■ 雨 ■


■ 41 ■

 赤 はちる
 しみて 白

 ざくろ 色
 布 ほどく

 先 ほそり
 じとり 十

 急な葬式の報せ
 ほどなく到着する雨
 はらはらちるはちるは石榴の

 枝 むこう
 しみて 雨

 ざくろ 色
 髪 ほどく

 先 ほそり
 わらう 十

 結わえて真珠の耳かけ
 熱い茶の準備
 さあさあちるはちるは石榴の

 赤 はしる
 ねむる 唇

 ざくろ 色
 左 あわせ

 先 もなく
 とおく 十

 ひいて 苦
 唇 ひいて

 ひいて 夜
 ざくろ 色

 長 びいて
 ひいて 無

 ちるは 死
 燦 とふる

 雨 ひいて
 爾 めして

 ひいて 一
 口 ひいて

 ざくろ 色

 雨 ちるは
 ちるは 赤


■ 42 ■

 迷宮の雨を抜けて逢いに来たよ
 ぎこちない抱擁をおくれ
 もうすぐ夜明けが

 祝福を運んでくる


 昔から明日という言葉が嫌いだったね
 沈むたびに
 もうここから先
 いつ終わってもいいのだと言い聞かせ
 目覚めるたびに
 もう一度
 素直に笑えるのだろうかと
 まぶしくてなみだが
 嘘のようにこぼれる毎日

 いつしか我慢していた
 気づかないほどの小さな叫びを
 露霧に濡れた草葉の影でさらけ出してほしい


 大丈夫

 大丈夫だよもう
 なにも心配はいらない

 暗闇の空を降りて逢いにきたよ
 ぎこちない笑顔をおくれ
 もうすぐ夜明けが

 祝福を運んでくる


■ 43 ■

 ぼく、は。

 先生、
 ずっとこうしたかったです。あなたの
 耳の
 うらからのぼって、
 黒い滝をさらさらと梳きたかったんです。

 くちびるを押しつけて。

 先生、
 どうして。

 つめたいヒールの先に、冬眠するようにまるくなっている爪先の
 沈んだ肌色をした、薄皮。
 くるぶしからのぼって、
 スカートに指を入れ
 するすると、
 ちいさな雲にしてしまいましょう。

 どうしても
 抱きしめられない、と、言うなら。
 まぶたを五本の虹で、
 かくして。

 ぼく、は。ずっと、ほんとうに、ずっとこうしたかったんです。
 ねえ。
 先生。

 どうして泣くの。


 ぼくの衿に、雨のしらせを
 ふたつぶ、

 落としてしまうの。


■ 44 ■ 書斎 ■

 いつからいつまでが雨なのか本棚は知らない
 しずしずと
 薄緑色の点病に侵され
 次第に弱っていく板の内側さえ
 誰にも見せずに

 蜘蛛は裏側に
 もうどうにでもなってしまえばいい
 とでも言いたげな家をつくる
 あちこちにのびる糸は
 白く
 灰と
 すこしだけ黒の
 埃をかぶって廃墟となる

 カーテンは
 いちばんしたの
 いちばんすみの
 折られ
 折られ
 重ねられたところから
 ふつふつと
 これも薄灰色の点病に侵され
 絹の
 目
 滲んで十字架が打ち建てられる5年もかけて

 地球儀を集めていた

 地球に見えれば何だってよかった
 この部屋には
 地球がいくつもあって
 それぞれに緑で 白で 橙で 青かった

 点病に侵されていない球体を
 からから回して雨を呼ぶ
 詰め込まれた文字と大陸が
 静かに
 どこからどこまでなのかわからないように
 静かに
 雨を呼んで
 糸は
 雲作りに失敗したかのように天井にかけられ
 静かな
 すり硝子と絹のカーテンからもれる
 光は
 いつからいつまで
 雨なのか

 本にも
 僕にも教えず


■ 45 ■

 ロレンツ
 開かれた


 鳥


 男の左腕


 29…… 30…… 31…… 30……

 私のカラダを六時にして


 斜めも見ず
 また
 足首
 の


 昼は弓なりに雨

 56…… 6…… 5……


 あなたの額の中央


 シグナル

 波形としての受信


 エラー

 エラー

 エラー


 右の


 指先から飛び立つ
 極彩色の羽先にはじかれた

 しぁんでりあの水滴


 36…… 0……


■ 46 ■

 空に
 虹が浮かんで
 時間は過ぎて
 雨は止み
 君は去って
 手紙が残り

 なにもかもを
 失ってしまう
 と
 恐怖だけが残り


■ 47 ■

 スウェンベンの言う事には
 明日は風が吹くらしい

 使用済みの割り箸で組み上げた桟橋に
 これも使用済みの箸袋で織り上げる
 ちいさな鶴や
 人や
 イカや
 ソファーが
 列をなして渡るのを待っている

 さて
 スウェンベンの唯一の持ち物である
 お徳用の割り箸(箸袋つきのものに限る)
 が
 すっかりなくなると彼は別な場所へ行くのだが
 というわけで
 この部屋に彼がいるのも

 1
 2
 3
 4

 今日が昼だから
 さっき一膳使っただろう

 1

 2
 3
 4

 あさっての朝食はパンにしてやろうか

 ずいぶんと長かったようにも思えるが
 実際は一ヶ月ちょいしか経っていない
 スウェンベンの唯一の持ち物である
 お徳用の割り箸(箸袋つきのものに限る)
 が一体何膳入った状態でここへ着たのか
 思い出せないが
 わりと
 結構
 入っていたと思う

 ビニールの
 はしっこを掴んで
 スウェンベンが引き寄せる時に重く
 その時だけ袋はタールにかわり
 使われた箸が
 建築されていくにしたがって
 一等最初に使った奴もうカビてるし
 臭いし
 あいつだよ
 スウェンベン
 風呂にもあんまり入らないし

 ああ
 行くところが見つからなければ公園に行くんだと
 だから毎日風呂やらシャワーで清潔にしていると
 キレェが身についてだめなんだと

 あさっては雨が降るらしい

 濡れて行けよ
 スウェンベン
 そしたらこの橋
 生きた紙たちを
 燃えるゴミ袋に速攻仕舞って
 燃えるゴミの
 収集日は丁度あさってなんだよ

 パンにしてやるから

 餞別に
 500円やるから


■ 48 ■

 工具箱をあけて
 手を入れる。

 かきまぜると無機質な雨の音が響くよね。

 ボルトも
 ネジも
 たくさん種類があって、

 かきまぜると
 やんちゃな子供たちみたいに跳ねるよね。

 真新しい木のかおりと
 古びた油のにおいに包まれた作業場で、
 ガチャガチャ
 ガチャガチャ
 ザラザラザラ

 あっ、
 缶コーヒー。

 そろそろ休憩の時間だね、お父さん。


■ 49 ■

 あなたにナイフを突きつけた午後。悲しくも天井には雨が降っていた。
 いいよと言って腹をめくったあなたに、私はどうしようもなく欲情した。
 抱いて。
 なんでもいいから抱いて。
 ナイフを持ったまま抱いて。
 傷つけ合うレイテン、レイイチイチイチイチミリメートルの先には、鬱蒼と茂った「恋に似た愛」という嘘と、それを枯れさせるための白いトロトロとしたカルーアミルクのような液体が
 どこまでも
 どこまでも
 染みこんでいった。


■ 50 ■

 双頭のひまわりが うなだれる
 滝のような雨から守るために
 ばたばたと打つ はじき
 おおきな葉から
 祈るように流して



--Presentation by ko-ka--