■ 41 ■
こんなことして
許されるはずもないのに
十字架に祈って
許してほしいと言ってしまう
神様は慈悲深くて
まわりの人間なんて
怒ってばかりなのに
光あふれる教会に独りでいると
なんだか
とても
落ち着く
でもやっぱり
逃げてばかりじゃいられない
今ごろ
神父さまが
電話で警察に連絡しているだろうし
さっきから
天井に響くヘリコプターの騒音は
TV局のものだろうし
あーあ
終わり
こんなことした今でも
本当に貴方が好きなのに
好きなのに
自分から会えなくしちゃうなんて
どうかしてた
神様は慈悲深いけれど
きっと
死刑のあとには地獄行き
貴方は
きっと
今ごろ天国の門の前で
やっぱり
怒ってるんだろうな
■ 42 ■
あたしあしたあなたとしたい
不思議な心を共有したい
あたしとあなたはあしたのしたい
来世は一緒にバカンスね
■ 43 ■
あなたは二度も私を殺して
それでいて笑っているの
「二度目に訪れた死は、そんなに怖くなかった。なぜなのかしら?」
三度目に会ったら
もしかしたら殺されるのかしら
微笑んで「愛してるよ」と囁いた拳銃が
まるで三日月を壊すよう
■ 44 ■
世界からすりぬけるひとりの旅路
何度も訪れる激しい後悔にふり返っても君の声は
「愛していたのに」
聞けない
■ 45 ■ 溺死体 ■
きみのうでが
そうっとのびて
笑顔で
くびをしめる
あぁ
そうさ
きみはぼくを愛していて
ぼくはわらっておちる
■ 46 ■
ありきたりに死んで見せてよ
そうしたら彼女がきっと
「つまんない」
って笑うだろう
庭は停止したまま
博物館の窓のように
青だけが光で
彼女の笑い声もきっと
そうなのだろう
知らないけど
■ 47 ■
屋根裏の 忘れ去られた古い棺のなか
ちいさき少女は永遠をまどろみ横たわる
いつかの黒いドレスに 紫蘇色の薔薇を一輪差し込み
細長い指をふるわせて
永遠の鐘を待ちわびた
少年のかたちは教会の屋根から声をかけ
少女のシルエットは
クスリと動いた
雨が降らないわ
この辺はみんな ずっとそうだよ
雨は降らないの
灰色の国 外からはそう呼ばれている
雪が降らないわ
この辺はみんな ずっとそうだよ
雪は降らないの
かわりに並べようか 新しい 白い棺を
屋根裏に並んだ 古い棺の横に
名前のない少年が永遠を憶えはじめる
あの日の黒い燕尾に 紫蘇色の薔薇を二輪持ち
胸のうえに指を組み
同じ方角を見上げた
星が降らないわ
この辺はみんな 屋根があるから
星は降らないの
まぶたの裏に 泳いでいるよ
鐘が降らないわ
この辺はみんな ずっとそうだよ
鐘は降らないの
かわりに歌おうか 新しい 鎮魂歌を
屋根裏に降り積もる 雪のような棺のうえに 歌は
いつか誰からも忘れ去られ
飾られた薔薇の花弁が たわいもない隙間風に散る いつか
その日が永遠となる
■ 48 ■
行けない。
会えない。
向こう側の向こう側は表じゃない。
こちら側のこちらは確かに表だよ。
だから
きみは
数かぎりなくスクエット。
そうだ死のうとしているね。
すこしも
くるしく
なく
いたくも
なく
これから行こうと思うんだ。
四時半に駅の南口での大きな柱の
そこで
きみは
柱に首をただ天井にむけて。
そうして死のうとしているね?
でんしの
てがみを
可能なかぎりスクワット。
可憐なかおからクワイエット。
てんしの
かがみを
掲げつくしたのはきみだ。
それを壊すのはほんとうは。
行きたい。
会えない。
愛なんてバカバカしいもんじゃない。
電波信号を捉えるその眼球ごと。
きみを
ころすのは
きみを
ころすのは
ぼくだ。
廃墟のような丸い部屋がプレジデント。
生に反旗をひるがえしたジプシーエンド。
顔も。
知らない。
名も。
解らない。
010010101110111。
001000001111010。
■ 49 ■
星を見に行こう
君を
海の砂に戻すよ
日本の果てと 果てに住む
二人の男女が出会ったころ
なんだか大きい色々があり
とりあえず
君は
肉になった
燃やして白と黒の骨になる
ちいさくなった君を
抱きしめて砕き
夜 星を見に行くときめた
はてるまへ
乾季の
はてるまへ
暑さが 指で僕の背中をなぞり
しるされた場所に適当に撒いた
一瞬にして君は海の砂になって
そうして僕はとりあえず泣いた
ウソだ
二人が出会って間もないころ
よくウソツキという鳥を見た
その鳥は羽ばたくこともなく
日本のそこかしこで
二本の足で
ウソをついてはあるいていく
カクテルの海がワインになって
陽が沈んだと教えてくれたのは
指が
なぞる
共謀
ウソを
暑い
君が これは
乾季
星を
見ているから
ここでしか見れない星座がある
観光客が
砂になった君を
持ちかえらなければいいと思う
南の向こうに
星葬を行う島がある
ざあっと光が舞い
みんなが
島の一部になるという
ウソだ
鳥が頭上をくるくるまわり
一声鳴いて星になっていく
何羽も 何羽も たくさん
君に ついたウソばかりが
星に なって君をとむらう
最後に
いちばん最近の
僕が流した涙が飛んた
誰かが 指先で背中に触れる
君だと 言わせてはくれない
上を向いて
観光客の気持ちを考えた
君の白は珊瑚と大差ないだろう
僕のウソも本当と大差ないしね
■ 50 ■
全部
ぜんぶ 集めちゃお
お砂糖 お塩にお醤油 酢 味噌
ぐつぐつ
何ができるかな
楽しいキッチン
ラジオはFM
全部
ぜんぶ 集めちゃお
泡だて器 布巾にボウル 氷入れ
かちゃかちゃ
何ができるかな
うれしいお菓子
予熱は入れた?
全部
ぜんぶ 集めちゃお
人参 ジャガイモ玉ねぎ あとは
この箱
何の箱だろね
いい匂いさせて
美味しくなあれ
全部
ぜんぶ 集めちゃお
目玉と髪の毛 手足に胴体 鼻 耳 唇
ぎこぎこ
何ができるかな
今度はちゃんと
愛せるのかな?