■ 31 ■


 舞い踊る あかね色の草
 遊びもおしまい5時の曲

 遊具も
 今は笑ってみえる
 ささやかに褪せて


 どこにでも居ていいよね
 子供ってさ
 温度をあげるよ
 バイバーイ バイバーイ

 手をつなぎ帰る親子
 追い越す 自転車の小学生

 沈みきるのを見ている
 老人
 曲の終りを聞いている
 犬


 この暮れを
 しおりに

 パタンと閉じた

■ 32 ■


 素足を鳴らして

 踊れ

 踊れ


 踏まれた樽の

 紫蘇も

 踊れ


 素足は濡れて

 シャラリ

 ナラリ


 追加の紫蘇も

 ファサリ

 沈め


 手拍子たたき

 踊れ

 踊れ


 いつしか紫蘇は

 消えて

 冷えて


 硝子の壜に

 注げ

 注げ


 乾杯の音を

 鳴らせ

 鳴らせ


 沈む夕日よ

 照らせ

 樽を


 踊り続ける

 素足を

 紫蘇を

■ 33 ■


 だれもが死んだ教室の
 外でヤマビセが鳴いている

 ほんとうは
 僕が一番だったのに
 優しい嘘つきばかりが閉じる

 校庭に
 ぽとりとヤマビセが落ちて
 まだきっとあたたかいのに

 もう

 走りたくもない

■ 34 ■


 コルクの葉を 十九才の栞にはさみ
 日より浜へ
 日よりの山へ

 千の砂より
 蟹の子ら出で
 なつき うなずき 泡飛ばす

 陽が暮れはてた
 水平線の
 とけきる船は 遠くの友を

 鳥の笛から
 報せをうけて
 宿に戻れ 木々の寝床へ

 日よりの浜にて
 日より 山にて
 いつかの栞を 取り出す日まで

■ 35 ■


 いま
 残骸を背に
 暮れてゆく砂浜をかけていく

 美しかったと海底のあたりに目を入れて
 遊びたかったと緑の泡を口に入れた

 淋しかったと抑えつけ
 簡単だったと 沈んだ

 なにもかもが夢のように積み重なる
 残骸だらけの思想は夜にも白にもなれずただ

 消えることだけ

 簡単だった

■ 36 ■


 ガラス森の奥へ 裸足のミサンガ
   今はまわり 続け
 スカート純白が 落日の影を
   通りすぎた 軽く

 ま だ 祝福は 待ちわびた月を 追い
 ま だ 新緑は くちづける花を

  指

  に   夜の声
          ねむりなさい


 ガラス森の奥に 裸足のミサンガ
   今は褪せて ほどけ
 ボーンの純白が 朝日の光を
   静かすぎた 軽く

 も う 祝福は くちづけは夢を 飛び
 も う 紅葉は 待ちわびた冬を

  葉

  に   雪の色
          しずみなさい

 揺れた枝に 六花咲く
    ガラス森の  奥
 誰も知らず 六花咲く
    静かすぎた  軽く

■ 37 ■


 五時の音楽が流れる
 秋色の教室に

 少女だけがまだ
 座っていた


   はやくかえらなくちゃ


 立ち上がった椅子は

 ああたかく
 くぼんでいる


   さようなら  先生


 冷えていく
 窓の外

 金魚がいっぴき泳いでく


 細く
 真っ赤な
 駆けていく姿を

 沈む教室からまだ
 いつまでも眺めていた

■ 38 ■


 真冬の部屋で遺書を書いた


 ストーブの灯油が切れた


 寒かったのでコートを着た


 外は黒くてそして白かった


 雪だとつぶやいた


 それから遺書を封筒に入れた


 あっというまに窓が曇った


 ひとしきり泣いた後で
  死ぬのがバカらしくなった

■ 39 ■


 落日が集積場の鬱蒼と茂る家電製品に柔肌を与へる
 青白ひ廃墟の亡霊として月が密やかに羨望を注げる程に美しく
 草臥れ死に損なっておる銀白色のブロウチが
 思春期を期待する銀の柔肌を湛えた少女と為りて
 斜陽の赤をまとい
 靴音を軽やかに鳴らし孤独の集積場を駆けまわる
 探しておる猫は
 或る朝顔の燃えゆ夏の午後二時に
 影を失くし
 何処へとも知れぬといふのに
 青白ひ夜霧の支配を無言で受け入れ眠る集積場にて
 老紳士が打ち捨てた鼈甲ステツキの先端に足首から脱いだ
 赤い靴をかけ
 少女は柔肌を失くす

 月と倒れた地点にて

■ 40 ■


 枯らした
 どろみず
 夕焼けの雲が羽になって
 ジョウロがひどく くすんで見えたね


 じいじとばあばと
 誰もいなかった畑で
 紫蘇の葉をちぎっては きたないカゴに 放り投げたよ

 サンダルの糸がほつれていった
 倒れた木造の家屋にはひとつも 手を 触れられなかった


 たたんで
 青虫
 暗くなっていく作業場の電気は いつも ばあばがつける係だった
 いつも笑っていたはずなのに

 音が
 ない
 用意された食事 指先から上が夜