■ 31 ■


 サザ あめはやまない

 きみと花弁を
 ふみつけるように抱きしめる

 ハ ザ それはひどすぎて

 たとえばキスに 似ていた


 二度と花弁がフリシキル

 ぜんぶなくすことを
 おそれないで

■ 32 ■


 いつからいつまでが雨なのか本棚は知らない
 しずしずと
 薄緑色の点病に侵され
 次第に弱っていく板の内側さえ
 誰にも見せずに

 蜘蛛は裏側に
 もうどうにでもなってしまえばいい
 とでも言いたげな家をつくる
 あちこちにのびる糸は
 白く
 灰と
 すこしだけ黒の
 埃をかぶって廃墟となる

 カーテンは
 いちばんしたの
 いちばんすみの
 折られ
 折られ
 重ねられたところから
 ふつふつと
 これも薄灰色の点病に侵され
 絹の
 目
 滲んで十字架が打ち建てられる5年もかけて

 地球儀を集めていた

 地球に見えれば何だってよかった
 この部屋には
 地球がいくつもあって
 それぞれに緑で 白で 橙で 青かった

 点病に侵されていない球体を
 からから回して雨を呼ぶ
 詰め込まれた文字と大陸が
 静かに
 どこからどこまでなのかわからないように
 静かに
 雨を呼んで
 糸は
 雲作りに失敗したかのように天井にかけられ
 静かな
 すり硝子と絹のカーテンからもれる
 光は
 いつからいつまで
 雨なのか

 本にも
 僕にも教えず

■ 33 ■


 雨が降る日に限って

 オルゴールは 虹色の音色を奏でる


 やわらかく 湿った空気を伝い
 耳の奥へと 潤んだ音色が届く

 少しだけなら雨を
 みなおしてやってもいい

 そう思えるような日に限って
 傘が壊れる ボクハカサヲササナイ

■ 34 ■


 ざあざあと 僕の事
 たたいてる この雨は

 遠い国では 嬉しくて
 海の上では お帰りなさい

 虹が見える でもまだ降ってる


 なぜだかさみしい 気分になってる

■ 35 ■


 空面冬倒きす ぎとる
 感知する雨か かあさん なぜ奴隷らら歌う

 そうよ?
 つまり
 うた よ?

 意思なんてないね

 散 らばる空洞 背丈 曲がる猫
 飛び出す魚も きす ぎとる冬


 叩きますね 布団を 銃声と 間違うように


 面白くないのでせめて
 什星としてみる 配置 書架から漏れ出した

 つぶを
 よっつ

 その名を 雨 と名付けよう

■ 36 ■


 雨が光る街に 手首を切った少女と立っている、


「あたし まだ生きてる ……?」
「縦に切ろうとしないから   そうなる」


 ゆびさきから 血が光った、
 それは恋しているからに他ならなかった、雨も、

■ 37 ■


 たたまれた和音の鍵を首に下げた少女が
 雨雲の裏口を探しにいこうと言った

 切れ間からさしこむ乱反射に彩られ
 螺旋階段を
 踊りながらのぼっていくのをただ
 見ている

 三回
 ノックすればいい

 入れてくれますか
 入れてくれませんか
 入れてくれないと

 「     」

 ピンクのリボン飾りがついた靴と靴が
 検討をつけた裏口の前で
 しぶきをあげながら
 踊り続けている

 いっとき光が鍵に降り和音が響いた灰色のビル群
 屋上から
 スカートの中身がみえる

■ 38 ■


 明るい光雨を唯受け滲む
 廃墟の寺院で踊る歌人よ

 にわかに満ちる
 対の池の名を
 悲鳴とつかぬ
 残響にのせて

 反響言語(エコラリア)!
 反響言語(エコラリア)!

 狂気をまとう常識人に
 まったく君だけ立ちすくむ
 回廊のおもて雨だれ打ちて

 伴奏を裂く

 錆びの匂いが
 脳梁をくすぐり
 すがすがしくも笑えば君は
 まったく正常な異常人

■ 39 ■


 目に映る
 雨がはじく光の花束 まぶしくて

 頬を伝っておちる
 涙もまた

 きらきら
 キラキラ

 心の色を映しているね まぶしくて

 でも

 瞳は

 そらさないでいて
 気付いてほしいから

■ 40 ■


 雨季が
 恥ずかしげもなく停滞した後の水門です
 (泥の鉄砲です)

 つったた つたた たたんつつ つたっら
 踊る円形透明の 爪先 爪先
 ったっら たっら

 さかしくかかった 声です


 木造校舎にピシャリとあてて
 校庭の草にお辞儀をさせたの誰ですか
 つったた つたた
 つったた たたん


 牛舎の

 丘を越えますね