか 廃墟に うっすらと

 沈黙のまま 雪に 変わった

■ 3 ■

 雪が、ふっています。
 きのうもたくさん、雪がふりました。
 きょうもたくさん、雪が、ふっています。

 夜になっても、しーんしん。
 雪がふるふる、しーんしん。

 しーちゃん歯みがき、しーんしん。
 あわが、雪みたいだね。
 しーちゃんお布団、しーんしん。
 ふかふか、雪みたいだね。

 でも……、しーちゃんは中々ねむれません。
 どうしようかなぁと思っていると、窓のそとから歌がきこえてきました。

  しーんしんしん、すいすいぴょん。
  およいでいこう、すいすいぴょん。
  ゆめのくにまで、そろそろだ。
  およいでいこう、すいすいぴょん。
  しーんしんしん、すいすいぴょん。

 しーちゃんはびっくりしました。
 窓をみると、窓の上まで雪がつもっています。
 雪のなかを、お魚さんが泳いでいます。
 すいすい。光る、お魚さんです。

 しーちゃんは、お魚さんに「こんばんは」と言いました。
 お魚さんも「こんばんは」と言いました。

  「どこに行くんですか?」
 と、しーちゃんが聞くと、お魚さんは
  「ゆめのくにまでいきますよ」
 と、言いました。

  「いっしょに行きたい!」
 と、しーちゃんが言うと、お魚さんは
  「いいですよ!」
 と、ぴかぴか光りました。

 しーちゃんは窓をあけて、お魚さんの背中にのりました。

 雪のなかを、すーいすい。
 お魚さんが、ぴょんと飛ぶと、雪もふるふる、しーんしん。
 ゆめのくにまで、すーいすい。
 雪もふるふる、しーんしん。

 ふわふわ雪の、うみをこえ。
 よるのとおくへ、すーいすい。

 ぴかぴか星の、お魚さん。
 しーちゃんにこにこ、すーやすや。

 雪もふるふる、しーんしん。

 すーいすいすい。
 すーやすや。

■ 4 ■

 キャンドルがひとつ 消され
 ちいさな火がひとつ 消され

 室内は 消えて

 君は 冷えて

 抱きしてめても 冷えて

■ 5 ■

 すばらしいゆきだって


 ことしはつもるぞって


 言ってたおじいちゃんは


 あたしのかみさま だった



 どーしてしんじゃうの?

■ 6 ■

 そう 行くんだね

 もう少し ココにいてくれない?


 ……いいよ わかった
 ワガママは言わない


 次はどこへ行くの?
 世界のどこを彷徨う?


 ……いいよ 大丈夫


 ずっこココで
 終りの手前で
 いつでも待ってるからね
 いつでも帰ってきてね

■ 7 ■

 子供たちを 見ている
 全身を信頼し薄いヤッケに巻かれた四肢をピン 硬直させ倒れこむ
 ははっ
 はははははっ
 べろんとだした 小さな明かりのような舌だけで世界を
 受けとめようとする
 子供たちを見ている

 Oh,le bon temps,que ce siecle de fer!(※)
 (おお、この草昧の時代の、楽しかりしころよ!)

 窮屈におしつぶされ記憶は 思い出すことのなんと少ない色
 ははっ
 おいやめろよぉっはははは
 どこからも拾ってくることをやめ 立っていれば
 押し寄せてくるはずだと思っている
 しかしそのような期待は 時計の針と同じように捨てられていく
 (彼らは押し寄せてきたのではない、
   自らの役をこなし通り過ぎていく無感情に)

 いつのまにか冷えを嫌う
 あらかじめの拒絶にPeine forte et dure(※)(強い厳しい刑罰)は
 与えられない
 いつのまにか
 ははっ
 はははははっ
 子供たちから 目をそらしている

 耳が拾う
 時計の針
 暖炉のうなり
 外の時代
 動くことさえもあらかじめ拒絶し二度と手に拾うことのない
 冷たさが
 ちいさな両手によってまき上げられ
 朽ちるように風と 落ちた


 ___

 (※)エドガー・ポー「ウィリアム・ウィルスン」より引用

■ 8 ■ ウロコの町 ■

■ メビウスリング メビ詩人会 2015年3月勉強会 優秀賞作品 ■

 とうさんが行った
  ウロコの町へ

 じいちゃんが言った
 もう かえっては こないだろう


 ほろりほろりとユキがふる、道をしずかにとオルのは、
 ぱきりぱきりとつららの根、ほそくて小さな水がオチ、
 オウチに帰ってくるころは、シンと終わってしまうの、


 シロの町からウロコの町へは、片道だけのバスがありました。
 いつもはだあれも乗せていないのに、とオった、バスの、マドの、カゲは、フり返らないで行っちゃった。
 ほろりほろりとユキがふる。シロの町のかたすみに、ほそくて小さな家がありました。
 かあさん、じいちゃん、こゆき、犬のさかな。さかなは魚が大すきだからつけたんだ。シロの町から出るバスは、戻ってこない、片道のバス。
 こゆきが小さい頃に、かあさんはベッドでよく、ウロコの町のはなしをしたものです。
 ウロコの町のたてものは、大きな、さかさまの魚でできていて、ウロコがはがれてユキの、ように、ほろり、ほろり、眠っていくって。


 かあさんが行った
  ウロコの町へ

 じいちゃんが言った
 あい というのだ ゆるしなさい


 ほろりほろりとユキがふる、ソウゲンだったという所、
 うわんうわんと泣いたアト、ほそくて小さな色がツキ、
 オウチに帰ってくるころは、スンと終わってしまうの、


 金のキップも、銀のキップも、特別なキップも、ぜんぶ片道キップでした。
 ヤカンがスンスン鳴いている、バスの、キップ売り場のおじさんは、キップを売ってくれなかった。子供じゃダメだって。
 ほろりほろりとユキがふる。シロの町のかたすみの、小さな家の夕飯でした。
 じいちゃん、こゆき、犬のさかな。今日も具のないスープと魚。じいちゃんが釣ってきた魚は氷のアジ。湖の氷に穴をあけて釣るんだ。
 こゆきがウロコの町のことをきくと、じいちゃんはこゆきをやさしく見つめ、ウロコの町のはなしをしてくれました。
 ウロコの町に行ったヒトは、大きな、さかさまの魚になって、思い出がはがれてユキの、ように、ほろり、ほろり、眠っていくって。


 ほろりほろりとユキがふる、ウロコの町に行けたなら、
 ひとつふたつと手のひらに、小さな思い出あつめキリ、
 キリンのようなハシゴかけ、魚にウロコをもどしてく、

 とうさんに 戻ってくれるかな
 かあさんに 戻ってくれるかな


 ほろりほろりとユキがふる、道をしずかにとオルのは、
 指おりかぞえるおんなの子、小さな足あとシロに消え、
 いつか片道キップを買って、ウロコの町へと行く夢は、
 オウチへ帰ってくるころに、シンと終わってしまうの、


 こゆきは言った
  ただいま

 じいちゃんとさかなが言った
 おかえり こゆき ワン さむかっただろう ワンワン

■ 9 ■

  まずマフラーを 首に巻き
  次にコートを羽織ります
 (はめる手袋はナイロン製がよろしい。耳当てがあるとなお良い。毛糸手袋にするときは、とびきり、冷えていないとダメだ)

  そしてブーツをひっくり返し
  スパイク金具をカチリと折る
 (ついていなければそれで良い。ただし歩調に気をつけるべし。滑った時には尻から落ちて、とびきり、笑顔でごまかそう)

  外に出たなら手を上に
  落ちてくるのは六の花
 (ふらふらん、と落ちてくる。黙ってふるえる結晶の先。ようく観察したあとで、とびきり、豪華な食事をしよう)

  舌を出し てサッと舐め
  歯磨きしたなら家戻ろう
 (ほどよい大きさのつららで歯を磨く。そのあと道端にさしておく。翌日ささったままならば、君はとびきりラッキーだ)

  いい子です
  ちゃんと ストーブの前にかざすのですよ

■ 10 ■

 ロレットレッタ

 君に

 この冬最期の雪をあげよう


 絵の具がとびちっても

 もう

 誰も
 かたづけてはくれないんだよ


 ロレットレッタ 僕の白雪姫


 オルゴールのネジが切れたから
 瞳をしまって


 眠り


 な


  さ



 い