■ 1 ■


 きみを噛んだ


   律動


 甘いんだね。すごく

■ 2 ■


 ふっくらしていて甘いもの
 ぷかぷか浮かんで雲のうえ

 たっぷり 息を吸いこんで

  ねえ!

  大好き!

 って 言ってみる

 ふるふる動いておさえられない
 ぶわっとあふれる この気持ち

 きみは
 笑顔で

 世界でいちばん甘い笑顔で
 なんて返してくれるのかな

■ 3 ■


 君と二人
 手をつなぎ歩く
 公園の並木道

 紅葉した銀杏が
 はらはら
 めいいっぱいの
 祝福をくれるから

 くすぐったくて
 笑いあう時間

■ 4 ■ Li-ra Li-ra ■


 君は唄った
 リラリラと笑った

 夕暮れの皿が沈む

 そういう色に限って
 許すの やめてほしい

 リ ラ

 鈴が鳴った
 君と一緒に

 星が揺れた もう泣かない

■ 5 ■


 花びら一片 ひらら

 彼女が降らせる ひらら


 健康的にまるまる太った
 彼女のまわりに花が降る

 時々ぼうっと窓を見る
 横顔にそっとかぶる一片 ひらら

 恋しているんだ

 叶わない恋を


 ひらら 彼女の熱量が
 花びら降らせる ひらら

 見つめ続ける
 ただ 静かに
 それだけでいいらしいね ひらら


 健気な彼女を眺めている
 僕の頬には
 銀杏の葉が ひらら
 落ち続けているといいうのに

■ 6 ■


 キラキラかがやく星空を
 屋上から二人で見ていた

 「あっ、流れ星!」

 喜ぶ顔
 どこまでも幸せそうな彼女に嫉妬して

 「……きっとすぐ消え去るんだ」

 なのに、笑顔で

 「また流れるよ。一緒にお願いしよう?」

 暗い
 屋上で
 彼女は
 光って

 「ねぇ、一緒に、笑おう?」

 君の喜ぶ顔って
 銀色だ
 空もますます星が輝いていて

 流れ星が

 僕の
 壊れそうになった心に愛情が

 君の喜びが

 全部一緒になって着地する

■ 7 ■


 秘密裏に行われたゲームは
 動く米粒を増殖させて惑星を覆いつくす
 と
 いうものでした

 私は後手で
 増殖を促進させるために権力者には一夫多妻制を制定

 米粒はすぐに枯れるので
 長く白くもたせるために
 拠りどころとなる宗教をいくつか制定

「お、やるね」

 彼は先手で
 既に
 このゲームの最大の核である
 いくつかの米粒消滅イベントを華麗にすり抜けていたので
 更なる増殖を促進させるために
 あえて戦争の種を植える

 海を隔てた場所へ米粒を数粒移動
 別な米粒が海を渡れるように笹舟を用意

「あ、その手がありましたか」

 気持ち悪いほど増殖した米粒を
 気まぐれにつまみあげて眺める

 だれかが神隠しだと叫んでいる

■ 8 ■


 指が同じ白をたたく
  これはすべて上書きのピアノ

 指が違う黒をねらう
  それもすべて上書きのピアノ


 指が君の紅をなぞる
  あれはすべて下書きのノート

 指が髪の影をすくう
  どれもすべて下書きのノート


 君の声が青をよんで
  これはすべて上書きのベッド

 僕の息が水をふくむ
  それもすべて上書きのベッド


 君の足が肌をよせて
  あれはすべて下書きのカット

 僕の首が光をひいて
  どれもすべて下書きのカット


 朝がまた来てピアノの音に

  耳をすませば君は鍵盤の

 埃をとって

  消さないで

 上書きはやめよう?

  不思議がお

 可愛い


  スキ


 君が僕の頬にキスして
  どれもすべて ひとつだけのコール

■ 9 ■


 あすこに光る ドロップが見える
 そういえばキミは プラネタリウムが好きだったね
 違うよ リノリウムの話

 その足かせを噛み千切って
 逃げてみても いいけれど

 ねぇ折角スコーンを焼いたんだ
 今しばらく
 着席していてはくれまいか


 そういえばキミは 金色のライオンが好きだったね

 違うよ 銀のさかなは空だよ

■ 10 ■


 太った彼女が言った。
 「宇宙人は未来人だと思うのよね」

 僕は本から目をはなさない。
 「ほう、」

 「宇宙人が居るとしてだよ仮説。わざわざこんな辺鄙なとこまで何回も来ないでしょ? 未来人がタイムマシンで来たって方が何倍も信憑性あるよね」

 「ほう、」

 「グレイの口だってさ、今でさえやわらかい食べ物が多いから、顎が退化したんだよで、さらうのも、遺伝子を取って未来をどうにかしようってこと」

 「ほう、」
 僕は本から目をはなさない。

 「君は栄養取らなさすぎ。グレイになっちゃうよ」

 「それは……聞き捨てならないですね」
 僕はようやく本から目をはなした。
 雨が降っていた。