■ 雨 ■


■ 21 ■

 渇いた鼓膜がふるえる

 雨あがりの虹が
 ヒカパキ砕けて消えかかると

 どうしようもなく
 ふるえ


■ 22 ■

 君は例の雨を見たことがあるかい

 そうだ 八月だったよ
 あの暑い乾季
 有名な礼拝の声が
 カセットテープのノイズとともに
 スピーカーから 垂れ 流れ

 彼は死んだ
 だから 彼の声を録音したテープが 揺れ
 いつも

 女は孕んだっけ
 彼女 いいひとだったよ

 全部 君が
 全部 殺したおそらくは

 君が殺したも同然なんだ
 知っていて知らないフリをするから 雨は 降れて

 揺れて
 触れて
 はだしで逃げて

 礼拝もせずに耳をふさいだのは
 熱い歓喜に

 見ていて見ないフリをするから 誰も 嘘だ…
 そうだ偽善だったよ


■ 23 ■

 サザ あめはやまない

 きみと花弁を
 ふみつけるように抱きしめる

 ハ ザ それはひどすぎて

 たとえばキスに 似ていた


 二度と花弁がフリシキル

 ぜんぶなくすことを
 おそれないで


■ 24 ■

 戻っておいで

 孤独な椅子を準備して

 雨を待っている


■ 25 ■

 雨は虹の方角へ行った

 心が花であるなら
 茎は
 あるいは折れた肋骨と
 木製の詩人は言った

  ええ、
  ええそうです。
  枯れた午睡こそが花弁です、
 虹は
  吐きながら木星の方角に、仕方なく
  あなたを北にして……。

 詩人を含む兵隊たちは緑服のまま
 気をつけの姿勢にし
 首から上を
 虹色に塗った


 木製の雨は 方角ものまず

 座ったままの肋骨に
 カラハラと落ちて眠る


■ 26 ■

 どしゃぶりに殴られる
 ちいさなこぶしは あたたかく
 排水溝に消えていった

 そしてまた戻ってくる
 涙も 頭上に戻ってくる
 水が 頭上に戻ってくる

 引きつづき殴られる
 ざぶざぶ 嗚咽を消してくれて
 排水溝に消えていった

 想いはもう戻ってこない
 ろ過するように殴られて
 戻ってこなくてもいい
 もう
 いい


■ 27 ■

  傘をさしわすれた回転木馬が
  暴雨に打たれている

 彼はまったく停まったままだった

  直立不動のたてがみが
  音をたてて折れた

  だから言ったじゃないか

  たてがみを追いかけようとしたら
  傘をさしわすれた回転木馬が
  カラカラと笑った

 あのたてがみは
  俺の心のわだかまりなのさ

  そう
  そうなの

 取りに   いかなくていいの?


■ 28 ■

 傘を抱いて
 雨を置いて ひとしずく

 5%ナニモ要らないからと言う

 シクシク泣いてさかさまにかぶって
 ようやく溜まったのにね

 95%の水を抱いて
 恋を置いて ひとかけら

 パシャリとおちてきた金魚
 跳ねて

 空を置いて
 愛を抱いて ひとごとと

 5%ナミダ要らないからと言う


■ 19 ■

 形を変えて君はどこにでも行く
 ゆらゆらとただよう

 ときには雨をざあざあ降らせ
 ときには雷をごろごろ落とし

 飛行機は足あとをつけるよ

 形を変えて何万年もあるから
 一瞬の空は
 ただひとつ

 僕だけの世界


■ 30 ■

 雨の蒸発を見ていた

 内側から
 こぼれていたのは土でした

 君は汚いまま愛を探している
 濡れた地面に這いつくばって
 土をかき集めてどうしようも

 なくなった
 手のひらに
 掲げてしまって気づく

 雲の切れ目を探すのは 愛によく似ている

 とても

 手首に伝う水を
 おそれながら見ようとも



--Presentation by ko-ka--