■ mai zd uru utu si zd uka ■
■ 1 ■
傘からこぼれる 雫のカーテン
泣いているのは 地面の暗さを
どうにもできないから クルっとまわって
小さな優しさを 当り散らす
草気にはじけて 草木にあやまる
■ 2 ■
水の中から黒目をこちらに向けたまま
ジャッカルは
沈んでゆく
音にできなくて焦った
ここはどこだ? 天国なのか?
■ 3 ■
乳白色の第一関節が
わたしのために震える 剥がれ落ちてしまわぬようにと
黙秘しつづけた背骨は
夏の残像を曲げ
呼ばれ ひどい錯覚に陥った
振り向くと恋が ぶつかり砕けた
ひどく当たり散らしたため流れはじめた星のきれはしだった
髪の毛は
五線譜のように燃え
過ぎ去ってしまったのだ! いつか
望むようにあたたかく 広い皮膚をあて
しづかに
隆起するひとつ ふたつ いつつを
あの日を締めだしてしまった
あなたのために震える 裂いて暴いてしまわぬようにと
ただ 密かに
■ 4 ■
ありきたりに死んで見せてよ
そうしたら彼女がきっと
「つまんない」
って笑うだろう
庭は停止したまま
博物館の窓のように
青だけが光で
彼女の笑い声もきっと
そうなのだろう
知らないけど
■ 5 ■
雪だ!
そう叫んだ朝
気づいたら雨
あぁ
なんてことだろう?
聞いてくれ
唇に
あてた瞬間雨に戻るんだ
酷いじゃないか
期待 させておいて
酷いじゃないか
雪を 殺しておいて
■ 6 ■
天上の
水面のふちから時々
砂が
降ってくる
金魚は
言った
「あの砂どこから来てるんだろう?
銀魚は
言った
「死んだらわかるよ
「死んだら地面へ逝くんだよ
「そこはどうしても楽園で
「キラキラしていて
「時々神様の涙が
「砂になって降るんだよ
■ 7 ■
かけらが割れて 1人になった
床に落ちて 二度ともう
戻らない
空からこぼれてきた かけら
どれにも私はくっつかない
1人になって しまいたい
戻りたい
戻れない
■ 8 ■
ちがうんだ
探さないんじゃなくて
探せないんだ
深くて
深すぎて声が
どこへしずんでしまったのかも
わからないんだ
声を あげてなきたいのに
声と いっしょにさけびたいのに
■ 9 ■
知らない間に指紋が
増えていたことに
感慨もなく立ちつくしている
おそらくは不幸で
存在は空虚で
どうしてか私は ゆうれいじゃなかった
知らない間に季節が
移っていたことに
きっと感動していた誰かが
おそらくは幸せそうな顔をしてつけた
窓際の指紋が
ひどく
ガラスを削る
■ 10 ■
ルランダについて君に忠告しておく
ルランダの寝室にはカーテンがない
薄いレースのカーテンさえもない
ルランダは寝るとき
赤ちゃん電球をつける
(赤ちゃん電球はルランダがよく使う単語だから覚えておくといい
(蛍光灯の環の中にある
(星のようなオレンジのアレだ
ちなみにルランダの寝室の窓の外には
別のマンションの窓が向かい合うように鎮座している
そちらは私の書斎だ
私の書斎にはカーテンがひいてある
厚い緑のカーテンがそれだ
私が書斎で執筆する時間とルランダが寝る時間はだいたい一緒だ
(だが私はルランダの向かいに越してきてからカーテンを開けたことは一度しかない
(金属をこすったような悲鳴が10秒も続けばだれでも開けるだろう
(彼女の背中に蛾が
ルランダと夜ベッドで眠りたいなら君
まずはカーテンを買ってくることだ
あとは彼女の口にガムテープでも貼っておくんだな
よく通る
汽笛のような声で昨夜はチョモランマに登頂したらしい
寝言まで煩いのだ
とにかく君がルランダの寝室にカーテンをかける日を心待ちにしているよ
彼女がなぜカーテンをかけないのか
彼女がなぜ声を高くはりあげるのか
そんな理由は一切知らずに恋してくれたまえ
|