■ 41 ■ 第212回QBOOKS詩人バトル チャンピオン作品 ■
吐かないで
受け入れて どうして 君はどうして
床に腐っていく 観賞用の金魚
咳き込んでいる 選んだ筈の君
「どうして吐いてしまったんですか」
責め口調はよそう
そんなことを言いたいわけじゃない のに
「どうして ……」
気化していく水 痙攣は終わる
気温は二十六度 昨日は霧雨で
「時間を置いたら気分は変わりますか?」
君は力なく首を振る
口に残った淡水を吐き出すさまを あぁ
「明日なら?」
睨まれる 三秒間
水槽の温度は十八度 大葉のような色をして
腐っている
金魚は
腐っていく
すぐだった すぐに腐っていく不必要な自然は断りもせずに
「どうして ……」
吐かないでほしかった
どれの代わりもいくらでもいるからこそ選んだのに
空腹を感じる
「もうすぐ夏がきますね」
腐った色から反対色を取り出して
指先を 腐らせて
喘ぎを鑑賞して
反対色に
含んで
どうして こんなにも
「おいしい ……」
受け入れて
■ 42 ■
雨は虹の方角へ行った
心が花であるなら
茎は
あるいは折れた肋骨と
木製の詩人は言った
ええ、
ええそうです。
枯れた午睡こそが花弁です、
虹は
吐きながら木星の方角に、仕方なく
あなたを北にして……。
詩人を含む兵隊たちは緑服のまま
気をつけの姿勢にし
首から上を
虹色に塗った
木製の雨は 方角ものまず
座ったままの肋骨に
カラハラと落ちて眠る
■ 43 ■
空に
虹が浮かんで
時間は過ぎて
雨は止み
君は去って
手紙が残り
なにもかもを
失ってしまう
と
恐怖だけが残り
■ 44 ■
正直な絵画が言うことは
いつも
雨 雨 雨 雨
いつも
雨 雨 雨 雨
通りかかるたび
絵画の聖母の唇は
雨 雨 雨 雨
雨と動く
それが 晴れ と気付いた時には星空
ある冷えた
12月24日の夜
■ 45 ■
白樺薫る 七回忌に
君の髪を梳く夢を見た
あの日と同じ服で
頭をあずけて座っている
君の髪は黒く 長く
さらさらと音をたて
静かに輝いている
言いかけたとき
目が覚め
雨は止んだと気づいた
瞳のうえだけが
夢の名残のように
■ 46 ■
渇いた鼓膜がふるえる
雨あがりの虹が
ヒカパキ砕けて消えかかると
どうしようもなく
ふるえ
■ 47 ■
春雨のコンクリートの匂い
せっかく仕舞ったマフラー
中々ひらかないビニール傘
雨上がりの春一番とキテキ
もうチョットだけ寒いけど
庭のパンジーが咲きました
■ 48 ■
かなり激しい雨は、次第に止んでいった。
最初は
ただ雫を受け入れていただけの僕も
傘を差したり
天を仰いだりするようになってきた。
そのうち僕は、雨が
もっと降ってくれればいいなと
思うようになって、けれど、一旦そう思ったら
雨雲は僕に一生近づかなくなった。
僕は渇いている。
しかし、雨は一向に降る気配を見せない。
僕はあきらめて、
前までそうしていたように太陽の光を身にあてて、
一直線の道を走ろうと思っている。
雨は僕に色んなことを教えてくれた。
だから、僕は雨が好きです。
太陽は僕のまぶたひとつ蔑ろにしていなかった。
僕の汚い部分も封印しそこねた傷も、
なにもかも含めて僕の全部を見てくれたのは
太陽が初めてだった。
だから、僕は太陽も好きなのです。
僕はまた歩き始める。
雨が降っていた間中、僕は止まったままだって
気づいたから。
もう、あの懺悔の涙ような雨は
太陽が沈まないかぎり見ることはないでしょう。
……And end of rainy.
■ 49 ■
雨の蒸発を見ていた
内側から
こぼれていたのは土でした
君は汚いまま愛を探している
濡れた地面に這いつくばって
土をかき集めてどうしようも
なくなった
手のひらに
掲げてしまって気づく
雲の切れ目を探すのは 愛によく似ている
とても
手首に伝う水を
おそれながら見ようとも
■ 50 ■
戻っておいで
孤独な椅子を準備して
雨を待っている