■ 71 ■
こぼれおちた文
白の便箋
たおれる花言葉よ
日射しの貝殻
とけてゆく記憶
あざやかな落日さえ
走る小道の先には
無人のベンチとバス停
腰かけているのは
真昼の影だけ
幾千の足音を
聞いてきたことだろう
その中のひとつが
君と僕だろう
とどかない雲に手を伸ばして
あの下に降る雨のしずく
喉に映した
かすれた消印
途切れた住所
はがれる鳥の切手
魚の目をした
丸い句読点
夏の終わりを告げる
つめたい海の色
どこまでが希望で
どこからが絶望か
考えまとまらず
降りるボタンを押す
カーテンゆれる暑い病室で
夕立ちを眺めたくないと
窓を閉め切る
君が
言いかけた覚悟
塞ぐくちびる
なみうつ布のあいだ
それでも瞳を
そらさないでくれ
かがやく涙の星
素肌流れる河
こうして二人で居られる記憶
あの頃無邪気に遊べた記憶
もしもの時にはきっと隣に
いると思える心の記憶
こぼれおちた文
白の便箋
たおれる花言葉よ
かすれた消印
途切れた住所
はがれる鳥の切手
『忘れないでいて、私のことを。』
空の向こうに走った
白い月のうら
きっと届くと
手を伸ばす遠くまで
触れるほど
痛い