■ 31 ■
暗いトンネルを高速で抜けきるとそこは
花畑で
遠くに
河が見える大きな河原に石が積まれている
君がそこに立っていたやけに白い服を着て
言った
おいで
おいでおいでおいでおいでおいでおいで?
なにか
大事なことを忘れてしまった気がしている
頭がぼんやりしている幸福感多幸感浮遊感
それは
まるで
死後の世界に居るようだったとつぶやくと
おかしなことに全てが遠ざかったのだった
だから
僕は目を開いた
そこはリアルだった
■ 32 ■
俺が死んでも
お前の心臓は音をたてるだろう
俺が死んだ分まで なんてのは
おかしい
プラスマイナスゼロの境で
平静のまま脈を打つだろう
お前は
そういう奴だということを
今から予言しよう
■ 33 ■
波打つ環状線が
ある規則的なリズムで
真夜中から遠のいていく
眠りたいから死
ぺた ぺた ぺた
さかさまから三角
どこからかカルシュトーナ
一週間も
のぞき穴から見れば
色のついたリング
まふゆでもマルカトーネ
しぎしぎエーカーゲー
■ 34 ■
それが新しい
世界だと気づくまで84年かかった
あと3秒しかない
■ 35 ■
ワタシは今日も 白を抜く
白は灰色 灰色から
いつもの この色へ
ワタシは今日も 白を抜く
この色の名前はなに
この色は 抜殻の服
ワタシは今日も 白を抜き
この色の名を カラダから探す
■ 36 ■
案外ドロップは冷静で
三回目なんて
成功するハズなかった
心臓は停止し
たとえ蘇生したとしても脳に損傷を与え
彼女は盲目し
岸に降りたいと言った
最期に
海を見せた昼間だった
歩くのもままならない
細った祖母を
背負って石段を降りる
言葉は混雑し
正常な答え方など期待している余裕もなく
とびちらかり
天気は快晴で
釣り人たちは一斉に竿をひゅるんと動かし
こんな状況で
のんびりと結婚の心配
いいから
荒げることもできない
泣き喚く事もできない
水面に顔をつけて
殺そうかと父が言った
左右に首振り
愛したり怒ったり悲しんだり憎んだりでも
雲一つも無い
■ 37 ■
ああ、ああ、この痛みも悲しみも、あぁあ、なにものにもかえてくれないなら、椅子に座り手を握った、ゆれる影と、強く、廻る、沈む、世界。
■ 38 ■
切り開かれた 内臓のように
フッ、
目の前が 赤に染まって赤く消えゆ
切り取られた ファインダーのように
フッ、
目の前が 黒に染まって黒く消えゆ
対比はどこまでも沈んでゆく
そうして時々
フッ、
底辺から 私を覗いてもろとも消えゆ
■ 39 ■
小さい目で 僕を 見るな
その唇で 僕を 言うな
愛しすぎていたんだこいつさえいなければ君といつまでも二人だけで
「……ねぇ、」
トリッキーな歌声
維持装置を切る 僕を 見るな
「…パパ……なにしてるの?」
■ 40 ■
見渡す限り
切り抜きされた
あらゆるシーンが脳裏に住まう
感情を呼ぶ
あらゆる視線
内側から見られている錯覚
彼らはみんな過去で
再生しなければ良い筈なのだろう
なのに
彼らは自動的に
あらゆる現在に再生されては
僕を!
僕を死なせていくよ
僕を! ……僕を!
僕を…… ……僕を……
倒れても無駄
眠っても無駄
刻みつけられた過去ばかり巡る
縦にながれる
エンドロールを
どこかで落としてしまったように
彼らはみんな過去で
決別して遠くへ逃げた筈だったのに
だのに
彼らは自動的に
あらゆる現在に再生されては
僕を!
僕を死なせていくよ
僕を! ……僕を!
僕を…… ……僕を……
許して……