■ 1 ■
ぼく、は。
先生、
ずっとこうしたかったです。あなたの
耳の
うらからのぼって、
黒い滝をさらさらと梳きたかったんです。
くちびるを押しつけて。
先生、
どうして。
つめたいヒールの先に、冬眠するようにまるくなっている爪先の
沈んだ肌色をした、薄皮。
くるぶしからのぼって、
スカートに指を入れ
するすると、
ちいさな雲にしてしまいましょう。
どうしても
抱きしめられない、と、言うなら。
まぶたを五本の虹で、
かくして。
ぼく、は。ずっと、ほんとうに、ずっとこうしたかったんです。
ねえ。
先生。
どうして泣くの。
ぼくの衿に、雨のしらせを
ふたつぶ、
落としてしまうの。
■ 2 ■
雨が降ると
嬉しさのあまり
気が
どうにかなってしまう人種なのだろう
雨になにか
思い出したくない記憶でも?
なんて
自分に聞いてもわからない
他人に言ってもわからない
シトシトとザアザアなら
どちらかといえばサメザメ
か
な
。
■ 3 ■
雨が服を濡らした午後
寒くて死にそうな身体
同じ 水なのに
どうして シャワーは
こんなに温かい音を響かせるのだろう
あの人に電話をかければ
あたたかい僕の雨音と声 伝わるのだろうか
■ 4 ■
うちの母が
雨がこぼれてきた
と見上げる
午後に
つぶが
なづぎに当たり
誰かが雲からこぼした つぶ
それとも
自分から こぼれたのかな
えいっ
て
飛びおりたのかな
おっかあ!
早ぐ来ねえば
濡れでまういろ!
あたたかい
7月のスコール
ゆっくり歩く
うちの母は
大当たりを連発する
■ 5 ■
いいやつ か
明日も雨がふったら
僕も
ちょっとは正直に
なれるの か
な
とにかく 春の雨で
とにかく 冷たくて
とにかく
この
悲しさを なんとかしたいと 上を向く
■ 6 ■
傘を打ち散り灰地に滲みて
歩行者は上をみてばかり
白だけ歩けばイイコトあるよ
緑を青と 押しつけたのは
雨色を青と 押しつけたのは
黒いところはハズレだよ
靴底で踊る宴も知らず
電源と四角見てばかり
■ 7 ■
正常!
正常!
叫ぶように鳴り響く雨の音から
明日が溶け出して
目の前を塗りつぶす
正しい道は閉ざされた
しかし千年を過ぎたら歩かなくてももう良いのだ
明日を嘘絶しようと
額縁の奥を塗りつぶす
■ 8 ■
赤 はちる
しみて 白
ざくろ 色
布 ほどく
先 ほそり
じとり 十
急な葬式の報せ
ほどなく到着する雨
はらはらちるはちるは石榴の
枝 むこう
しみて 雨
ざくろ 色
髪 ほどく
先 ほそり
わらう 十
結わえて真珠の耳かけ
熱い茶の準備
さあさあちるはちるは石榴の
赤 はしる
ねむる 唇
ざくろ 色
左 あわせ
先 もなく
とおく 十
ひいて 苦
唇 ひいて
ひいて 夜
ざくろ 色
長 びいて
ひいて 無
ちるは 死
燦 とふる
雨 ひいて
爾 めして
ひいて 一
口 ひいて
ざくろ 色
雨 ちるは
ちるは 赤
■ 9 ■
ながめのシタひとライナーに
アルガ アハイと言ってみる
ボツ
あぶら雨だ
フル フル 国が立つ
アルガ アハイ シェンジナ
海が燃える 雨だ
起きる
シオ シタ ひとり
立つ シェンジナ
■ 10 ■
フォルゾンの充満
あくる日の乙女は雨でした。
眠っているねタービン、
ロティスに餌はやったのかな?
充満する
眺め続ける
明日も雨だといい。