■ mai zd uru utu si zd uka ■


■ 271 ■

 卑怯にも静かな
 逃避行の様子は 鼓膜の奥まで届いたのだろうか

 切り裂いてしまった手紙を
 パズルのように合わせても

 君の言葉だけがぽっかりと空いている


 それが

 ごみ箱ではなくて足元に落ちているということに
 気づかないふりをして

 僕は
 薄い口から

 夕焼けの綺麗さをのたまうのだつた


■ 272 ■ ソラニン ■

 しらら しらせの虹が出る
 あおいソラニンおっこちて
 ゆうぐれのはしに
 身をかくす

 どしら どしろうとのソラニンは
 あおいマントもぼろぼろで
 りょうてをかおに
 当てている

 いたくした?
 いたくした

 ないてるの?
 ないてない

 しみそ しみじみ虹は言う
 おかえりソラニン
 もう夜だ
 あしたのろくじに待ってるよ

 どしら どしろうとのソラニンに
 むらさきマントをふわりかけ
 べてらんソラニン肩たたく

 いっしょにかえろう
 さあ夜だ

 つめたいスープで乾杯だ

 しらら しらせの月が出る
 あおいソラニンなみだふき
 マントをたたむ
 大事にたたむ


■ 273 ■

 ひとつは5月が
 どこかしこにも持っている

 春に散るよ
 それは5月ではないけれど
 どこかしこにも持っている
 落ちたヒトヒラ


 ふたつは5月が
 どこかしこにも浸みている

 露に降るよ
 それは5月ではないけれど
 どこかしこにも浸みている
 落ちたシトシラ


 みっつは5月が
 どこかしこにも照っている

 夏にそそぐ
 それは5月ではないけれど
 どこかしこにも照っている
 落ちたツキノヒ


 よっつは5月が
 どこかしこにも萌えている

 風に枯れる
 それは5月ではないけれど
 どこかしこにも萌えている
 落ちたフロフキ


 いつつは5月で
 どこかしこにも5月で
 全てを集めて
 落ちたキセツニ


■ 274 ■

 さようなら過ぎ去った過去
 涙ぐむ鏡の顔
 理想からは程遠い醜い花のよう

 「さみしくない」

 ひどい吐き気
 泣かずにはいられない
 傷つく事に慣れていなくて

 「さみしくない」

 愚かにも一人寂しく笑ってた
 迎えになんか来ないって諦めて
 次には
 あの頃に戻りたいって願って

 「さみしくない」

 傷に気付かないふりしてたのに
 涙は容赦なく頬を伝って


■ 275 ■

 キミはドコだい。

 欺瞞だね。
 義眼だね。

 事実を知ったからといって
 真実は変わらないだろう?

 ヘイボウイ、
 女ってのは

 生きるのが上手なのと
 生きるのが下手なのと

 二種類居るんだ知ってるかい。

 まだ前者しか知らないといって
 水をぶっかけるハイテンション

 チョコレイトはイエス、
 所詮は肖像の所為なのさ。


■ 276 ■

 お前のかあちゃん みそ味
 お前のとうちゃん みそ味
 お前の家族は   みそ味

 俺のおへそは シマアジ

 あぁ 飛んでいきたいな
 あのニジマスの向こうへ
 ニシンのような雲をかけぬけ

 この道をアユみつづければ
 流れる時も  フィッシング
 つかみかけた このみそ味は
 キャッチ・アンド・リリース

 みそ田楽でいいから 食べたい


 「そうでしたか」
 「え? そうでしたかって?」
 「そうでしたか、っていうのは、これ以上話を広げたくない時に使う最上級の言葉よ」
 「やっぱり朗読はいけなかったかなぁ……」

 「シマアジがちょっとね」
 「いや、本当はごま味にしようと思ってたんだけどさ、語感が耳障りっていうか」
 「そもそもあなた、シマアジって知ってるの?」
 「あー、美味しいよね、あのしましまは美しいよね。ところで今日の晩御飯は?」


 「やきそば」


■ 277 ■

 菊の筆で 言 を書いた
 センセイ、
 僕は告白の返事を言うわけではありません
 忘れ物が
 水溜まりにひたされる
 空も 自転車も
 責めるから言い訳考えるとでも思ったんだ 皆
 机の隙間に
 隠されればいいんだ


■ 278 ■

 いつか出会えると絶望のように
 彼は数度の長い叫びをあげ
 まだ夜明けを待つ草むらの花
 崩れた瓦礫のあいだ眠っている

 薄汚れた雲の影に
 それでも来た明日の証は

 君が最期に見た景色が
 彼の笑顔であると信じてる
 抱きしめた冷え切る未来で
 残る者たちの戦いが始まった

 忘れ去られてゆく前に


■ 279 ■

 ある年の参月に双つの壁ができた

 らしい

 らしい

 私は隙間に挟まったのだろうか?


■ 280 ■

 彼らは隠している


 ひとつだけ隠していないことは 目

 わたしを憐れむ目


 彼らは隠している

 口元に手を寄せてヒソリと話している
 わたしを憐れむ目

 立ち上がり 振り下ろされる視線


 彼らは気づいていない
 わたしが全てを知っていることに


 子猫のくせにって
 わたしを憐れむ目




--Presentation by ko-ka--