■ 51 ■


 だれかを忘れ
 こころも忘れている

 それを探したい

 偽る場所は同じで
 なにをどうしても
 偽る個所は同じで

 それを壊したい

 ずっと願ってきた愛が
 ただの恋でしかないこと
 本当は前から気づいていた

 人ごみでも
 まばらな雨でも
 ずっと前から気づいていた

 それを忘れたい


 だれかを忘れ
 こころも忘れている

 探したい

 壊して

 また
 忘れて

 いつか泣きやんだら
 不正解じゃない

■ 52 ■


 その実 枯れた老婆は
 暗く 眼を開き続け

 キミは蘇生を試みるよ 温もりの残像

 精神回路は腐食はじめ
 筋肉結合はゆるみ
 救済という死に刃向うは
 異端の冷徹な思想


 流れ込む 黒い血は チューブを染め上げ
 すべての 神を敵にまわして
『目覚めて』
 と願っている

 狂気すら 影に置き 科学的証明
 すべての 夜を敵にまわして

 奇形の産声響く


 縛られた身体は 生きている
 けれどこれは 罪

 キミは失敗だと言うと きびず返し笑う

 脳細胞の数が減ったら
 海馬に接続されない
 獣のような本能だけが
 研究室にこだまする


 流れ込む 記憶さえ 涙にかわって
 とぎれた 一瞬を期待するだけ
『無駄だよ』
 とわかっている

 神すらも 畏れない キミの細い手が
 とぎれた 一瞬をのがさずに

 獣の首にかけられる

 淡い日の 記憶さえ 縦に破り捨て
 事切れた 実験体の
 まぶだに
 そっと別れの歌を

■ 53 ■


 ロウソクを吹けば白い煙がたちのぼる
 喪服を脱いでけれど時間は止まったまま
 菊の花を活けて帰るだけの義理の両親
 いつの間にか僕はまた君の記憶を

 真昼の道路に車と自転車がころがり
 信号機は嘘のようにチカチカ光ふりそそぎ
 僕の腕の中で血を吐き冷えてゆく
 美しすぎる冬

 淫らな妄想で君の遺影を白で汚して
 痺れる指先は君が最後に口づけをした場所

 夜が怖い

 よく来ては手を合わせる彼女の女友達
 「前を向きなよ」ってやけに簡単に言うから

 落ち込むフリして肩に手をかけさせてみる
 昨日夢に彼女が出て「お似合いだから」と笑った……
 なんて嘘に騙されている上気する頬
 そっと押さえて

 激しく腰を振り君のあえぎ声が思い出せない
 唇かみ締めてどこまで堕ちれば君に逢えるの?

 月が沈む

 涙が枯れたら後追いするんじゃないかと
 思われている程には君を好きだったらしいね
 僕の腕の中で愛をとなえ閉じる目

 もうどうしようもない

 淫らな妄想で君の遺影を白で汚して
 痺れる指先が誰もいないとなりを彷徨う
 見つめてささやいて君の仕草を肌で感じて
 唇かみ締めてこのまま眠れば君に逢えるの?

 夜が明ける
 生きる春が怖い

■ 54 ■


 あぁ 君の美しさを 桜のカンヴァスに
 画いた日々は もぉ訪れない
 そう 苦しくなるトキも
 君の微笑みに 救われたのは
 いつでも僕だけ

 指を 湿らした油の
 奇麗な香りは コバルトブルゥ
 筆の 毛先に溶けてく
 蜜の甘やかさ スカーレット

 My Lover
 ねぇ 絶対消えないで 一度だけの僕の
 わがまま叶えて お願いだから
 そう 悲しくなるトキも
 君の髪を梳いで キスして言った
 愛の言霊

 水の 中に映りこむ
 微かな光は シャイニングイエロゥ
 紙に 描き写す草木
 建物星空 ピュアマロン

 I Love You
 さぁ ココから飛び出そう 風の道を走り
 つないだ心 ひとつの絵画
 そう なにも無くったって
 君さえ居ればいい 雨の匂いも
 笑顔にかわる

 あぁ こぼれるエメラルド 広がるエルトラド
 わかっているよ 涙のわけを
 そう 死にたくなるトキも
 君の微笑みに 救われたのは
 いつでも僕だけ

■ 55 ■


 倒れない夜もかぶれた もうどれだけ不眠症で
 マスカラの君の匂いで もう朝かもわからなくなる
 痺れだして
 首筋の夢見たなら今夜 その胸抱いていたいよ


 君は壊れたよ何もしなくても ゆ ふ れている
 アイリスの花に何かを求むまでは も う 逃げられない

■ 56 ■


 首筋に淡く朱を落とすとき
  あなたの唇は塩でできてる

 叶わないチッタ・クロックローズに この指の爪をさしあげましょうか

 ベランダに薄く黒を映すとき
  あなたの瞳は哀でうずまいて

 過ぎ去ったベッドサイドのあかりで 微笑んだ薔薇の蕾をひらいて

  このままこうして恋は買われてく

 シャラルとはじかれた ピアスの金も
 腕に刻まれれた 魔法の呪文も
 髪の毛をつかむ シーツの谷間で

  かたくなに壊れた 逢いを 想う 調べ

 夜のガラス靴はどこへ仕舞うの
 鍵とトビラ誘う城への階段

  ――君はもしや 屋根裏の少女だろう?


 雫の 呼び声はじらう
  顔かくさなくても知っているよ
 いつか この靴を片方だけ
  かえせる日がやって来ることを

  ねがっているよ だから
  今夜の鐘の音は
  白い月の秘密さ

 その足首に 踊るキスを降らせ 胸はふるえている ずうと見つめる仕草に


   森の 魔女の コエ


 首筋に強く赤をなすりつけ
  あなたの手首をふさいだ衝動

 叶わないチッタ・クロックローズよ 魔法が解けてもボクは愛せるさ

 風音が高く罪をつぐなえと
  あなたの頬を指して批難をする

 立ち去ったベッドサイドのあかりで 溶けこんだ鏡のキズを探して

  このままこうして恋は奪われる
  そのままそうして涙は枯れてく

  叫び 叫ぶ 王の子よ

 このガラスの靴だけが 彼女を見つける
 たったひとつの しるべになろうぞ

 ひどく恋い焦がれて
 塩水を飲み干したい

  そうだ
 あなた
  その唇に

 ボクは飢え 渇く


 光るナイフの 星は冷めてく シンデレラを さぁ さがしにゆこうか

■ 57 ■


 蒼い 月夜から 貴方だけ求めているの
 キスで抱きしめて あの雲のカナタヘ…

 確かにこの手に 感じた温もり
 離れても 感覚が残っているよ
 その瞳に 秘めたものがあるから

 涙は見せないよう 笑っていた
 いつか貴方が この 雫すくって
 空に 放つまで

 高い 夜空から 貴方だけ見つめているの
 寂しいときには スグに飛んでゆくから…

 振り向く貴方の強い意志を壊さないように
 強くなるからね 指に誓って…

■ 58 ■ 水色惑星*飴色大地 ■


 あまえんぼの君には水色のあめをあげる
 さみしい時も かなしい時も
 空を見上げてボクを感じて

 ホラ
 こんなにも広い大地に君は今 立っている
 水色の空のムコウにいる何かを
 探し出すために 君は今 立っている
 サクラ色にかがやく 季節にには後すがた
 どうしたんだい? 話してごらん?
 ボクはいつでも君の味方さ

 ネエ
 こんなにも大きい惑星で君はまた 泣いている
 立ち上がり涙をふいてまた気づいて?
 生きているアカシに君は今 立っている
 こんな世界で何をしているの
 何のために君は生きていたいの
 ギモンはふくらみついには悩み
 そしてまた 君も 死んでゆくんだね
 
 ホラ
 こんなにも広い大地に君は今 立っている
 探し出すために 君は今 立っている

 サア
 歩き出し見える世界を 絶望し 記憶して
 水色の空のムコウでみつけるのサ
 君のいる意味と ボクのいる意味さえも
 見つけたら 見上げてね?
 立っている 君は美しい

■ 59 ■


 狂った君を 見るのも
 好きだよ
 一人 笑う僕も
 狂ってる

 朝陽が差し込むホテル
 ワインボトル 転がって

 回る
 廻る
 マワル 螺旋
 僕の
 ボクの
 愛しい 君へ

 殴る
 ナグル
 そして 笑う
 赤い
 紅い
 朱い 血溜まりに

 君の 涙こぼれて
 静かに海へ 沈んでゆくの
 まだ 悲しみは傷
 癒せぬ夢を 見ては 伏せて泣く

 影が作る闇に溶けてく
 君の姿

 あぁ

 やっぱり 愛したい

 殴る
 ナグル 笑う
 赤い
 朱い 血溜まりに

 君の 涙こぼれて
 静かに海へ 沈んでゆくの
 まだ 悲しみは傷
 癒せぬ夢を 見ては

 叫んで

 さぁ 涙をふいて
 静かに海へ 沈んでゆこう
 まだ 悲しみは傷
 癒せぬ夢は これで 終わりだよ

■ 60 ■


 この風が やむまで
 君と二人がイイの
 真白なドアを開け放ったら
 ココに おいで

 二人が 出逢って
 恋いに堕ちて別れる
 今までのコトを語り合って
 そして
「答え」は間違いじゃないから

 幸せに生きてゆこう
 これからは
 一人で
 風がやむ

 さよなら

 この雨が やむまで
 彼と二人がイイの
 真白な傘を空に向けたら
 ココに おいで

 二人が いままで
 どんな風に過ごした
 今までのコトを語り合って
 そして
「別れ」は悲しくなんかない

 幸せに生きてゆこう
 これからは
 一人で
 雨がやむ

 ありがと