■ 又、双人ハ ■


■ 71 ■

 「ここにこたつがある」
 「うん」

 「果物ナイフも用意してあげた」
 「うん?」

 「まぁ入りたまえ」
 「うん」

 「……どうだい?」
 「……弱にしていい?」

 「いいとも。では、次に君が望むものは何だ」
 「みかん」

 「は?」
 「みかん」

 「は?」
 「みかん」

 「……もう一度言おう。ここにこたつがある。果物ナイフも用意した。君が望むものは何だ」
 「みかん」

 「は?」
 「みかん」

 「は?」
 「……きみは僕の望みなど聞いちゃいない。自分がほしい答え以外を、拒絶するのがその証拠」

 「そんなことはない」
 「じゃ、みかん」

 「は?」
 「出たよ難聴の青森県民」

 「青森県民が全員りんご好きだと思われるのは不愉快だな」
 「やっぱりりんごだった」

 「いや、実はみかんも買ってある」
 「なんだ」

 「箱買いでな」
 「豪快」

 「では三度問おう。君の望みはなんだ」
 「みかん」

 「ほらよ」
 「……さっきまでのは、」

 「そりゃあ、三度目で叶えてやるのが神様ってもんだからな」
 「自己満足だ」

 「ひとがする行為なんて、だいたいが自己満足の神様みたいなものだ」
 「鳥になりたい」

 「飛んだ自己満足」
 「寒い」

 「強にしたまえよ」
 「暑い」


■ 72 ■

 星を見に行こう
 君を
 海の砂に戻すよ

 日本の果てと 果てに住む
 二人の男女が出会ったころ
 なんだか大きい色々があり

 とりあえず
 君は
 肉になった

 燃やして白と黒の骨になる

 ちいさくなった君を
 抱きしめて砕き
 夜 星を見に行くときめた
 はてるまへ

 乾季の
 はてるまへ

 暑さが 指で僕の背中をなぞり
 しるされた場所に適当に撒いた
 一瞬にして君は海の砂になって
 そうして僕はとりあえず泣いた

 ウソだ

 二人が出会って間もないころ
 よくウソツキという鳥を見た
 その鳥は羽ばたくこともなく
 日本のそこかしこで
 二本の足で
 ウソをついてはあるいていく

 カクテルの海がワインになって
 陽が沈んだと教えてくれたのは

 指が
      なぞる
 共謀
     ウソを
 暑い
      君が これは
 乾季
     星を

 見ているから

 ここでしか見れない星座がある
 観光客が
 砂になった君を
 持ちかえらなければいいと思う

 南の向こうに
 星葬を行う島がある
 ざあっと光が舞い
 みんなが
 島の一部になるという

 ウソだ

 鳥が頭上をくるくるまわり
 一声鳴いて星になっていく
 何羽も 何羽も たくさん
 君に ついたウソばかりが
 星に なって君をとむらう

 最後に
 いちばん最近の

 僕が流した涙が飛んた

 誰かが 指先で背中に触れる
 君だと 言わせてはくれない

 上を向いて
 観光客の気持ちを考えた
 君の白は珊瑚と大差ないだろう
 僕のウソも本当と大差ないしね


■ 73 ■ 二方通行 ■

 僕が近くに行くから
 君は遠くに行ってはくれまいか.

 僕が右手をあげたら
 君は左手をおろしてくれまいか.

 僕がスキだと云ったら
 君はキライと云ってくれまいか.

 僕がそれらを考えたとき
 君はそれらを考えないでくれまいか.

 僕が「同じなんて嫌だ」って言ったら
 君は「違うことが好き」と言ってはくれまいか.

 僕は若くして汚くなって死ぬから
 君はどれだけ年をとっても純粋なまま生きてはくれまいか.


■ 74 ■

 幸せな
 明かりに……外から見えるだろう
 あれは
 死神の罠
 哀れに向かうしかない
 「ただいま」と
 呟き……立ちすくむ部屋の奥
 君は満面の笑み
 彼女は青ざめている
 君が怜悧な目で指をさせば
 彼女は震えながら助け求めている

『――まだ理解していないのかしら?』
『――あなたはもう』
『――私に裁かれるしかない』
  出来心で
  知らなかったの
  既婚とわかっていたら関係しないし
  だいいち
  最初から
  声をかけたのは向こうで
『――そんなこと聞いていないわ』
『――聞く必要も全くないの今からあなたには』
『――ひとつだけ』
『――選択をさせてあげるから』

 入口に……立ちすくんでる
 俺を手招きしてる
 切りつけるような笑みで
 有無も言わせない笑みで
 君はもう……許しさえも
 受け入れてはくれない
 謝罪も言い訳さえも
 流してただ進めている

『――これ以上嫌いになりたくない』
『――お願いだから何も言わずにいて』
『――まだ理解していないのかしら?』
『――この女もあなたも』

『――殺してあげるわ』

 その言葉に泣きじゃくって
 彼女はごめんなさいと反省している
「今ならまだ」
「やり直せる」

『――寝言を言うのはよしてよ』

 入口に……立ちすくんでる
 俺に微笑みかける死神の
 「妻」といえるべき
 その唇は
『愛している』とは動かない


■ 75 ■

 僕のフィアンセは天使である。

 死に天に召された時、天国で結婚式を挙げる予定なので生きている限りフィアンセである。
 僕の天使……、いや、この言い方は十分ではないなぜなら天使は仕事として世界中の人間たちに神の意と愛を伝えるのが仕事だからだ。だから僕が独り占めしていい存在じゃないししかも仮に結婚式を挙げたとして現世に転生するまでの、つかの間の結婚生活ですぐに離婚するのであるから例えていうなら「僕の死亡から転生までの期間結婚を了承してくれている天使」だろう。
 まだるっこしいので「僕のフィアンセ」とする。
 一般的にフィアンセというと女性・男性という伴侶イメージが強いが天使は中性的存在であらねばならぬため、やはりフィアンセという言い方も間違えているかも知れないがあえてのフィアンセ。

 そう、あえてのフィアンセである。

 天使の存在が信じられている宗教の中には、結婚前の同棲はタブーというところもあるだろう。だがフィアンセは6日目の仕事が終わると安息日がはじまる零時キッカリに僕の部屋にお泊りしにくるだけで同棲では決してない。いや、お泊りでもないだろう。ただ24時から部屋にお邪魔して、9時間ほど部屋でおしゃべりしたあと一緒に外出して教会のミサに参加しフィアンセがステンドグラスをすり抜け天まで帰るのを見届けるだけのちょっとしたデート。いや、デートとも呼べないだろう。なぜなら僕のフィアンセには、僕ですら触れないのだから。

 しかしそんな寸止めプレイもまた一興。
 そして天に召されても神が間近で見ているので触れるわけないのに一票。


 おっと、そろそろ零時になるので落ちますドゥグフフ。


■ 76 ■



■ 77 ■

 「そうだね」

 いつまでたっても離れようとしない君の足を見ていた。

 君は僕を救ってはくれないし
 僕は君をもう救おうとはしたくなかった。

 数十分たった公園の裏路地で
 ある漫画の主人公がこう言っていたことを思いだした。

 『あたしのどこが好きなの?』

 『――メリットなしで僕といてくれることだよ』

 「僕のどこが好きだったの、」

 過去形にしてつぶやいて
 五秒たったあとだった。

 「そうだね……メリットなしであたしと居てくれたことだったな」

 今はもう
 その言葉にショックを受けたりなんかしない。


■ 78 ■

 きみを噛んだ


   律動


 甘いんだね。すごく


■ 79 ■

■ 80 ■




--Presentation by ko-ka--