■ 11 ■


 乳白色の第一関節が
 わたしのために震える 剥がれ落ちてしまわぬようにと
 黙秘しつづけた背骨は
 夏の残像を曲げ
 呼ばれ ひどい錯覚に陥った

 振り向くと恋が ぶつかり砕けた
 ひどく当たり散らしたため流れはじめた星のきれはしだった
 髪の毛は
 五線譜のように燃え

 過ぎ去ってしまったのだ! いつか
 望むようにあたたかく 広い皮膚をあて
 しづかに
 隆起するひとつ ふたつ いつつを

 あの日を締めだしてしまった
 あなたのために震える 裂いて暴いてしまわぬようにと
 ただ 密かに

■ 12 ■


 スカートを花にさせながら
 君はくるりと
 まわって笑う

 三階の窓のたてつけは
 開きっぱなしに
 丁度良かった

 これが恋なら、どんなにか!

 スカートの花をふゆらせて
 君はあいつの
 となりで咲くから

 走って逃げた踊り場は
 胸の墓標に
 花を散らせて

 丁度良かった

■ 13 ■


 ねぇ、本当のことを言っていい?

 実は……私……本当はー…

 やっぱりやめた!

 君から言ってよ

 本当の気持ち

 実は……私……本当はー…

 知ってるんだからね!

■ 14 ■


 疲れ果てた手の指先をのばし 助けを求めても
 世界の闇に消えて逝くだけ

 どこかに消えたメッセージ
 本当はずっと答えを待っていた

 満月にかざす赤い手
 海にひたす青い手

 溶けてしまいそうな昨日の夢を思い出す

 シルバースターにあこがれて
 カーディナル・ド・リシュリューを散らしながら
 ひとりぽっちで

 ねぇ
 あなたはきっと
 人に愛されながら生きるのですね

 私は
 忘れかけた手紙を待ちながら
 隣で

 あなたの隣で

 ずっと

■ 15 ■


 ボクと一緒に
 長い話をしませんか?

 昔々の文明の
 雲の上にあった都市や
 今はもう無い
 海の底に沈んだ都市の

 どうでもイイ話
 でも 限りなく長い話を

 そうだなもし
 長い話をしたとして
 時間をきめよう
 最低10時間
 最高でボクが死ぬまで

 例えばナイル
 スフィンクスの謎謎と
 例えばインカ
 オーパーツの不思議や

 場所は中国
 シルクロードの象の話
 場所は南極
 旅してる北極グマの話

 長い話をしようよ

 未来の話は
 2秒で終わるから過去の
 長い長い
 長い長い長い長い長い長い……

 君の話を聞きたい

■ 16 ■


 あぁ
 君は
 僕の
 この
 左手首を見てもまだ

 好き
 だと
 言う
 のか
 い? おかしいよ?


 あぁ
 君は
 僕の
 この
 独白の王座をまねて

 僕を
 せん
 ねん
 おう
 だと言いはっている


 あぁ
 君は
 もう
 僕の
 理解を超えていくね

 親指
 魔法
 痛風
 千年
 もう
 死んだと言うのかい


 僕> おかしいよ?


 君< おかしいよ?


 理性
 理念
 理解
 埋葬
 千年
 もう
 死んだと笑ってるね


 それ
 って
 僕が
 好き
 だと
 言う
 のか
 い?
 ねぇ、おかしいよ?

■ 17 ■


 この雪の形
 知っている

 三年前

 人を
 殺して
 泣いて
 いた
 私に

 キスしてくれたあなたの ユキ

 思わず殴ってしまったけれど


 好きよ


 同じ雪なんて
 同じあなたなんて

 二度と

 会えないけれど

■ 18 ■


「死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」



 「そんなに言うなら死ねばいいじゃん」


 「だめ……死ねない
  だって雪、降ってないでしょ」


 「和紙で良かったら、作ってあげるよ」
 「そういうのを日本語で   偽善っていうのよ、アダム」

■ 19 ■


 ファルファッレが
 茹であがったとたん羽ばたいたので
 同居人にきくと
 「よくある、気にすることはない」
 と
 言われました

 ファッサリと積もった雪の上に
 両手で
 すくった黄色い蝶を放してやります
 地球からの電報が届いたらしく
 「おいしいってさ」
 と
 同居人に言われました

 うちの同居人は
 なんかちょっと変です

■ 20 ■


 あの 人に 告白する
 あの 人は ないて走 る 一人だけで凍える、まぶしそうな雪原

 あの 人に 触れていたい
 あの 人は 振れて痛 い 人波は懐かしく、ドームに吊るされてく


 サン サンと 降りそそいで
 サン サンと 振り雪いで フーコーめいびな夢、あの人と踊る町

 あの 人が 振り雪い で 血のような針の音、まぶしそうな切断