■ うずら屋さんとスキヤキ ■

 あ、そうだ。うずら屋さんを呼ぼう。
 そんでスキヤキしよう。夏とか関係ナシにスキヤキしよう。
 思ったら電話に手がのびていた。短縮押して3。受話器をあげると、何回もコールしないうちに「毎度どーもうずら屋です」とシロウさんの声がした。電話帳登録ってホント便利。
「あ、シローさん? サンテントウの佐藤です」
「あぁ、どうもこんちわー」
「うずら3羽かしてほしいんです」
「今日暇なんで、指名できますよ」
 おお、指名とはありがたい。私が好きなのはシシちゃんとマナちゃんなのでそこは決定。あとはシロウさんが適当に選んでくれる。
「シシちゃんとマナちゃんお願いします」
「いいッスよ。じゃあトモ連れてっていいッスか」
「いいよー。じゃあ5時半ごろお願いします」
「毎度どーも。失礼しあす」
「はいよー」
 突然やる気になって受話器を落とすように落とした。うん、おとした。
 サンハチトウのサンサンスーパー田中に行ってスキヤキの材料を買う。焼き豆腐に肉。ネギと、白菜しいたけ、スキヤキのモト。ちゃんと結んでいるしらたきをカゴに入れて満足。あ、飲みモノはポカリにしよっと。
 卵のコーナーに行ったら、やっぱりうずらは置いてなくてちょっと嬉しくなった。見るたびに、うずら屋さんが当分つぶれないと思うとスキップしたくなった。
 下準備に結構かかったけれど、インターホンは5時半すこし過ぎにぴんぽーん。
「はあい」
 ドアを開けると、くたくたになった黒シャツとジーンズに、不釣り合いなトリカゴを持ったシロウさんが
「こんちわ……こんばんは。毎度」
「入っていいよ」
 靴をそろえて入ってきた。
「わあ、シシちゃん! 相変わらずいい毛並み。マナちゃんもトモちゃんもお久しぶり」
 シシちゃんを手にとる。まるまるしたうずらが私の手の中でふるえる。
「前金で。600円っス」
「あれっ、いつもより安い?」
「お世話になってるんで……」
 シロウさんは、卵を産む体勢になっているトモちゃんを優しくおさえてささやいた。
 ポン、と、卵がころがる。スキヤキは食べごろだ。
「ありがとうシローさん、食べてって」
「ども」
 私はスキヤキ用の取り皿に、生まれたばかりの卵を割りいれて、スキヤキのスープをおたま半分くらい入れた。
 ベストスタイル。おいしい。
 食べながら、私はときどきシロウさんをチラ見する。シロウさんは汗をながしながら豪快に食べている。
 よくしつけられたうずらたちが並んで座っていて、この3羽とシロウさんを天秤にかけたら、たぶん釣り合うなあと思った。