■ 雨 ■


■ 61 ■

 明るい光雨を唯受け滲む
 廃墟の寺院で踊る歌人よ

 にわかに満ちる
 対の池の名を
 悲鳴とつかぬ
 残響にのせて

 反響言語(エコラリア)!
 反響言語(エコラリア)!

 狂気をまとう常識人に
 まったく君だけ立ちすくむ
 回廊のおもて雨だれ打ちて

 伴奏を裂く

 錆びの匂いが
 脳梁をくすぐり
 すがすがしくも笑えば君は
 まったく正常な異常人


■ 62 ■

 あの日 見た
 空の夕立 に
 きしんだ 声も かきけされ
 君は 一人にも似た
 このありふれた 広い道路に
 石を
 投げては
 笑い
 過ごしていた

 あの日 来た
 黒の夕立 に
 かわきを 憂いて かきだいて
 君は 一人にも似た
 このありふれた 五月の雨に
 夏を
 すくって
 腕を
 ふりあげては

 星を
 みたくて
 首すじはとうとうと濡れる

 君が過ごした放課後
 誰の影さえ見つけられなくて
 架空のともだちは 雨と石
 たくさん居た

 けれど
 ことば

 喋れ
 なくても
 あめも
 いしも 誰も

 あの日 見た
 空の夕立 に
 泣いてた 声も かきけされ


■ 63 ■

 投影が灰になる真実街
 細長いレンガの路地から路地へ
 逃げ惑う君を
 あくまで追う
 がらがらと動く黒い雲を見ろ
 なめるような視線
 隠れている
 逃げ惑う君を
 あくまで追う
 喪服姿のスナイパーを見ろ
 弾丸は投げられた
 ざらざらと転がるレンガへ
 真実街の傘はビニール
 居場所もない
 君の背中から
       DDN!  DDN!DDN! DDN!
          DDN!  DDN!DDN! DDN!
 泣き言が空になる墓地の前
 君をつけ狙うスナイパーを見ろ
 ネクタイピンの
 アスタリスクと
 がらがらふるう黒い喉仏
 なめるような視線
 お前の父母祖父祖母ペット
 念写された初恋も
 すべてイチマルマルパーセントの雨
       DDN!  DDN!DDN! DDN!
          DDN!  DDN!DDN! DDN!
 家路を急ぐ
 君の背中を
 見つめる黒いスナイパーを見ろ
 隠れても無駄
 全て暴けば
 心臓の位置に弾丸をあてる
 逃げ惑う足
 あがる吐息も
 全てが真実に晒されると
 焼けつくような
 視線交錯
 居場所をなくした君の背中へ
       DDN!  DDN!DDN! DDN!
          DDN!  DDN!DDN! DDN!
 喪服の襟を
 正しく手折る
 がらがらと去るスナイパーを見ろ


■ 64 ■

 たたまれた和音の鍵を首に下げた少女が
 雨雲の裏口を探しにいこうと言った

 切れ間からさしこむ乱反射に彩られ
 螺旋階段を
 踊りながらのぼっていくのをただ
 見ている

 三回
 ノックすればいい

 入れてくれますか
 入れてくれませんか
 入れてくれないと

 「     」

 ピンクのリボン飾りがついた靴と靴が
 検討をつけた裏口の前で
 しぶきをあげながら
 踊り続けている

 いっとき光が鍵に降り和音が響いた灰色のビル群
 屋上から
 スカートの中身がみえる


■ 65 ■

 さわり風が梳く公園で今日が晴れだと言うのなら
 水飲む灰色方形オブジェの銀の
 蛇口と親指
 雨あげよう

 まぶたの輝き虹と笑うならコインはもう 要らないね

 跳ね上げよう
 ブランコを蹴ろう音踊ろう
 原色の
 すべり台からシュプレヒコール
 ああもう好きだ好きだ好きだどうしようもないね

 滑り終わって見上げた僕は
 太陽を背に見下げた君から
 まぶたから
 雨粒を飲む

 うれしい涙を虹と笑うからくちびるの雨を 喉を鳴らして


■ 66 ■



■ 67 ■



■ 68 ■

 彼女が五月のどしゃぶりを捨て 飛行機に乗った
 セルシウス15度
 遅咲きの椿が首を落とし 鶯は黙り 側溝には
 止めるはずだった言の葉が
 軽く浮いて流れ
 消えた

 雲の上できっと文庫本を読み
 手を挙げて膝掛を頼み
 耳の空気を抜くためにチューインガムを噛み
 土を忘れ
 消える

 心配は無用 大丈夫
 こんな事で泣くわけがないよ
 ただ
 立っているだけさ


 どしゃぶりを抱きかかえたまま

■ 69 ■

 正直な絵画が言うことは

 いつも

 雨 雨 雨 雨

 いつも
 通りかかるたび
 絵画の聖母の唇は

 雨と動く

 それが 晴れ と気付いた時には星空

 あの冷えた 12月24日 の夜


■ 70 ■

 フォルゾンの充満

 あくる日の乙女は雨でした。


 眠っているねタービン、
 ロティスに餌はやったのかな?


 充満する

 眺め続ける


 明日も雨だといい。



--Presentation by ko-ka--