■ 雨 ■


■ 31 ■

 雪は 雨ヨ と傘さしている
 二月
 周りの
 雑音ほどく微笑 から めて
 
 サテーンヴァルヨ
 ヴァルヨ
 ヴァルヨ
 ヴァルヨ
 
 (いずれにしても私は傘を使わないんだ。)
 (朝になって雨が落ちていても。)
 (春になって雨がやまなくても。)
 
 サテーンヴァルヨ
 ヴァルヨ
 ヴァルヨ
 ヴァルヨ

 sateenvarjo
 sataa
 sataa
 sataa
 fortnight 
 sataa
 sataa
 sataa
 sateenvarjo
 
 
 
 (明日、ぼくたちは東へ行き)
 (二週間後に雨を支払う)
 
 (遠くに日射しがみえるころ)
 (遠くはきっと夏になっている)


■ 32 ■

 裏側に
 ピッチカート


 ゆるえむ雨

 あしは
 リズムを軽やかに

 定規
 それも
 正方形の行列


 あしたも

 降る


 戦場に
 このたびは
 静かな
 る


 おそらく
 直線の葬列


■ 33 ■

 夜の遅くにザバザバザバ って
 窓から
 出して
 手のひらを上にあげただけで
 自分から壊れていくんだもん
 しかたないじゃない ねえ 雨って

 遠くから赤が半音下がって
 おふとんにくるまりながら
 顔だけ
 出して
 急に温度が秋になっていくの
 空気が壊れていくみたい
 一人の
 部屋で
 おふとんにくるまりながら
 世界が流されてしまえばもう
 あいつらと会わなくてすむかな って

 明け方
 サワサワサワ って
 窓から
 出すと
 かみさまの睫毛みたいに撫でていくの
 泣きそうになるじゃない
 やさしすぎて
 壊れていくみたい


■ 34 ■

 目に映る
 雨がはじく光の花束 まぶしくて

 頬を伝っておちる
 涙もまた

 きらきら
 キラキラ

 心の色を映しているね まぶしくて

 でも

 瞳は

 そらさないでいて
 気付いてほしいから


■ 35 ■

 ながめのシタひとライナーに
 アルガ アハイと言ってみる

 ボツ

 あぶら雨だ
 フル フル 国が立つ
 アルガ アハイ シェンジナ

 海が燃える 雨だ
 起きる
 シオ シタ ひとり

 立つ シェンジナ


■ 36 ■

 君を呼ぶ 雨の日に
 くるりるらる踊り疲れて 射る 手
 真夜中の 人だかり
 証拠はすべて雨が下水道へ……
 
 白いバン
  積んだ
 湿る臭い
  積んだ

 「永遠 の 思い出 鍵にしたいaiaiai」

 大通り
  避けた
 死角路地
  抜けた

 「狂喜 の 封印の 鍵にしたいaiaiai」


   ……次のニュースです…
   未明に……
   …女性……搬送…
   確認……


 難航の 犯行に
 本部の責任謝罪 会見 を
 報道陣 人だかり
 容疑者すら絞り込めず台風が……

 スイッチを
  切った
 鍵にして
  切った
 
 「風雨 に 紛れて 川に捨てたaiaiai」
 
 似顔絵も
  捨てた
 過去はみな
  捨てた
 
 「接点 は 誰もが 知る由ないaiaiai」


   ……次のニュース…
   台風……
   …被害……破損…
   浸水……


 あぁ 今夜
 君に 会える
 嵐の 中央の目
 
 さぁ 行こう
 夢で 会うから
 望みの 声 が欲しい
 
 
 もう二度と 顔を見ずとも
 笑いかけて くれる夢で
 雨が降り 枕 汚して
 人知れずに 想い続ける


■ 37 ■

  |
  |
  ○
 ――――
  |
  |
  し

 底から見上げる、どこまでも青晴れた水面です。
 「し」に、かけられぬよう通り過ぎると時折きらきらひかる、水紋。狐の雨の予報です。

 底はまったく緑の泥で“ずおごご”しています。
 「し」は、時折きらきらひかる、銀の浮かぶ照明器具です。

 “げごおっぷ”、“げごおっぷ”、黒くて丸い、岸へのしるし。鈍い雷鳴が昼です。
 「し」が、いつのまにか消える、ただ静かになる午睡です。


■ 38 ■

 うちの母が
 雨がこぼれてきた
 と見上げる
 午後に
 つぶが
 なづぎに当たり

 誰かが雲からこぼした つぶ
 それとも
 自分から こぼれたのかな
 えいっ
 て
 飛びおりたのかな

 おっかあ!
 早ぐ来ねえば
 濡れでまういろ!

 あたたかい
 7月のスコール

 ゆっくり歩く
 うちの母は
 大当たりを連発する


■ 39 ■

 あなたが私の罪を
 かぶって死んでいった春
 たむける花を重ねて
 私もついにこの時


 目覚めた夢の中では
 僕は幾世も今を生き
 となりにいるのはあなた
 名前も知らないあなた

 そして出会い恋に落ち
 僕は決めていた
 繰り返す運命など
 断ち切ってみせると


 夜の
 背中
 好きだと叫んでも
 ゆれおち手をすべる 髪

 ビルの
 ふちで
 ネオンにひざまずき

 今世もあなたは春と 逝く


 たむける花を重ねて
 僕もついに目を閉じていく
 巡り巡る夢の中
 お前は横で微笑む

 俺はお前をさがして
 今度こそ守る
 ふりむきざまに抱きしめ
 響く春の悲鳴


 許し
 乞いて
 また許されたとき
 お前の記憶花ひらく

 罪と
 罰を
 幾度も繰り返し

 ようやく訪れたのは 梅雨


 雨に
 打たれ
 手をつなぎ踊れば
 きらめきよみがえる愛

 明日を
 知らず
 ただそれだけなのに

 二人で笑いあう 日々

 花を
 重ね
 老人と老女が
 ついに目を閉じる春は

 夢が
 終わる
 ただそれだけなのに

 まぶたにひとすじ雨が 立つ


■ 40 ■

 捨てた次の日
 同じ道を通った

 入れておいた段ボールだけが
 くったりと雨に打たれて

 中の猫はもういなかった

 ほっとして
 通り過ぎた次の日
 同じ道を通った

 死んだ猫がはいっていた

 たぶん
 拾った人が
 死なせたのだろう

 それで

 それで

 学校をサボって埋葬したら
 森の隙間から虹が見えた

 永遠に眠っている
 良心が

 ちょっとだけ起きた証のように




--Presentation by ko-ka--