■ 1 ■


 風が吹かなければいい
 雨が降らなければいい

 日が射さなければいい 地が動かなければいい
 食事をしなければいい 運動をしなければいい


 歌を 歌わなければいい


 指を震わせなければ 小鳥が動かなければ
 風が吹かなければ
 痛く ないのに な ぁ



 ワガママな千年王は今 石の柩に入って

                         動かない  痛くない

■ 2 ■


 さあワタシは逃げ出した


 どこへともやらぬ風の奥に
 ゆれては蠢く足の多きことよ

 連弾の紙は破り
 踏みつけ
 まだしも

 燃やし
 ぬらし
 責めたて




 ――呆れ行く所業!


 つるし上げたチェンバロの中に
 夢が詰まっているとでも思っているのか

■ 3 ■


 懐かしさに目を背けた。

 千年王のブロンズ像は今も、眉をひそめて私を疑問視している。

■ 4 ■


 白昼夢で見た王国の
 玉座は弦に
 王女は鶴に

 しろく
 ひからび

 旅人は
 塗りつぶされた緑青に座りながら
 頭を切り開け水平線を取り出した

 明けの
 水という楔は
 生きることに似ていて

 閉じた後に
 王様は弦に
 紹鴎は吊るし

 はばたいたしろは塗りつぶして
 しろは
 塗りつぶして
 また
 塗りつぶして

 塗りつぶして
 執拗なカンジで

■ 5 ■


 ラルシャンテ


 君は
 おかしなことを たまに言うね

 真昼の


 千年蝶の
 砂漠になってしまうエデンで羽ばたきをした

 影
 なんでも


 云えるものだと信じて いたのに


 ラルシャンテ

 何も
 言わない

 まばたきすらしない 母さんが

 夕焼けを合図にして動き出したときの恐怖


 寝棺に横たわった
 ミイラが発見された

 おそらく


 夜からも
 はがれないだろう

■ 6 ■


 鎖切って
 じくじくと 腐りきって

 「
  ぼくはあなたの人形です。
  もうなにも考えず、もう なにも、
  見なくていイ
 」

 腐り切って
 じくしくと 刺しあって  続けて


 慰め合った日々に停止状態の草が笑った。ぼくはあの人形を心のどこかで嗤っている。けれどそれは幻想で、鏡に反射した人形は、たしかに唇とおなじ月夜に飛ぶ。

 消えた四肢もシャシャリ
 鎖の音は どこもかしこも

 「棺が、С― もう、なにも、かも」


 腐りきっている

■ 7 ■ 眠り姫エリキュアーレ。 ■


 まっかな頬 まっかな口 まっかな鼻
 まっかな瞳
 まっかな髪 まっかな服 まっかな耳
 まっかな靴

 まっかな肢体 まっかな死体
 まっかな屍体


 まっかなアールユノイセント


 まっかな空 まっかな地 まっかな木
 まっかな人
 まっかな世界 まっかな地球
 まっかな宇宙


 まっかなシャーデンフロイデ


 レイラ、わたし、少し、眠いの。
 わたしを笑って。
 わたし、不幸よ。

■ 8 ■


 君と一緒に動いた。
 君は まるで 世界に閉ざされたようだった。

 君と一緒に止まった。
 君は まるで 世界に閉ざされたようだった。


 ずいぶんたってから僕は、
 まるで 世界にとざされたように動けなくなった。


 君は まるで 開かれたネバーランドに手招きされている
 ように踊った。


 そうか。
          僕は大人だったのか。

■ 9 ■


 うろたえていた

 もう大人になってしまうのかと
 うろたえて
 いた

 ひざしの中にうつった
 ダレともしらない千年王の目に なみだが  たれ   る

 るう ら

 る うぴ   くら ん    か つ

       あ


 あせっていた

 もう子人には もどれないのかと

■ 10 ■


 私のために傷つくあなたの、なんて素敵なことでしょう!


 あぁ千年王、こんなになった今でも

 私はあなたを傷つけたくてたまらない。



 こんなになった今でも。