■ mai zd uru utu si zd uka ■


■ 31 ■

 てん てん

 毬を結ぶ
 女性のあたたかさが残る腰掛け
 
 あなたは嘘を煮詰め
 足首から下を光らせながら
 ボウルペンをそっとくちびるに当て
 夕飯のメニューを考える

 てん てん

 松の幹の
 なんと悩ましい仕草
 日を反射して細い緑がてらう
 根元には
 女性のあいようしている砥がれた鎌

 あなたは生活を腐し(くたし)
 首から下に蜜をたたえながら

 てん てん

 そこから先は

 てん てん

 あなたは過去を縦にし
 ふるい
 ひとしきり恥ずかしがりながらも
 戸棚の急須を眺め
 しずかに
 微笑みを確認する壁掛けの鏡

 あなたは満足を抱擁し
 ひとつも昨日と変わらずそこから先へは行かない


■ 32 ■

 カルカンカ・カルンカ
 ビデオ
 サラファライーヤ
 刑務所
 グラッセンドランド
 魔王
 ケプカ
 卵
 トエワ
 烙印
 ダルトリーテ
 土
 アクリャーキ
 水
 6,1,3
 ムイミ
 スコットランド
 氷結山
 ムーミン
 妖精
 ササラササラササラサラサラサ
 呪文
 カノープス
 惑星
 オルフェウス
 弓
 チェルノボグ
 菌
 ウプサラ
 研究所
 エレ
 人
 フィオレア・ヴォルイエ
 亜空間転送


■ 33 ■

 黒い窓から
 世界を
 のぞ
 く

 隙間もなく
 時間でうめつくされている
 取り残された私に
 未来の誰かが
 同情する合図


   ふ、

 過去に追われているのは

 あなたたちの方でしょう?


■ 34 ■

 あなたの瞳の片方には
 ワタシですら埋められない穴がある

 どうかそこから虚穴へ
 ワタシの薬指を入れてほしい

 サラリとした髪をすくいあげ
 どうか

 ワタシを生かしてくださいな


■ 35 ■

 叶っても
 叶わなくても
 おそらくは一緒

 愛しても
 愛さなくても
 おそらく僕はお願いする

 どうかいなくならないで

 叶っても
 叶わなくても

 心がとけてしまって
 見上げることしか

 お願い


 美しいままでおちて 星


■ 36 ■

 あっちら
 こっちら
 砂漠の暑さに

 こっちら
 どっちら
 石の迷宮に

 どっちら
 そっちら
 ジャングルの奥で

 右に
 左に
 首を振ってから
 左に
 右に

 パチクリ
 ウロウロ

 人は彷徨う
 悩んで立ち止まって
 たまには見上げようよ

 雲は彷徨うけれど
 ねえ
 まったく悩まないんだ
 これが


■ 37 ■

 カタ……カタ…

 言葉を選ぶ指
 画面のむこうはまぶしくて
 目薬を隣に置いた

 カタ……タン.

 この世界では
 わたしは独りじゃない
 叫びたくて
 繋がりたくて
 今日も電源をつける

 カタ…カタ……カタ…

 こっちの世界は
 みんなが仮面をかぶる
 上辺を仲良くして
 裏切りを知っている

 逃げた
 画面の向こうの向こうに

 あらかじめのウソと
 かぎりない本音をもった
 誰かが居ると信じれる

 カタ……カタ…

 タン.


■ 38 ■

 あんたは慈悲深くていらっしゃる
 笑顔をふりまき
 同情し
 店の男客は全員あんたに惚れてたよ

 あんたは慈悲の精神で
 愛嬌以上の深い声で
 賛同し
 店の男客は全員あんたに惚れてたよ

 こいつは俺の考察なんだが
 あんたの慈悲は
 愛じゃあないな

 あんたの慈悲は
 偽善ですらない

 あんたの慈悲は


 あんたは慈悲深くていらっしゃる
 金がない
 貧乏な客が何時間粘っても
 静かに水を注いでやったな

 あんたは慈悲の精神で
 何度もツケを重ねる奴も
 困ったような唇で許したな

 店の男客は全員あんたに惚れてたよ

 だが
 あんたの慈悲は
 愛じゃあない

 そんなの全員気付いていたさ
 結局あんたが辞めたとき
 そのとき全員ため息ついてさ

 こう言ったもんだよ


 慈悲ってやつは
 人を
 遠い所まで追いやっちまうんだな

 ってな


 あんたの慈悲は
 賃金だったんだもんな


 まさかアラブの大富豪と
 金目当ての結婚したとは
 スラム街の連中も
 新聞見るまで気付かなかったぜ?

 何かあって
 貧乏になっちまったら
 またこのバーに戻ってきなよ
 俺たちはあんたと違うんだ
 そいつを証明してやるよ


 俺たちの慈悲はな

 あんたがくれた楽しい時間を
 そっくり返してやることだよ


■ 39 ■

 くるくるくる
 くるくるくるう
 くるくるま

 くるるん
 くるって
 くるのはくるしみ

 くるくるくる

 くるくるくる

 あれがくるくる
 どれがくる?
 くるくるくるさま
 めくるめく

 くるあすこばめず
 くるくるまわる

 くるくるくる

 くるくるくる


■ 40 廃村化とシユウとインデンゼルの鵜 ■

 忘れさられた三日月は 山のはしへ隠れ
 やがて海から はじめから くりかへす
 村に唯一の辻 立ちつくしながら
 ささやかなる雲を 私は待つてゐる

 うなだれる 一羽の鳥
 いつかはうなだれてゐなかつた
 いつからか いつからだつたらうか
 主人を忘れ そして忘れさられてゐるだらう

 たつた一人の村人と たつた一羽の彼女の鳥
 空はひとつの雲もなく 太陽は夜をしらせず
 うなだれてゐる
 いつかを 夢に見ながら

 私の耳は三日月の声をきいた
 足元には 鳥が 倒れてゐる



--Presentation by ko-ka--