■ 又、双人ハ ■
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僕たちは
海と空しか見えない空間にひとつだけ伸びる
錆びた線路を歩いていた。
海は凪いで、
空は快晴。
海底と宇宙はわからない。
見えないものはいつだってわからない。声を出さないのは死んでいるのと同じだ。無言のそぶりでわかった気になっているのは加害妄想者だけだ。
線路は延々と続いていた。
隣には誰もいなかった。
僕たちは歩いている。
けれど隣には誰もいなかった。
歩きながら、右も左も前も後ろも確認した。
誰もいなかった。
そして
その間、僕たちは無言だった。
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「ワタクシは二人」
「ボクは、ふたり」
「家の中で飼いならされた小鳥」
「家の中で飼い殺された、番犬」
「傷がつかないように」
「傷をつけられるよう」
「やさしく」
「きびしく」
「そして」
「そして」
「きびしく」
「やさしく」
「まうしろには」
「ボクの前には」
「血をわけたあなた」
「血が同じご主人様」
「いもうと」
「この人を」
「ワタクシはこのいもうとを」
「いけないことだと、解って」
「愛しているのです」
「触れたいと、願う」
「たとえそれで、地獄に落ちたとしても」
「たとえそれが犯された領域だとしても」
「きっと」
「たぶん」
「あなたがきっと助けれくれるわ。手をひいて、キスして、そして」
「抗うことなどできない。その手も、その唇も、ボクを閉じ込めて」
「あぁ、美しい」
「なんて、汚い」
「ワタクシは美しい」
「ボクはとても醜い」
「その同じ顔のいもうとを、ワタクシは愛しているのです」
「いつかこの手で絞め殺してしまいそうだ……。ねえさん」
「嬉しいことに」
「皮肉なことに」
「今日は」
「今日は」
「とても晴れて」
「とても晴れて」
「ワタクシの後ろには」
「ボクの目のまえには」
「あなたが居ますわ」
「ねえさんが座って」
「あぁ、」
「あぁ、」
「きっとこれを愛というのですわ……」
「……これはアイなんてもんじゃない」
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好き
と
一日10回言うことで
きみ
を
好きになると思ってた
今年
で
十年つづけてきたのに
きみ
を
好きになれない
何故
か
分からない
本当
に
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太った彼女が言った。
「宇宙人は未来人だと思うのよね」
僕は本から目をはなさない。
「ほう、」
「宇宙人が居るとしてだよ仮説。わざわざこんな辺鄙なとこまで何回も来ないでしょ? 未来人がタイムマシンで来たって方が何倍も信憑性あるよね」
「ほう、」
「グレイの口だってさ、今でさえやわらかい食べ物が多いから、顎が退化したんだよで、さらうのも、遺伝子を取って未来をどうにかしようってこと」
「ほう、」
僕は本から目をはなさない。
「君は栄養取らなさすぎ。グレイになっちゃうよ」
「それは……聞き捨てならないですね」
僕はようやく本から目をはなした。
雨が降っていた。
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