■ 41 ■


 料理長は千年王を敬愛してやまない
 彼はいつでも千年王のために 極上の食事を用意する

 飢饉に苦しんでいる千年王のために
 彼は
 自分の足の親指を切り スープでとろとろに煮込んで
 器に
 美麗に
 盛り
 付け
 た


 一週間後 彼は首を撥ねられた


 通風の王を笑ったのだ


 しかし本当は通風のせいではなく 親指の
 破傷風からくる口径痙攣だった

■ 42 ■


 フタを開けると 見違えるような世界が待っている
 フタを開けずに 見栄えのしない世界で生きている

 千年そうで
 開ける時には
 きっと
 ここから
 脱出するぞと
 そう
 決めていた



 国をあげての葬式で
 宰相がフタを開けた

 オルゴウルの音色が聞こえ 民衆は

 見違えるような新しい王を望んだ

■ 43 ■


 風は空から降り
 貴方は天使だといった
 ひどく生生しい
 ひとつの言い訳として

 ワタシは死んでも腐らないといった

 雨季は長く続き
 夢も割り切って逃げた
 ひどく生生しい
 メロンを叩き割る感覚

 アナタは死んでも腐らない千年王か

 顔に傷一つなく
 蕾のように手を組み合わせ
 てらてらひかる
 黒い喪服と硝子ごしに

 赤の広場で醒めない夢を 見ている

■ 44 ■


 膿んでいた
 千年も さめることなく傷口は いたみ つづけ
 ましろな王の玉座には
 雨か降り積もっていた

 それは雪だったが いつしか流れに変わっていく
 もうひとつナイフをとった
 それは鉄だったが いつしか錆に変わっていた


 臙脂の幕は垂れ枯れ
 雑草が石床を浸食し
 ましろな筈の玉座は
 とうとう地球に彩られ


  そんな!

  ワタシの白が、
  ワタシの城が、


  あぁ、憂う
  膿れうても仕方のない月日が
  あの候鳥の向こう、

  に、

 それは雪鳥だったが いつしか雨虫に変わっていた
 ここでひとつ王冠をとった
 それは誇りだったが いつしか塵に変わっていく

  あ、い、

  愛がほしい、


 城内の人間は消えた
 死んでしまった   とっくに
 いつまでも気付かず
 王様は招集し続ける

 千年後のいまですら
 あぁ、おかわいそうな千年王!

  どこだ、ワタシの愛は、
  ワタシの、
  国は、


 雨が降り積もっている

■ 45 ■


 騒ぎも静の月も去る、ただ見続けるだけの椅子にまた重い腰をかけるのか。

■ 46 ■


 ぺしゃり、と、ベンジャミン、は、似ている

 腐らない
 この電光掲示板は、大量のシ人で
 埋め尽くされている

 それは、詩か
 それは、死か

 ときには
 橋の下で眠るが良い、


 ぺしゃり、
 音が
 ベンジャミンの本から発せられる

 千年王の屍体は
 どうしてだか
 腐らない

 赤の広場の王様は
 痛風で死んだ、筈なのだが……

■ 47 ■


 世界に救いがないのは宇宙人がいないのと同じ証明方法だから
  (それはエルスの適応に他ならないのだけれど)

 if ( 救い > 殺し )
 救い = ある ;
 else
 救いようのない ;


 あるいはここまでの結果も全て救えなかったとしても

 君が助けられなかった人
  (それは世界中に何億人といた)
 君が助けられなかった物
  (それは世界中に何亥個とある)


 あるいはここまでの結果を全て救えたとしても


 君だけを救いたいと思ったら
 千年先に生まれることに他ならない

■ 48 ■


 ちっぽけな僕だけれど ビッグな未来が見える

 僕はいつか 偉大な千年王になるだろう
 そして痛風という
 ちいさな病によって 全てを失うのだ

 失うくらいなら
 今
 なにもかもなくしてしまおう

■ 49 ■


 ありふれた庭で白骨化した王様を見つけた。

 親指の骨からノウゼンカズラの芽が、
                         え?

■ 50 ■


 そうして逃げていった
 あわて
 ふためく


 その魚のような目で私に許しを請うのだ!
 執拗なまでのアルペジオが
 耳に残ってやまな


 エッセンス
  ル
  リ
 とぬけて逃げていった
 あるいは熱に浮かされた犬のように
 許しも請わず
 夢も追わず


 わめき
 あふれる
 そうして逃げていった


 手前には墓がある。あなたを葬った墓だ。千年もの間、私の祖先が
 代々守ってきた。そういえば先日、墓荒らしにあったな。いいえ、
 あなたは眠っている。となりの墓だ。私の持ち場ではないのでね、
 軽く挨拶してすませたんだ。


「セレセレンセ ン れ ん、ん。」


 昨日
 私の羊が死んだ