■ BLUE ROSE ■
草薙織葉がその張り紙を見かけたのは、丁度千葉県に大きな遊園地が建設されていた頃だった。
『――団員を募集します。 時空劇団キスキル』
それは、名前を見る限りでは劇団なのかサーカス団なのか、とにかくよくわからないネーミングで、織葉の心を強くひいた。
街ではささやかなイルミネーションが、ポツ、ポツ、と光をまたたかせ、オーディション会場に行こうかという気にさせられたのは、たぶん、今日がクリスマスだからだろう。
オーディション会場がまた珍妙であり、織葉がたどりついたのは、街の片隅にある小さな公園だった。
ベンチに座るカップル。
いつものように犬を散歩させる老人。
鳥は居ないのに、餌を撒く子供。
その中に混じって、一人、ピンク色のコートを纏った、金髪の女性が立っている。
その圧倒的な存在感。
公園という名の、舞台に立っているようだと、織葉は思い、そして微笑んだ。
「……こんにちは」
声をかけると女性は、目をまるくして、それから「あぁ」と、言った。
「何かのお誘いですか? そういうのはさっきから、お断りしてるんです」
「いえ、オーディションを、受けに来たんですが……あなたは、劇団の方ではないですか?」
織葉の一言に、女性はとても驚いたようで。
そして、肩をふるわせると、次の瞬間大声をあげて笑い始めた。
「そう、ワタシ! あーっ、もう来ないかと思ったわ!」
朝から待っていたが、まだ一人も来ていないのだと彼女は言った。
かまわない、劇団に入れてほしい、と織葉は息を吐き出した。
「なにか、芸、できたりします?」
彼女はそう言うと、パン、と手を叩き、すると空中から杖が現れた。トントンと草を叩くと、そこからスルスルと、国旗の沢山付いた紐がー…。
それなら、と、織葉は、彼の目をふさいでいた布に手を入れ、眼球を取り出した。
その眼球は真っ青で、そこからスルスルとのびた花は、音をたててパリッと咲く。
青い、薔薇。
「こんなのでよければ」
「その眼ー…」
「これは義眼ですよ、元々眼が見えないので、あってもなくても、どうでもいいんです」
生きる理由なんて、どうでも。
ただ面白そうで、あなたが、とても面白そうで。
「――合格よ! 二人で頑張りましょう!」
彼女は笑い、眼球の青い薔薇を受け取った。
「それと、よく誤解されるの。わたし、男よ」
それもわかっていましたと織葉が言うと、彼女ー…彼は、極上の笑みで織り重なった薔薇にキスをたむけた。
雪が舞う。