■ 21 ■


 情熱が蒸発して抒情詩になったつもり
 望まれて選ばれたと王様になったつもり

 オオオウサマ、コレヲゴランクダサイ
 セカイニタッタ
 イヒヒヒヒッキノ、オウム、シャエルオウム
 オ、オ、オウムデス

  (耳元でささやいて
  (僕は望んじゃいないんだ
  (俺は王様なのか?
  (人間はみな自動装置なんじゃないのか?


 「――跳ね橋を上げよ!」


 上官が上告して上手に叙事詩にするつもり
 革命のタイミングは上手に上手に計算するつもり


 オレハオオ、オウサマナノカ
 ニンゲンハミナ
 ジドウソウチナッ、ナナジャナイノカ
 ニンゲンハミナッ、ヤメロウルサイヤメロウルサイヤメロウルサイ

 ヤメロ
 ワレヲコロスナ
 ニンゲンハミナ
 ヤメロ
 ジドウソウチナッ、オウサマ、ジドウソウチ、オウサマ、ジドウ
 ソウチナッ、オウサマ、

  (耳元でささやいて
  (いい気味だ
  (ロボットのくせして
  (人間になりたいだって?

  (――笑わせる!


 「私は願われたのだ! 何が悪い! 私は!」


 回路が蒸発し人間様になったつもり
 革命を終えてからなお人間にナッ、オウサマ、ジドウソウチ

■ 22 ■


 思春期の美しいエピソードでした

 凍りはかなくも激しい震動で過冷却し
 ピカパキと
 万華鏡のように夏を反射しら しめ

 ららしく細められた
 君に鳥の首を切ってプレゼントしよう
 きっと似合うに違いない
                         なんてこと!
 まっさおに染まったのを
 疑問と思わない
 水をはった盥に太陽をうつ し目

 千年たった今でも鮮やかにやまない
 思春期の美しいエピソードでした

■ 23 ■


 愛の叫びも、天国への歌も、全てが聖なる嘘だったという。
 神の指さえもまぼろしの峠
 あなたが居ればもしかしたら……、還るハズの望みも ない。

 それは、
 それは  。

   騙した神は!

 未来へ逃げる。
 あの子を背負ったままで、その身を焼く。


 ――または死ぬ、

   また嘆く、

   嘘で
  塗り
 固めて
 、
  腕の
   中で眠る。


 あの歌の名前を、忘れてしまうまで。

■ 24 ■


 私の国はもう終わり
 心の中には悲しみも
 憎しみさえもなく
 屈辱だけが響き渡る

 テキに囲まれ聞こえてきたのは
 ボクの国の歌

 そう
 私の敵は私の元・国民

 涙の向こうに
 君はくずれ落ち
 最期まで残ってくれた部下達は
 灰の空を見上げ
 唇を結び

 コレが私の道だったのか?
 コレが   天命なのか?

「逃げましょう」

 君がささやく
 他の者も 口々に
 言う 逃げよう と

 逃げる?
 私が?
 非国民に 背を向けるのか?

 そんな事

 許されない
 許さない
 許すわけがない

 私は宝剣を構え君に切りかかり
 国歌は鎮魂を鳴らす

■ 25 ■


 王様は 捨てられるだけ


 あぁ あ



 酷い酷い





 クス。

■ 26 ■


 幕間にジョゼフが痛がった

 痛い 足の親指が

 皆はジョゼフに千年王が乗り移ったのだと期待してやまなかった
 彼は千年王 主役だった ことさらはまり役と言われ自信をもって劇に臨んだ

 彼は 選ばれたのだ

 神に


 幕了ジョゼフは病院へ行った

 誰しもが願っても
 神は もう 通風どころか雪さえ降らせなかった

■ 27 ■


 コヨーテ
 コヨーテ
 斜陽に染まる地平で
 唯一人残る楽器を鳴らせ
 鈍く濁り
 開かぬ片目は
 彼方に去りし友への献花
 コヨーテ
 私は
 まったくの
 孤独という足を知らずに
 夢を見たまますさび
 か細き喉笛を揺らすだろう
 呼ぶも
 呼ぶも
 誰一人残らぬ地平で眠り
 目覚め
 名もなき草を食み
 また
 呼ぶ
 コヨーテ
  コヨーテ
    コヨーテ

■ 28 ■


 晴れた千年目の草原
 左には青い馬が座し  右には赤い虫が飛ぶ

 昼も過ぎ  黒い喪服の末裔は
 カナタへと旅立つ準備をして
 セブンスの煙草を黙々とふかす

 孤独だろう おそらく どこに居ても
 選ぶ自由はここを  指したはずなのに

 晴れた 千一年目の草原  下には茶の土を隠し 上には紫色が咲く
 空気はキッパリと底冷えして
 白い朝日は両手を広げた

 相変わらず 独りで

■ 29 ■


 月がつもった約束の丘。そこは千年前、王の玉座だったという。

                 約束は果たした そして今
                 同じこの丘の上で
                 月に抱かれて死んでしまいたいと
                 切に
                 思う

 月に血をかげらすと、逆位置に飛んでいくという伝説があった。

          そんなものは 妄想にすぎない
          足首から下が動かなくなるように
          ふと見上げてもどこにも太陽がないように

 月を抱いて眠った王。そこは千年前、どうにかなってしまった。

 けれど千年前それがなかったとして
 王は 通風にかからなかっただろうか
 いや かかったに違いない
 そして
 眠ったのだ


 月は約束の丘の上にとどまり続け、ふりつもっている。

 動かないからに他ならなかった。

■ 30 ■


 王様は立ち上がった

 痛みに
 憂いに
 悲しみに耐え

 王様は立ち上がった

 千年の
 ときを
 憎しみにかえ

 王様はくずれ落ちた

 眩暈を
 痛風の
 所為だと宣言し

 王様は眠りについた