■ 1 ■


 青い明け方 朝露の色 指をすべらせ飲み干しましょう
 花咲く前に 丘を越えたら 青い波間に飛び込みましょう

 カ ラン コ ロン
  靴を響かせ て は

 カ ラン コ ロン
  人形のよう に お ど り

 吊るされた白い月 消えかかる細い星
 海が映る反対側の 空の青さ

 倒れてしまうように 夢の続きをみて
 空が映る反対側の 海の煌めき

 おしまいの合図して 朝をしらせ飛ぶ鳥の
 風切る 花切る 羽で 雲を編みましょう

 カ ラン コ ロン
  カ ラン コ ロン お ち て

 カ ラン コ ロン
  カ ラン コ ロン 海と


 カ ラン コ ロン


  カ ラン コ ロン

■ 2 ■


 冷えた手
 細い手
 雨の林道をひた走って
 かなり酷い
 濡れ方をしたよね

 かき乱されたチェリーソーダ
 ピンクと透明が混じれば
 何色になるのか知っているかい?

 また
 ということばがキライ

 なぜ
 といって笑う
 あの日あの時のあの答えは

 もう今はどこにもない

 雪が雨にかわる朝
 どこでもない場所

■ 3 ■


 しかしどうしても
 そこへ

 焦がれるときには海へ

 砂の上に沈殿した  白い 死んだ星と

 息がつづくまで
 そこで


 おびえている
 とびたくない

 逃げてしまおう   奥へ

■ 4 ■


 しろ人肌の
  恋そめた
 うつわを片手に
  咲んざく乙女

 雨すり足袋より
  野菊へ浸みて
 ふるわす葉音
  果て晴れた

 (シン)

 早朝の日差し よけた地面の影 君の咲く山 秘密の湧き井戸
 出かけよう
 君の残骸が心地よく茂る柵の中 鈍器の陶器は投棄されたまま
 抱きしめるために
 シャベル 手袋 疲れた時の水分 下半身につけるゴムのやつ
 あぁ
 あれ
 長靴って名前だった

 (ラン)

 乙女の花よ
  山吹よ
 晴天の雨を
  燦々降らし

 全てを流し
  沈黙は枯れ
 嗚咽のうたと
  葉に垂らし

 (イム)

 本当は それを言えば簡単な事だった どうしても言えなかった
 言えないときにはどうすればいいい

 本当は 言わないつもりだったのに

■ 5 ■


 五月の空に
 こいのぼりが泳いでる

 風にはすいすいしたがって
 川にはざぶざぶさからって

 ざーん
 ざーん

 滝をのぼると
 龍になるんだって

 雲にのって泳ぐ龍が
 見下ろす空に
 こいのぼりが泳いでる

 おーい
 おーい

 早くこっちへおいで

■ 6 ■


 高くそびえる山の奥から
 ちいさな雫が

  * ぽたり * ぽたり *

 受ける手のひらを つうとすり抜け
 川になるため
 旅をはじめる

  * とんとん * ちょろちょろ *

 集まる樹の根から

  * すうすう * ざざざぁ *

 巨岩が眠る
 うねる道をたどる

 山郷の村のなか 一本通る川岸

 大工たちの号令で木の橋がかかるよ

  * とんとん * かんかん*
  * こんこん * かんかん*


 山の神様へささげる少女
 白い装束で橋渡ると

 山の鳥たちが一斉に声あげ
 祝いの言葉次々に鳴きこだまする空

  * かあかあ * ぴちちち*

 橋のうえから見下ろす
 この川の果てには

 少女の知らない 大きな海があるのでしょう

 落とした花束が 流れ着いた先には

 少女の知らない 大きな海があるのでしょう


  * ざあざあ * ざざざざ *

■ 7 ■


 海辺の
 浅い緑に生えた
 紫蘇の新芽を切りそろえていく

 高さを揃え
 葉数を揃え
 黒い
 剪定鋏の先で切りそろえていく

 海辺は
 続き浅瀬も続き
 切り揃えられた等間隔が
 波と静かに戯れる

 おそらくここは
 夢だろう
 そうでなくても
 続かない

 茎に
 添えた
 左手をたたみ
 剪定鋏の先で切りそろえていく

 緑は
 深いところで青に
 遠くは
 雨が降り続け
 紫蘇を
 落とした砂浜は
 波に
 濡れて
 運ばれていく

 鋏の先を
 丁寧に拭き垂れた血液を
 硝子壜に詰める
 折り返して
 泣いている欠片を集め
 硝子壜に詰める

 おそらくここが
 夢でなくても
 おそらく指を
 揃えて

 おそらくいまは
 揃えたのが紫蘇でなくても
 ほんとうはもう
 生まれなくても

■ 8 ■


 さっとあらっ
 抜けてく

 広場の細い塔に
 時間は影を映し


 あの湖から羽を叩き飛ぶ
      ……黒が金と舞う
       ……太陽の魔術
 疲れた銅像 噴水の銀貨に
 うつむき加減酔うしわがれた素足

■ 9 ■


 低木を抜けた広い砂浜
 波打つ海は穏やかに
 見上げる空は涼やかに

 ふ と

 桟橋の回廊に立つ
 無限の字を描く回廊の
 中央にはシーサーが座り
 あくる日を待ちわびている

 は な

 そうだ
 ひとつめの花を選ばなければ……

 ひとつめの花
 ふたつめの花
 みっつめの花

 人生の中の花を決めて
 天地と自身を結ぶ花

 なぜそうしなければならないのか
 わからない

 な ぜ

 この景色が

 夢だから……

■ 10 ■


 ハ ンリ ハンリ 野をこえ半里
 進む連結ぐるまに 乗 り

 ハンリ ハンリ 野をこえ半里
 ガンタリゴントと  。


 草原
 はしる 綿が
 葉緑体をなぞ お る
 千年
 行方も
 目的も なぁい とうそぶき なぁがら
 昨晩
 あめに 濡れた
 案山子が隣り 座 る
 街も
 車掌も
 まどろみトン ネ ル 駆け抜けた


 ハンリ ハンリ 野をこえ半里
 ハンリ ハンリ 野をこえ半里
(海か山か)
 ハンリ ハンリ 野をこえ半里
 ハンリ ハンリ 野をこえ半里

(王さまの廟まで、二枚でいけますでしょうか?)

 ハンリ ハンリ 野をこえ半里
 ハンリ ハンリ 野をこえ半里
(砂丘と廃墟)
 ハンリ ハンリ 野をこえ半里
 ハンリ ハンリ 野をこえ半里


 千年
 くずれ かけた
 墓標の前でい のぉ る
 昨日
 今日も
 明日も なぁい と感謝も せぇずに


 駆け抜けていく
 時間とおなじだけの砂 が 手にこぼれて
 す くわれないと こぼす の は
 き
 み
 の
 影が目覚め闇へ誘う
 おいで おいで こちらへおいで
 柱
 倒れる
 教会で
 鐘が朽ちた結婚式を
 おいで おいで こちらへおいで
 ゆうべのしずくで満たした水筒
 銀のリング
 古い音楽
 斜陽の燃える
 淵までおいで

 選ぶ指を


 ハンリ ハンリ 野をこえ半里
 夢が終わり列車が くぅ る

 ハンリ ハンリ 野をこえ半里
 最後の風が廃墟を ぬ け

 ハンリ ハンリ 野をこえ半里
 千年たどる旅路の は て

 ハ ンリ ハンリ 野をこえ半里
 黄朽葉色の     。