■ 41 ■


 二分後に生き返って。          お願いね。

■ 42 ■


 君が倒れている
 君が倒れている
 君が倒れている
 君が倒れている
 君が倒れている
 君が倒れている
 君が倒れている
 君が倒れている
 君が倒れている
 君が倒れている
 君が倒れている
 君が倒れている
      人形?

■ 43 ■


 彼女が波打たない
 そう、機械の故障だ 先生。この機械、エーカーゲー。壊れているんじゃないですか?
 僕は今から電波を信じない人間になりました
 かわりに、神様を信じることにします アーメン。眠っているだけですよね?

 心臓から
 どろむんと影がのびる。
 引っ張られて 引っ張られて 全身が大きな穴になる虚像。虚空?
 虚血、虚穴。
 あ、
 顎が
 神様の釣り針にかかった。
 引っ張られて 引っ張られて もう無理です、中身が出ないように目を閉じる。

 目を開くといつの間にか外にいて
 空は抜けるような青一色で
 ねえ
 天国にやってきたのかと思ったよ。
 「お義兄さん」
 って
 声をかけられて、一瞬君かと思ったよ。声、似てるから。

 なぜ黒い服を?
 なぜ真珠の首飾りを?
 なぜ僕も黒い服を?
 なぜ空に     白い煙がひとつのぼっていくのが、階段のように見え


『悲しいときに泣いたって、現実はどうしようもないでしょ? だから私は、嬉しいときにしか泣かないの』


 僕は泣かない
 嬉しくないから
 泣か

  もう無理です、中身が出ないようまた目を閉じる。

■ 44 ■


 ララ、



 二言目だけ歌。

 鎮魂歌終り。

■ 45 ■


 おととい死んで、今日が葬式。

 さ、一度やってみたかった事をやれる日だ。
 夢を叶えるには、焼かれなければならないのでね

■ 46 ■


 こういううつくしつくてしつかな朝にぼくはかれをころした
 ちがそこかしこにはりついていて昼にいえきをたれこぼした
 たびからやっとかえってきてから夜にあたりをそうとみます

 夢を見た

 だれかがせんこうをたやさないで友のぶつだんにおいていて
 とつぜんぼくはこのしにんのへや達にあいじょうをいだいた
 夢を見た

■ 47 ■


 その実 枯れた老婆は
 暗く 眼を開き続け

 キミは蘇生を試みるよ 温もりの残像

 精神回路は腐食はじめ
 筋肉結合はゆるみ
 救済という死に刃向うは
 異端の冷徹な思想


 流れ込む 黒い血は チューブを染め上げ
 すべての 神を敵にまわして
『目覚めて』
 と願っている

 狂気すら 影に置き 科学的証明
 すべての 夜を敵にまわして

 奇形の産声響く


 縛られた身体は 生きている
 けれどこれは 罪

 キミは失敗だと言うと きびず返し笑う

 脳細胞の数が減ったら
 海馬に接続されない
 獣のような本能だけが
 研究室にこだまする


 流れ込む 記憶さえ 涙にかわって
 とぎれた 一瞬を期待するだけ
『無駄だよ』
 とわかっている

 神すらも 畏れない キミの細い手が
 とぎれた 一瞬をのがさずに

 獣の首にかけられる

 淡い日の 記憶さえ 縦に破り捨て
 事切れた 実験体の
 まぶだに
 そっと別れの歌を

■ 48 ■


 君は少し死にたかった。死にたかったんだ。


 薄紅色の液体が、君のまわりをかこった。
 それは目薬で、桜でも血でもコスモスでもカレンダーの日曜日でもなかった。


 君が死んでから少したった。少したったんだ。
 けれど君は開けられた眼球を閉じようとはしなかった。

 目薬がおちた。
 ズレておちた。


 また、君のまわりが春か秋か日曜日になる。

■ 49 ■


 いつか言おうと54年。
 孤独死したとはラジオで知った。
 院内放送お悔やみコーナー。
 返事がないから何でも言える。
 ワタシはずっとあなたが      でした。

■ 50 ■


 君の裏側も全部知りたいから
 君の頭
 顔を残して縦に半分切って
 パカリと開けて
 観察するね

 大丈夫

 ちゃんと閉じて縫いつけてあげる