■ mai zd uru utu si zd uka ■


■ 1 ■ 月光伯爵 ■

 ―― そうさ、美しい夜だね。引き返さない方がいい。
    こういう満月の夜、彼らは動き出すのだから。
    純銀の弾丸をあげよう。もうお休み、十字架を抱いて……。


 闇の手のひら 囚われた
 あなたは純潔の少女
  この館から息も出さないと
  誓った
  筈なのに

 おちてゆく 甘い夢
 真紅の錆びた十字架の前で
 ひざまづく 儚い少年が ささやく

  『キミは目がさめたら、伯爵に内緒で窓を少しだけあけて?
   お願い。キミに逢いたい』

 月の ――月の あかりは
       窓の影を高くのばし
 この ――鍵を カタンと

 下げて
 夢の中

 罪の手のひら 掴まれた
 あなたは夢の中の少年
  この館から空を蹴りあげ
  盗んだ
  月が散る

 白い手のひら 震えてる
 あなたは血を求めるヴァンパイア
  伯爵の十字架が指を
  傷つけ
  落ちゆく


 ――そうさ、滑稽だね。こういう満月の夜、娘は皆いなくなる。
    なぜならあれは銅でできた十字架。少女たちの血で錆びたそれを、
    拾うために明日も馬を出す。それがワタシの…せめてもの……。


■ 2 ■

 水の中から黒目をこちらに向けたまま


 ジャッカルは


 沈んでゆく


 音にできなくて焦った
 ここはどこだ? 天国なのか?


■ 3 ■

 乳白色の第一関節が
 わたしのために震える 剥がれ落ちてしまわぬようにと
 黙秘しつづけた背骨は
 夏の残像を曲げ
 呼ばれ ひどい錯覚に陥った

 振り向くと恋が ぶつかり砕けた
 ひどく当たり散らしたため流れはじめた星のきれはしだった
 髪の毛は
 五線譜のように燃え

 過ぎ去ってしまったのだ! いつか
 望むようにあたたかく 広い皮膚をあて
 しづかに
 隆起するひとつ ふたつ いつつを

 あの日を締めだしてしまった
 あなたのために震える 裂いて暴いてしまわぬようにと
 ただ 密かに


■ 4 ■

 ありきたりに死んで見せてよ

 そうしたら彼女がきっと


   「つまんない」


 って笑うだろう

 庭は停止したまま
 博物館の窓のように
 青だけが光で

 彼女の笑い声もきっと
 そうなのだろう


 知らないけど


■ 5 ■

 光ありきの 白熱電球
 カチリと鳴らせば手のひら落ちて
 絹糸張って弾き飛ばせば
 ぐるぐる模様 まるで眼球
 まばたき抜けて 大 進 化
 ミシシペルルジュラ自動育成
 行→動
 羽ばたき空気中

 テ→ラ*JA→CK+天のZODIA→C

 あなたの肉体 ミトコンドリア
 うごめく原生 水の名残り
 最終的には濾過装置
 激情 混線 動物館
 地殻の変動 蝶の標本
 まだらの模様と ピンと銀
 あられもないまま死の秘密
 洗浄 融解 アンモニア

 人口建築 ガレキ遺跡 倒壊石造 造形庭園
 浸水沈没 回遊住居 ぐるぐる回る 白熱電球

 はるかな時より→わたし宛て

 その日もミクロ 億年収縮
 朝は頭頂 夜は指
 翌日マクロ 体感指数

 TO→N*HO→N*2+4+8
 TO→N*HO→N*2+4+8
  (幾何学経路と永遠細胞)
 TO→N*HO→N*2+4+8
 TO→N*HO→N*2+4+8
  (転変流刑と交配分解)
 TO→N*HO→N*2+4+8
 TO→N*HO→N*2+4+8

 万象一律 月天創話
 邂逅十辺 森海悠久
 四円塩基

 宇宙廻る*地球→時計

 ヒト→時計*洗浄
 灯図→時計*融解
 陽登→時計*消滅


■ 6 ■

 天上の
 水面のふちから時々
 砂が
 降ってくる

 金魚は
 言った

「あの砂どこから来てるんだろう?

 銀魚は
 言った

「死んだらわかるよ
「死んだら地面へ逝くんだよ
「そこはどうしても楽園で
「キラキラしていて
「時々神様の涙が
「砂になって降るんだよ


■ 7 ■

 かけらが割れて 1人になった
 床に落ちて   二度ともう
 戻らない

 空からこぼれてきた かけら
 どれにも私はくっつかない
 1人になって しまいたい


 戻りたい


 戻れない


■ 8 ■

 ちがうんだ


 探さないんじゃなくて

 探せないんだ


 深くて


 深すぎて声が


 どこへしずんでしまったのかも
 わからないんだ

 声を あげてなきたいのに
 声と  いっしょにさけびたいのに


■ 9 ■

 知らない間に指紋が
 増えていたことに
 感慨もなく立ちつくしている

 おそらくは不幸で
 存在は空虚で

 どうしてか私は ゆうれいじゃなかった

 知らない間に季節が
 移っていたことに
 きっと感動していた誰かが

 おそらくは幸せそうな顔をしてつけた
 窓際の指紋が
 ひどく
 ガラスを削る


■ 10 ■

 ルランダについて君に忠告しておく


 ルランダの寝室にはカーテンがない
 薄いレースのカーテンさえもない

 ルランダは寝るとき
 赤ちゃん電球をつける
 (赤ちゃん電球はルランダがよく使う単語だから覚えておくといい
 (蛍光灯の環の中にある
 (星のようなオレンジのアレだ

 ちなみにルランダの寝室の窓の外には
 別のマンションの窓が向かい合うように鎮座している

 そちらは私の書斎だ

 私の書斎にはカーテンがひいてある
 厚い緑のカーテンがそれだ

 私が書斎で執筆する時間とルランダが寝る時間はだいたい一緒だ
 (だが私はルランダの向かいに越してきてからカーテンを開けたことは一度しかない
 (金属をこすったような悲鳴が10秒も続けばだれでも開けるだろう
 (彼女の背中に蛾が


 ルランダと夜ベッドで眠りたいなら君
 まずはカーテンを買ってくることだ

 あとは彼女の口にガムテープでも貼っておくんだな
 よく通る
 汽笛のような声で昨夜はチョモランマに登頂したらしい
 寝言まで煩いのだ


 とにかく君がルランダの寝室にカーテンをかける日を心待ちにしているよ
 彼女がなぜカーテンをかけないのか
 彼女がなぜ声を高くはりあげるのか

 そんな理由は一切知らずに恋してくれたまえ



--Presentation by ko-ka--