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昨日は
終わりました
静止室にて
明日の葬儀は五時から
硝子葬にて
昨日は
終わりました
静止室にて
明日の葬儀は五時から
硝子葬にて
白い薔薇の花弁7:3葉片の暗い紫蘇
雪の涙で溶かしたインク 2g
卵(解凍したあとのもの) 4g
切取線が三本入った白紙の栞 5枚(切り取らずに入れる)
孵化器 ひとつ
密室 ひとつ
私 ひとつ
温度 よし
湿度 よし
匂い なし
院長のメモ(※Q日誌8194年21月0日)
「最初の撹拌は、三角フラスコより丸底フラスコの方が成功率が高い。
統計は次ページ。左廻しか右廻しかは重要ではないと感じる。
また、インクの色についても次ページに記す。
189−Bはインクではなく私の血で実験。失敗に終わる」
君は夢を見ていた。
君は実験室のなかで紫蘇になり
液体にひたされ
葉脈をさらけ出し
喘ぐこともせず
。
明かるヰと明くる日は似ている
遠い海は夢
実際の君は実験室のなかで紫蘇になり
メスで刻まれ
両手で持ち上げられ
まるで慈悲もなく捨てられる
涙もせず
、
一部分は標本になり一部分は捨てられ
また
一部分は茎にしがみついたまま
怯えもせず
君の夢を見ていた
#
夢のなかで君は裸体になり
無機質なテーブルの上で静止する
液体をかけられ
喘ぐこともせず
#
誰
、
君は夢を見ている。
夢を見ている最中は
動けず夢を見ている
。
海はどこ?
3月9日 0:02 脳神経外科救急室
画面にあらわれた深夜の静止画
じっくりと眺めた白衣氏は家族を集め
聞かせてくれた
「所見はありません」
「、 はぁ、」
「もしですね、脳に何らかの異常があった場合はMRIに影が映りますが、とても綺麗ですね」
「 」
「血液検査の結果ですが」
「 えぇ」
「腎臓や肝臓にも異常なし、コレステロールなど23項目全部正常値の範囲内に収まっています」
「 」
そして錠剤をくれた
よほどの菜食主義者でなければ発症しない
ビタミンB12不足によるしびれではないかと
「あなたの脳、見本かなって思うくらい綺麗だったわ」
「 」
この人に
全てを見せたつもりでいた
十数年
脳はまだだった
君が眠っている
鍵を硝子壜に入れる
君は眠っている
紫蘇を硝子壜に詰める
君に
眠っている君の胸に
硝子壜を入れる
君は眠っている
胸元を縫合する
隔離された部屋は静止したまま
隔離されたまま君は静止したまま
隔離されたままの壜詰めは静止したまま
扉を閉め
鍵を閉める
この鍵はレプリカ
君の名はレプリカント
研究者は踏み出す
廊下に靴音が響く
研究者は歩き出す
規則的な反響音は
鎮魂歌では 決してない
ひからびている
白い机の上に 落ちる
まだ
腐ってはいない
雨の窓からは 落ちる
つぶ
が
ひら
と歌ってしまい
この後で
事におよび
波打つ激情は 落ちる
予想していた天気も
ゆ
おう
の口の開きで歌われる
嘘もまた机に 落ちる
あとから
訪れる
乾きをおそれ
また
腐りにおののき
涙
つぶ
が
たべる?
と歌ってしまい
くち びひる
黒い床の上に 落ちる
含むと甘い
実だけが
知っている 足は
ひとつ、か、ふたつくらい
そう そんくらい
陸を越えた向こう側にはたくさんのこわいひとと
ひとつ
君が立っている
鋼鉄の柱の向こうからのぞく視界は
ひとつ、か、ふたつくらい
そう それくらい不明瞭さ
おかしいけれど声をかけるのは
ひとつ、か、ふたつくらい
そう そのくらい距離がいるのさまったくもって
ひとつ、か、ふたつくらい
そう そこくらい
僕と君の距離は遠く同時にゼ ロの線を越えようとしているかも
しれない
かも
しれない
ひとつ、
逢わなければ指も混じらずそれが
か、 なわない 事を同時に祈り
ふたつ、
美しくすること。デジタル化されたコトバは
限りなくゼロを使わなければ叫び 泣かないことを
知っておくこと
それは共有ではなく
ひとつ、か、ふたつくらい
そう そう
袋に手をつっこむこともなく
個別に金平糖をかき混ぜていればそれで
いいのだ
ひとふたつ欠けたって ハハ。
死にはしないさ
私は
この
24時間
夢中でわざと
飛ばないことにしている
大人になるほどそうだ
ニンゲンの子供は
夢中でいつも
24時間
飛びた
がって
いる
濃い霧のかげる室内に
植物ら 直立している 影を重ね
繁殖する
紫色の葉
中央のただ一つの椅子に
置かれている 試験管の奥で 鳥が
眠っている
白色の羽根
おそれている
変化の雪を
おそれ
ながら
ひとつの絶頂ののち
植物ら 昏倒する 茎を重ね
再生する
紫色の芽
壁面のただ一つの窓に
硝子に かかげられた絵画は 消え
旅立っている
埃を残して
濃い霧がいっそう 深まる
静かにただ 深まっていく
くりかえす 眠り 目覚め
くりかえしていく 深まる
深まっていく 静かにただ
完結する
紫色の葉
名前も与えられず
誰にも見られることはない
深い
奥の箱庭
君は悲しげに水を飲む
君は悲しげにコップをかたむける
そいつには毒が入っている
何も知らずに君は飲む
マスカット味の行方は知れない
みんなそう思っている
お前はクズだという事を
真四角の白い部屋があった
君はそこの椅子に腰かけて水を飲む
差し出されたものはなんだって飲んだ
君は咲いている
それらの養分は手のひらから落ちた
マスカット
キウイ
ブルーアップル
みんなそう思っている
彼女は美しすぎるという事を
レタス キャベツ
みんなそう思っている
キャベル キャンベル
みんなそう思っている
彼女は悲しげに涙を飲む
彼女は悲しげに君を飲む
とけてしまう行方は知れない
お前は
みんなそう思っていると思い込んでいる
彼女は美しすぎるという事を
真四角の部屋で
君は頭をかかえている
激しすぎる妄想だった
レトリック キャンベル
マスカットの行方を知っている
彼女はそのまま水を飲む
君は笑う毒を飲む
君は頭をふる激しすぎるほどに
影だ
みんなそう思っている