■ mai zd uru utu si zd uka ■


■ 101 ■

 僕には才能がない。


 僕の辞書には才能という文字がない。

 僕の手には才能が宿っていない。

 僕には才能なんてない。

 僕は詩人になるつもりなんかない。

 僕は小説家になるつもりなんかない。

 僕は画家になるつもりなんかない。



 僕は                   懺悔します。

 森の
 穴に
 頭を

 丸ごとそのままピッタリと埋められたいんです。


■ 102 ■

 つきをたべよう あのよるはにせもの
 うつくしくふる あめいろもにせもの

 このたびはうたはいつだってほんもの

 あくるひをみる あのひとはにせもの
 そらをのみほす うずまきはせともの

 ゆく ひとしくおとずれるはる ゆく

 くさをとびかう ぎんがみはにせもの
 かわとこいする さざおともにせもの

 せいししつより
 うたわれるもの

         うごけないほんもの


■ 103 ■

 君はゆっくり目を閉じる
 想像して
 君は黒い
 空間に
 ただただ広い黒の中に 立っている
 目の前には
 エレベータが
 さぁ
 ボタンはどちらがいい?
 そう
 下を押そう
 とびらがひらく
 乗ったかい?

 ▼

 扉がゆっくり
 ゆっくり閉まる
 エレベータの中はほのかに温かいね
 安心して
 そこに
 床に座って
 寝そべってもいい
 ここは君だ
 君の中だ
 エレベータは下におち
 君の意識はだんだんと沈み
 地下10階までいこう
 そうしてまた
 エレベータは上へあがり
 君の意識はだんだんと浮く
 地上0階にたどりつく
 そしてまた
 だんだんと下がり
 君の意識は今ここよりも
 深い
 深い
 黒へと沈む

 ▼

 さぁ

 エレベータが動き始める

 ▼

 1
 2

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 7

 8


 9


 10

 深く 沈んでいる
 エレベータは
 ゆっくり
 上がる

 ▲

 さぁ
 ゆっくり

 ▲

 10


 9


 8

 7


 6

 5

 4


 3
 2

 1

 ゼロ


 目をさまして
 スッキリとした気分
 あがりきって
 意識を
 ハッキリとさせて

 そうして
 また
 沈む

 沈んで

 意識を

 深く

 ▼

 深く

 深く

 ▼

 沈む――…

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 ▼

 さぁ

 深く

 もっと深く
 沈んでいく

          沈んで
 声だけがきこえている
          深く

           もっと深く

 手足の感覚はなくなっている
             沈んで

          深く
 声だけがきこえている

           もっと深く
      深く

 沈んで
 深く

 ▼

 君は安心している
 声だけがきこえている

 君は
 深く

 そう

 深く


 リラックスしている


 ここは君の中だ 君は安心している
 深い奥で たゆたう 君はしずかに
 眠る

 深く


 沈む 眠る
           ゆっくりと 深く


■ 104 ■

 芳しい
 芳しい
 揺れている貴女

 空に
 墜ちて
 ずっと待っていた

 誰もかも
 何もかも
 忘れてしまう事を

 怖れ
 本に
 書き記していく


『この土にさよなら ずっと待っていた』


 さぁ、目をあけて。広がっているのは
 ウソのようなあの日の光景だけなのでありました。
 踊り狂っているオルゴールの人形は、
 アイのようにキレェで、はじく弦を、罪を、神を。

 その中で。

 貴女は、貴女は、
 腕の中で。
 その中で。
 貴女は、貴方は、ただ
 目をひらこうともしないで横たわっている。


『大空に浮かびながら ずっと待っているの 来るのを』


 光さす
 光さす
 教会の前で

 縦に
 縦に
 祈りを振りおろしたくない

 赤く
 赤く
 丘の下燃えて

 強く
 強く
 永く眠りたくて


 腕の中
 腕の中
 枯れていく貴女

 誰もかも
 何もかも
 忘れてしまう事を

 怖れ
 水を

 これは涙と呼べる哀歌
 生きていくから本に記した


■ 105 ■

 くじらのマークが描いてある
 あの板チョコが懐かしい

 名前……名前は何だったかなぁ

 たしか
 そうそう
 CMで

『くじらのマークの波板チョコ!
 しょっぱくないよ
 甘ぁい甘い
 くじらのマークの波板チョコ!

 なぁみの〜ざーん
 なぁみの〜ざーん』

 青の包装紙
 はがすと銀色で

 パキリと割って
 分けあった記憶

 あぁ

 久々に食べたいなぁ


■ 106 ■

 山々 村々 人々
 独立した神経がそれぞれのコミュニティを形成している様

 花ばな 星ぼし 雪ゆき
 単一名詞のものが目に届く限りの広範囲で点在している様

 鳥たち 魚たち 虫たち
 単一名詞の動く者たちがある狭い範囲にひしめいている様

 あれら それら これら
 存在する複数をすっかり言いたくないが一つにまとめた様

 鉛筆たち 橋たち 飛行機たち
 自己の意識が投影された無機物の物がその場に複数ある様

 愛す 殺す 死す
 日本語の単語に英語の複数形「s」を付けて複数にした様


■ 107 ■

 目の奥にある鍵穴に
 遠い日の写真を差し込む
 あけ放たれた記憶の中で
 笑った声が鮮明に響く


■ 108 ■

 バベルのような高い叱咤
 こちらの口など開かせず
 有給無縁のブラック企業 休まる場所などどこにもない

 ひとつ棒きれを取り出して
 カチリと鳴らす燈籠(ライター)の手
 今さら望むモノなどないと 諦めてはいけない の に

 次々飛ぶはフライパン
 そんなに数があったとはね
 溜まりに溜まったリボの事だけ 空をあおいで見せぬ妻

 後生! 土下座で見せてくれ
 バベルの女に頼んだら
 包丁持ち出し襲ってきたぜ もう この 先終わりだな


 去ってった
  去っていった 君のまるい鼈甲の目

 待っていた
  踏み台で 仮死も昨日でラッパーっだ

 去ってった
  去っていった 流れるぬるい水の音

 待っていた
  縄くくり さらばこの世とラッパが 鳴 る


 天使のような少年が
 こちらをかがみ覗いてる
 失敗したのかここは天国か 首をさすり起き上る

 ひとつ林檎を取り出して
 お手玉笑う少年が
 「窓の外を見て世界が終わる。もう、妻も、会社もない」


 去ってった
  去っていった 彼のまるい天使の羽

 舞っていた
  砂ふぶき どこもかしこもサッパリだ

 去ってった
  去っていった 流れるぬるい砂の音

 舞っていた
  蝶つかむ ささら崩れてトクルと 落ち た


  念願叶って無人の 影
 ( ダレモイナイか?
 ( ダレカイナイカ?
             蛇口をひねると砂が出てきた
 ( ワタシノ**ハ?
 ( カノジョノ**ハ?
             艶めかしくたゆんで流し台に溜まっていく
 ( ミドリノ**ハ?
             そうだ 届けを出す役所もないのだ


 さらば! 崩れてラッパが 鳴 る


■ 109 ■

 明日、骨ノ山まで
 ステッキを買いに行く

 白く、軽く、細い
 ステッキを買いに行く


 あさって、硝子森まで
 手鏡を買いに行く

 丸く、潤う、瞳孔のような
 手鏡を買いに行く


 やなさっては休み

 しあさっては、静止室まで
 冬の終わりを買いに行く

 かたく閉じられた唇を、咲きひらく、紫蘇の粉


 次の、次の次の次の次、
 ようやく見つけた足首のような


 傷を、買いに行く



 銀貨を持って


■ 110 ■ ブラッド・オーバー ■

 そんなに 睨まなくてもイイじゃない
 たかがウデへし折ったぐらいで
 そんなに 叫ばなくてもイイじゃない
 たかが手首に傷つけたぐらいで

 血と涙ワインに溶かし
 さあ 始めよう最期の晩餐
 あの 月はとても丸くて
 君の 綺麗な声を聞きたい

 俺はもう 君なしでは
 生きられない
 君のその躰 俺を
 惑わせる

 俺はもう 君じゃなければ
 食べられない
 君のその躰 俺を
 狂わせる

 悲しみを知るわけもない
 この 俺を最期まで愛して
 あの 月はとても紅くて
 君の 虚ろな瞳
 キスして

 俺はもう 君なしでは
 生きられない
 君のその躰 俺を
 壊していく

 俺はもう 君を殺して
 しまいそうだ
 なぜ君の その心だけ
 俺のモノじゃない



--Presentation by ko-ka--