■ 又、双人ハ ■


■ 21 ■

 穢れていたバスタブの中で
 あわてて腰をくねらせた君
 
 ラインを指でなぞると
 黄金色の吐息が混じる

 女神

 君は舞台の上で女神になる
 僕はそれをただ眺めている小さな

 穢れたままの靴というわけさ


■ 22 ■

 君と二人
 手をつなぎ歩く
 公園の並木道

 紅葉した銀杏が
 はらはら
 めいいっぱいの
 祝福をくれるから

 くすぐったくて
 笑いあう時間


■ 23 ■

 気がつくと公園にいた。

「主よ、人の望みの喜びよ」

 僕はゆっくりとふりかえる。
 そこには、白くて大きな帽子をかぶったおんなのひとがいた。

「私は鳥刺し」

 おんなのひとは僕のことなどみもしない。

「喜びの島」

         ちがう。
「月光」


 僕がおんなのひとをみていないんだ。

「別れのきょ……」


「あれは別れの曲なんてタイトルじゃない」

 おんなのひとの、その瞳。
 僕を透かしてすべり台。


 僕は、おんなのひとの前まで歩いていって、そのピンクの頬をおもいっきりつねった。

 これが夢ならおなぐさみ。

 マトリョシーカはクラシックレコード。


■ 24 ■



■ 25 ■



■ 26 ■

 疲れ果てた手の指先をのばし 助けを求めても
 世界の闇に消えて逝くだけ

 どこかに消えたメッセージ
 本当はずっと答えを待っていた

 満月にかざす赤い手
 海にひたす青い手

 溶けてしまいそうな昨日の夢を思い出す

 シルバースターにあこがれて
 カーディナル・ド・リシュリューを散らしながら
 ひとりぽっちで

 ねぇ
 あなたはきっと
 人に愛されながら生きるのですね

 私は
 忘れかけた手紙を待ちながら
 隣で

 あなたの隣で

 ずっと


■ 27 ■

 全部
 ぜんぶ 集めちゃお

 お砂糖 お塩にお醤油 酢 味噌

 ぐつぐつ
 何ができるかな

 楽しいキッチン
 ラジオはFM


 全部
 ぜんぶ 集めちゃお

 泡だて器 布巾にボウル 氷入れ

 かちゃかちゃ
 何ができるかな

 うれしいお菓子
 予熱は入れた?


 全部
 ぜんぶ 集めちゃお

 人参 ジャガイモ玉ねぎ あとは

 この箱
 何の箱だろね

 いい匂いさせて
 美味しくなあれ


 全部
 ぜんぶ 集めちゃお

 目玉と髪の毛 手足に胴体 鼻 耳 唇

 ぎこぎこ
 何ができるかな

 今度はちゃんと
 愛せるのかな?


■ 28 ■

 倒れない夜もかぶれた もうどれだけ不眠症で
 マスカラの君の匂いで もう朝かもわからなくなる
 痺れだして
 首筋の夢見たなら今夜 その胸抱いていたいよ


 君は壊れたよ何もしなくても ゆ ふ れている
 アイリスの花に何かを求むまでは も う 逃げられない


■ 29 ■

 前の席の笠井さんがプリントを渡してくるとき
 ふっと塩素の臭いがする

 ツンとくる
 独特のやつ

 前の席の笠井さんの髪は抜けるような茶色
 染めたとかいって

 生徒指導の田中先生が
 文句をつけていた

 前の席の笠井さんが月曜の全校集会で表彰された
 水泳の県大会

 優勝だって
 田中先生が舌打ちをしている

 前の席の笠井さんは夏休みが終わったあと
 髪の毛を黒く染めていた

 就職活動だって
 女の子たちと話してた

 今は

 前の席の笠井さんがプリントを渡してくるとき
 もう塩素の臭いはしない

 それはそれで
 少し淋しい気がする


■ 30 ■




--Presentation by ko-ka--