■ mai zd uru utu si zd uka ■


■ 211 ■



■ 212 ■

 あの 人に 告白する
 あの 人は ないて走 る 一人だけで凍える、まぶしそうな雪原

 あの 人に 触れていたい
 あの 人は 振れて痛 い 人波は懐かしく、ドームに吊るされてく


 サン サンと 降りそそいで
 サン サンと 振り雪いで フーコーめいびな夢、あの人と踊る町

 あの 人が 振り雪い で 血のような針の音、まぶしそうな切断


■ 213 ■

  0

 老婆は失う
 眠りの奥に雁が羽ばたき 踊る
 人々の白い足袋が
 神よ神よと交互に祝う夜
 かがり火
 鉦の擦り合う音
 宵が
 酔われ
 歌い 踊る

 失われていく


  1<

 紅白の幕に彩られた公民館に並べるものを
 パイプ椅子か座布団かで悩んでいます
 とんでもございません
 パイプ椅子は祝儀と記帳の受付にふたつ
 真樹夫と佳世ちゃんのためにふたつ
 じろちょの大婆さまにひとつで
 もちろんのこと
 ええ
 場所ですよ場所! ひいちゃん!
 かおるに仕出しの手伝いをさせて頂戴

 ねえ 私
 あなたがいらして嬉しいのです
 本家にご挨拶にうかがっても
 いつも部屋に篭っていらっしゃるし……
 本当ですよ?
 まさえ! 盃蔵から出してきたら磨いて!


  2<

 おおきくなったら
 およめさんになる
 しろいの
 ぶわーって!
 そんでね
 おめでとうおめでとうって
 ゆきお兄ちゃんとね
 はるなの
 おはなのみちをー
 あったりまえだよ!
 ゆきお兄ちゃんは おむこさんなの!
 でね
 でね?
 みんなが
 おめでとうおめでとうって
 え?
 いいの?
 やった!
 はやくやくそくやくそく

 指きりげんまんウソついたら針千本のーます

 指きった!


  3>

 『それでは、新婦友人のスピーチです。西藤春奈さん、どうぞ』

 『はい。
  えー…、

  夕美、そして雪雄さん、ご結婚おめでとうございます。

  二人を小さい頃から知っている私としては、
  こんなに嬉しいことはありません。

  夕美とは、保育園のころからずっと一緒で……
  高校は別々になったけれど、また大学で一緒になりました。
  雪雄さんとは従兄で、私が小さいころはよく遊んでもらいました。

  三年ほど前。私がちょうど風邪をひいて、
  夕美がお見舞いに来てくれたとき、偶然
  雪雄さんも母に用事があって来ていて……、私が紹介しました。
  ふたりの恋のキューピッド? なんて思っています。

  夕美! 世話好きなあなたは雪雄さんにピッタリだけど
  あんまり世話焼きすぎると「お母さん」になっちゃうから、
  ほどほどにね!
  雪雄さん! 夕美はこう見えて人一倍繊細な子なんです、だから
  夕美のこと……っ…! ほっ……ほんと…にっ…!
  あ…ごめんなさ……っ、本当に! よろしくお願いします!
  お幸せに!!』

 『西藤春奈さんのスピーチでした』


  4>

 結婚する資格なんて
 ない
 ひとに告白するの
 初めてなの
 聞いて
 私
 今でも
 心から離れない人がいて
 もうずっと
 小さいころから
 その人
 結婚してて
 どうしようもないのに
 消えないの
 ね
 こんな私と
 今まで付き合ってくれて
 ありがと
 幻滅したでしょ?
 別れましょう
 ずっと
 裏切ってて
 いつか
 話さなきゃいけないって
 ごめんなさい
 私
 本当
 どうしようもない

 どうしようもない


  0

 老婆の足元に置かれた巾着袋
 亡くなった夫のイニシアル
 雁が飛び立つ杉
 目覚める
 かがり火囲い踊る 白い足袋
 太鼓の太い振動
 踊る装束を
 歌を 笑いを
 宵の祝い

 老婆は畏れぬ目を濡らし
 つかの間の夢をも失う夜に

 響く
 ゆれ 失っていく


■ 214 ■

 22回目の誕生日に
 嘘を言って パタリと死んだ

 ポケットの中に入れた指輪は
 銀の味と 匂いがしてる

 2度目の散髪はできないまま
 棺の中で ふり乱した黒


 おとといの夜に ため息ついて

 想い出は全て お湯につけた


 どこかに持っていくことも
 できたと嘘を 言っておくよ

 誕生日の時とは逆になった
 指輪だけは 燃やしておこう

 23回目の誕生日は
 舌を出して 泣いてみよう


 きのうの朝方 ため息ついて

 これも嘘だろ そう問いかけた


 雪が鳴き止んだあとも
 嘘のように 息をしていない


■ 215 ■



■ 216 ■

 倒れこむのでした

 いいんだ、いいんだ! 分かっていた! 消えてしまうなんてことは!

  「雪が綺麗ですね」

 いいんだ、いいんだ! 分かっているとも!
 ワタシも君を愛しているよ! 親愛なるワタシの冬目透析さん!

 倒れこむのでした

 厭になったのです
 こんな毎回、毎回、毎回!

  「消えてしまいたい」

 いいんだ、いいんだ! 分かりきっている、エゴだ!
 ワタシはね、愛しているのだよ、君を愛しているのだよ!

 泣いて
 私の傍らに
 アナタは倒れこむのでした


■ 217 ■



■ 218 ■



■ 219 ■

 白
 黄
 水色
 緑
 赤
 青

 白
 灰

 ノイズ

 深夜になりました

 砂 砂 ザザ

 嵐


■ 220 ■

 指
    が


 少なからず嫌悪感を抱いた
 それも
 文字通りの意味で


 嫌悪感は  目 を横にそらして
 だんまりと抱擁をうけとめるのだつた


「君の指はいつも冷えているね

     ボクは それすら大嫌いだ」


 少なからずとは 時間の意味だった
 嫌悪感は 手  を離すと次に

 雪のような声で言ったのだった


「あっちへ逝って


 二度と        戻ってくるな」


 と。




--Presentation by ko-ka--