■ 41 ■


 ワタクシハ
 月ヲ喰ヒマス ヒラヒラト
 舞フ
 赤色ノ固ヒ帯デ月光ヲ縛リ
 炭酸ト
 檸檬ヲ入レタ銀三角ノ硝子壜

 サアサア皆様
 白馬ノ背中ヘ
 持チ物ハ

 藍染抜ヒタ ジルコオル

 鉱石ラヂオ
 ブリキ人形
 竹細工ノ ナメラカナ花籠
 ネジリキツコ屋ノ特製蜜飴
 布張リ落下傘

 月ノ電氣ヲ奥マデ入レテ
 瞳ノ奥ヘ
 ハヂケル炭酸 赤ト黄色ノ遊覧船

 夜ヲ

 飛ビ 翔ケル
 小サキ少年ヲ模シタ雪虫花

 籠ノ準備ハ良ヒデセウ
 銀三角ノ硝子壜ヲ振リ
 ガラクノ底ヘ
 採リニ行キマセウ

■ 42 ■


 脊色の鉱石が
 幾度も 幾度も 旋回する

 白衣の足音が
 幾度も  幾度も


 標本の硝子戸は音もなく謳う
 古い永遠がささやく と


 群青の限界が
 波を 波を 音もなく

 幾度も 幾度も
 浸食する


 忘れ去れた室内は静止する
 古い記憶がかすれ 音もなく眠る


 幾度も 幾度も 眠る

 幾度も



 向きをそろえて

■ 43 ■


 硝子の欠片たち じっと観察する
 いつか降る 別れの雪を待ちわびているのだ

 何も怖くはないさと歩く後ろ姿が
 遠く錆びた記憶の檻 見続けてる
 飽きるまで笑いあった日々

 明日は雪が降る 淡くてやさしい糸
 硝子の欠片食べ 出口に積み上げていた

■ 44 ■


 君のあがった跡を保存する

 浴室タイルはグレーで覆われ
 ツルリと濡れた 白いふち
 シャンプーリンスを吐きだす口の
 その水滴も そのままに

 水だ
 ぬるい水
 ただそこにあり動くことはない
 水だ
 水という名前をことごとく不透明にする沈殿物も 髪の毛も
  なにもかもを保存する

 いとしさでは
 ホルマリンに似ていた  跡色を
 でこぼこしたフタで保存せしめる
 この
 水と
 言う名前をことごとく不完全にした 君の ふやけた抜けがらは
  生きているのか?
  死んでいるのか?

 もはやめくられない限り
 誰にだって わかりはしない

 今日は記念日 360日°

 残りの5日は時間の外に締め出し
 祝ってくれた完璧な夕日は夜に締め出し
  君の抜けがらを浴槽に締め出し 冷凍庫の扉を開けよう

 氷だ
 冷えた氷
 ただそこにあり冷え続ける固形物
 氷だ
 氷と言う名をことごとく不透明にする 君を
  保存された君を開け迎える

■ 45 ■


 ボイラー室
 の
 扉をあけると
 鈍色の機械 音をたて
 熱に気を取られ気づかない
 黒
 にかげる
 奥の
 ドア

 このごろ教授は変わられた
  あなたの仕事は学会で
  ステージに座した権威の人形
 ところが教授は変わられた
  人目をしのんで薄笑い
  休憩時間に立ち寄るはずの
  いつものカフェへもご無沙汰で

 ボイラー室
 の
 奥の
 ドアには
    南京錠
        南京錠

 このごろニュースは物騒で
  切り裂き犯の行動ばかり
  専門家たちは口ばかり
 ところがニュースは続いてる
  切り裂き犯は次の犯行
  手指ばかりを持ち去っていく

 このごろ教授は変わられた
  良いことばかりの笑顔つけ
  鼻歌なんぞを歌ってる
 ところが教授は変わられた
  学生たちをじっと見る
  獲物を狙う そんな目で

 教授の鍵
 は
 引き出しに
 南京錠
 は
 右廻し
 ボイラー室
 の
 奥のドア
 山積みされた

    芸術品


        芸術品

「君だけはこの価値をわかってくれると思ったよ。ワタシの一番の気に入りはなんといってもこれだ……。美しいだろう。君なんかはこっちの方が気に入るかも知れない。なに、君とは4年の付き合いだ。少しは嗜好を理解しているつもりだよ。珍しいもので、途中偶然手に入ったのだよ……」


 このごろニュースは物騒で
  切り裂き犯の模倣犯
  各地で犯行すること数回
 ところがニュースは続いてる
  切り裂き犯は次の犯行
  耳たぶばかりを持ち去っていく

■ 46 ■


 吐き出す ように笑った臭いは
 リノリウムの手首に
 よく
 似合った

 サラバンド というバンドを
 まず
 結成した
 とたん
 彼に
 唯一 贈った詩は 首から 羽ばたき はじめ

 どこにも


 残らない


 カサブランカの姉さんは
 チョコレイト
 を 大量に摂取
 し
 て
 い
 る
 稲妻は
 赤い  便りを便りに

 嘘も

 ほどほど言ったっきりの
 廊下の
 奥の
 いや
 手前の

 なんにでもなれた
   夜
 どこへでも行けた

 けれど

 かえってくるのはいつだって
 ペットボトルを抱えた そう
 何もかも
 胡散臭い
 晴れた
 午後の
 静止室


 机の上で眠りにつこう ルテナンカ
 手招き カサ ブランカ ラ、ラ、ラ、

■ 47 ■


 お元気ですかと息を封した手紙を焼いた
 鳥が鳴き始めました
 こちらは最近と指折り破き捨てる
 季節が過ぎ去る気配
 交わることに臆病になった
 おとといの夕飯から
 人形たちのせい
 今朝の未来の焼き魚
 失礼
 起き出してくる前に
 かたちをうしなった
 これを記すのが日課
 あなたがたなどもういない 僕の中ではね
 今日は仕事があって
 たまに見かける懐かしい影
 明日も仕事があって
 ひとりしずかにふける
 不思議と充実もあり
 明け方
 毎日楽しくしている
 夢の中で会いました
 小さく完結した世界
 驚かずにきいてください
 それなのに心の中は
 文字が
 ふるえているのです
 どうやらまだ僕を放してくれないのです
 二重にゆらいでいく
 これを記すのが日課

■ 48 ■


 永久から反旗をひるがえしている
 いつかの残骸の群れ
 寄せ集めていたエンドロールを指で束ね
 第五神話の箱に仕舞い込む
 おだやかな終末に角膜が濡れきる
 陽色の不完全死体
 出ようともしないモルモットたちは
 雨飲む残花の代弁者
 気付かないならこのまま
 飲み下して
 喉をふるわせて
 飲み下して
 ふるく割れない映像の記憶いつかの
 コード

■ 49 ■


 久々に
 埃のつもったテーブルのうえを
 ゆびで
 なぞる

 ツツウリ  キュ .


 なんとなく  あ
 ためし書き
 どうして
 いつも
 ゆびで

 あ

■ 50 ■


「君は、彼を殺しましたね?」
「いいえ」

「君は彼と友達と呼べる間柄でしたか?」
「いいえ」

「では知り合い?」
「いいえ」

「では、彼とはどういった関係だったのですか?」
「奴隷でした」

「なるほど」
「えぇ」

「君は昨晩、彼の城に居ましたね?」
「はい」

「何時頃に行ったか覚えていますか?」
「7時です」

「その時彼は死んでいましたか?」
「生きていました」

「では、8時ごろ、彼は死んでいましたか?」
「生きていました」

「では、9時にはー…」
「生きてはいませんでした」

「君は、彼が死ぬところを見たのですね?」
「はい」

「君が首を絞めて殺したのだろう?」
「いいえ」

「あくまで否認ですか?」
「僕は正直に答えているだけです」

「なるほど」
「えぇ」

「では言い方を変えますね?」
「はい」

「君は8時半ごろ、彼の首に手をかけましたね?」
「はい」

「そして、力を強くしていった」
「はい」

「彼はぐったりして床にくずれおちた」
「はい、間違いありません」

「では、君はどうしてそんな事を? 正直に答えなさい」
「僕は、ただ……」

「ただ?」
「彼がそうしてくれと頼んだから……」

「そうですか。でも、外部から見れば、君は殺人を犯したことになるのですよ?」
「いいえ」

「いいえ?」

「僕から見れば、僕は心底彼の奴隷であり、彼の命令全てをやり遂げた、正直者です」