■ 31 ■
3番は
作ってラップしておいた料理を 食べてくれなかったこと
2番は
帰ってきたときに 抱きしめてキスをしてくれなかったこと
1番は
1番残念だったのは
ほかに好きな人ができた って
別れてくれ って
土下座して頼まれたこと
ううん
本当に残念だったのは
浮気してたんだって思った瞬間
いつも心を温めてくれた あなたへの愛情がス―っと
消えていったことだったよ
暗い部屋でひとり
泣けなくなってしまったことだよ
■ 32 ■
僕たちは
海と空しか見えない空間にひとつだけ伸びる
錆びた線路を歩いていた。
海は凪いで、
空は快晴。
海底と宇宙はわからない。
見えないものはいつだってわからない。声を出さないのは死んでいるのと同じだ。無言のそぶりでわかった気になっているのは加害妄想者だけだ。
線路は延々と続いていた。
隣には誰もいなかった。
僕たちは歩いている。
けれど隣には誰もいなかった。
歩きながら、右も左も前も後ろも確認した。
誰もいなかった。
そして
その間、僕たちは無言だった。
■ 33 ■
好き
と
一日10回言うことで
きみ
を
好きになると思ってた
今年
で
十年つづけてきたのに
きみ
を
好きになれない
何故
か
分からない
本当
に
■ 34 ■
波がゆれていた。
ぼくの目がみつけた。
ゆっくりと沈んでいくんだ、彼女が、その手をうやうやしく掲げた午後、笑っていたということにぼくはやっと気付いたばかりだったのに。
ぼくが揺れていた。
なみの月をみつけた。
抱きしめられたと気付いた時に、なにをつぶやいていたか、どうして、自分の声がきこえない……。
■ 35 ■
「そうだね」
いつまでたっても離れようとしない君の足を見ていた。
君は僕を救ってはくれないし
僕は君をもう救おうとはしたくなかった。
数十分たった公園の裏路地で
ある漫画の主人公がこう言っていたことを思いだした。
『あたしのどこが好きなの?』
『――メリットなしで僕といてくれることだよ』
「僕のどこが好きだったの、」
過去形にしてつぶやいて
五秒たったあとだった。
「そうだね……メリットなしであたしと居てくれたことだったな」
今はもう
その言葉にショックを受けたりなんかしない。
■ 36 ■
「ワタクシは二人」
「ボクは、ふたり」
「家の中で飼いならされた小鳥」
「家の中で飼い殺された、番犬」
「傷がつかないように」
「傷をつけられるよう」
「やさしく」
「きびしく」
「そして」
「そして」
「きびしく」
「やさしく」
「まうしろには」
「ボクの前には」
「血をわけたあなた」
「血が同じご主人様」
「いもうと」
「この人を」
「ワタクシはこのいもうとを」
「いけないことだと、解って」
「愛しているのです」
「触れたいと、願う」
「たとえそれで、地獄に落ちたとしても」
「たとえそれが犯された領域だとしても」
「きっと」
「たぶん」
「あなたがきっと助けれくれるわ。手をひいて、キスして、そして」
「抗うことなどできない。その手も、その唇も、ボクを閉じ込めて」
「あぁ、美しい」
「なんて、汚い」
「ワタクシは美しい」
「ボクはとても醜い」
「その同じ顔のいもうとを、ワタクシは愛しているのです」
「いつかこの手で絞め殺してしまいそうだ……。ねえさん」
「嬉しいことに」
「皮肉なことに」
「今日は」
「今日は」
「とても晴れて」
「とても晴れて」
「ワタクシの後ろには」
「ボクの目のまえには」
「あなたが居ますわ」
「ねえさんが座って」
「あぁ、」
「あぁ、」
「きっとこれを愛というのですわ……」
「……これはアイなんてもんじゃない」
■ 37 ■
僕が寝ている間に 君は泣く
ゆるりと
念仏を垂れ流しながら
夢で 神は死んだ
めがさめるころにだけ
君はそこから去る
■ 38 ■ 二方通行 ■
僕が近くに行くから
君は遠くに行ってはくれまいか.
僕が右手をあげたら
君は左手をおろしてくれまいか.
僕がスキだと云ったら
君はキライと云ってくれまいか.
僕がそれらを考えたとき
君はそれらを考えないでくれまいか.
僕が「同じなんて嫌だ」って言ったら
君は「違うことが好き」と言ってはくれまいか.
僕は若くして汚くなって死ぬから
君はどれだけ年をとっても純粋なまま生きてはくれまいか.
■ 39 ■
「...嘘つき」
閉ざされた世界の中で
旅立った方角に向かって舞い落ちる花びら
Rainy sky...
■ 40 ■
幸せな
明かりに……外から見えるだろう
あれは
死神の罠
哀れに向かうしかない
「ただいま」と
呟き……立ちすくむ部屋の奥
君は満面の笑み
彼女は青ざめている
君が怜悧な目で指をさせば
彼女は震えながら助け求めている
『――まだ理解していないのかしら?』
『――あなたはもう』
『――私に裁かれるしかない』
出来心で
知らなかったの
既婚とわかっていたら関係しないし
だいいち
最初から
声をかけたのは向こうで
『――そんなこと聞いていないわ』
『――聞く必要も全くないの今からあなたには』
『――ひとつだけ』
『――選択をさせてあげるから』
入口に……立ちすくんでる
俺を手招きしてる
切りつけるような笑みで
有無も言わせない笑みで
君はもう……許しさえも
受け入れてはくれない
謝罪も言い訳さえも
流してただ進めている
『――これ以上嫌いになりたくない』
『――お願いだから何も言わずにいて』
『――まだ理解していないのかしら?』
『――この女もあなたも』
『――殺してあげるわ』
その言葉に泣きじゃくって
彼女はごめんなさいと反省している
「今ならまだ」
「やり直せる」
『――寝言を言うのはよしてよ』
入口に……立ちすくんでる
俺に微笑みかける死神の
「妻」といえるべき
その唇は
『愛している』とは動かない