■ mai zd uru utu si zd uka ■
■ 131 ■
あなたが遺した
春の 陰るドアを
指でなぞるこの 街
もう僕の心すら
あなたが立ち去った
夏の 煙るマドを
濡らしたりはしないと
本当の子供
あなたが憎みだす
秋の 湿るジャグチ
どうやっても 雨におちて
もう僕の心さえ
あなたが死んでからは
冬の 曇るマドは
あたためて思い出は美化して
本当の犯人も
見つからないドアを
僕の 垂れるクビを
あの人によろしくねと
街を あとにした
■ 132 ■
ナインビーチはマッサージの音楽。
エイフェックスは雨の日の音楽。
ハルシノゲンは寝る前の音楽。
シュポングルはセックスの音楽。
ねぇ貴方、タンゴは……なんの音楽かわかっているかしら?
……そうね、正解ね。
そう言うと彼女は僕の手からマルヴォロ緑を奪い取った。
そんな所が嫌いだ。と、言うかわりに。
「煙草を吸うときの音楽」
「アラ、もう心のなかで言ったかと思ったわ」
■ 133 ■
同じ形は 二度とないけど
限り なく 近くに
触れていたいよ
悲しいくらい あなたから
涙が あふれ止らない
ひとつの願いも
今は もう 叶わない
降れ ゆく月は 雲の波間へと
あの 素晴らしい雪の谷間へと
■ 134 ■
ぼくと微分、決定稿。
アンデスの、偏り。
天然過ぎて、かしこい。
ララと歌った、ぞぞろ目。
たちまちに、紅。
牡丹と山茶花の、違い。
コロコロと、人面鳥。
救われた、雪。
素晴らしい、ラフランス。
積分、きみを廃棄。
■ 135 ■
カルダンノッタに実在する神ゴシェロ氏は雨が立つと泣き出すことで有名だ。さえぎるものがなにもない平らな島にて流される、カルダンアリの命の数だけ泣くのだという。ゴシェロ氏の食事を見たか。黒く、丸く、足が六つもついた小さな生物を生きたまま飲み込むのであるが、氏はその眼球から一滴も雨をたらさない。
ゴシェロ氏は誰にも崇められてはいない。
そこに生活がある。
雨が立つその時だけ氏はアリたちの神になるが、雨が降らなければ氏はアリたちにとって恐怖そのものとなる。
いいえ、アリたちは知らない。
知っていると思い込んでいるのは人間のほうであり、ゴシェロ氏はもともと、人間だ。
カルダンノッタに実在する神ゴシェロ氏は雨が立つと泣き出すことで有名だ。習慣でありもはや誰にもとめることができない。いいえ、止めようとする人間は、カルダンノッタには実在しない。
■ 136 ■
お前
雪なんて知らないんだろ?
死ねばいいのに
氷と
勘違いしたまま死ねばいいのに
■ 137 ■ シルシリエ(旧世界) ■
森が
一瞬で黒くなり
雨も
ちがうこれは灰
全世界の被爆範囲から
唯一外れた
この島の砂岩に
少年が
流れ着いた
笑顔で
泣いた
雲も
もう冷たくて
わたしはずいぶんと独りだったのだ
■ 138 ■
あらかじめ10の人間が
黒い湿原に咲いている
さあログ 数えて
この世の100の人間が
黒い湿原に咲いている
さあログ 足して
罪深い1000の人間が
黒い湿原に咲いている
さあログ 戻れない
10000の人間
100000の人間
1000000の人間
10000000の人間
100000000の人間
1000000000
10000000000
100000000000
10000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
君の比率は ゼロに近い
■ 139 ■
ファルファッレが
茹であがったとたん羽ばたいたので
同居人にきくと
「よくある、気にすることはない」
と
言われました
ファッサリと積もった雪の上に
両手で
すくった黄色い蝶を放してやります
地球からの電報が届いたらしく
「おいしいってさ」
と
同居人に言われました
うちの同居人は
なんかちょっと変です
■ 140 ■
散る落ちる 朽ちる降る冷える 手 青い手
知る
陰る映える 融ける降る冷える 鳥 青い鳥
冷たかった胸が映る
記憶冷える 融ける降る冷える記憶
繋がるずるいまぼろし
舞い落ちる花びら気付かない雪 散る
落ちる 朽ちる降る冷える 目 閉じた目
在る苦しみが頬を伝って
消えて消えてどうしようもなくて
暗雲から潔癖な白が降る
冷たい体矛盾する日射し
夢が覚めたと知っている
散る落ちる 朽ちる降る冷える 手 青い手
知る
陰る映える 融ける降る冷える 鳥 青い鳥
知る
愛せるようになりたかった
無理な話だった
落ちる 朽ちる降る冷える 手 冷える 胸
記憶を融かして
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