■ 千年王のソルシエ 物語概要 ■



■ 1 ■

 千年生きたとされる強大な王――千年王――の伝説が残る国が舞台。
 カギュラカ地方のソルシエ(魔法使い)レルナンの弟子・テオルが主人公。
 カギュラカには石の遺跡が残っており、それが千年王に関するある記録であることをつきとめた、師・レルナンは、テオルをともなって過去に千年王が住んでいたとされるロニザテーへと旅をする。
 そこにも謎の遺跡が残されており、更に山の上へと進むと、雪の中に滅びた城が残っていた。だが、何かを守っているような氷のドラゴンに襲われ、テオルをかばったレルナンが死亡。
 テオルは怒りにまかせて、魔力の制御装置である左手首のリングを外し、ドラゴンを倒す。そして、それが守っていたと思われる氷漬けの少女を発見する。
 一旦リドンフの宿まで戻り、少女を蘇生させる。少女は記憶を失っていた。
 少女とカギュラカまで戻りしばらく平穏に暮らしていたが、カギュラカの遺跡を前に、少女はすらすらとその碑文を読み始めた。
 記憶がよみがえる……少女は、千年王のソルシエ・ユリシュカデリンだったのだ。
 この頃からテオルは、奇妙な夢を見るようになる。月光を背に立っている、自分そっくりの青年が、話しかけてくる夢……。

■ 2 ■

 悲しみから無気力少女になってしまったユカン。
 そこへ、現在の王都であるガレー・ギュアマから使者がやってくる。彼はクレシィベガと名乗り、テオルに縄をかける。
 テオルは、師・レルナンを殺した殺人犯として手配されていたのだ。
 王都へ行くと、幼馴染のシュラウド・セキセイリと再会。ユカンを紹介すると彼女はあっという間にシュラウドと仲良くなる。
 ユカンは、酒場では千年王の時代の再来を願う革命家の女ロージムと、また、城ではルイ・シャルル二世の熱心な信望者であるクレシィベガと深い話ができる。
 ユカンはそれらの人々と交友し、千年王の時代では身につかなかった「友情」という温かいものを知る。
 異例の、謁見での尋問。テオルは左手首のリングを取って、ユリシュカデリンを大きくしてしまう。千年王の再来とおそれられ、追われる身となる。
 革命家の女がエンバネリ出身で、王都から船でエンバネリまで逃がしてくれる。

■ 3 ■

 リドンフまで戻るのは危険と判断し、逆のヒハマライへ逃げるテオルとユカン。
 山の奥では原住民のエルフたちが暮らしていた。
 ユリシュカデリンを口伝で知っているエルフたちはテオルとユカンを歓迎する。
 エルフの人々から、千年王の時代では身につかなかった「優しさ」という温かさを受け取るユカン。
 だが、楽しかったはずの宴でエルフの王は、テオルが「千年王の器」であることを予言する。
 ユリシュカデリンを大きくできるのは千年王だけだった。
 そして同時に、千年王は邪悪な王であり、ロニザテーの城の中、思念だけ封印されていること、肉体という器に入れば復活することも教えられる。
 テオルは、昔、レルナンに言われたことを思い出す。テオルの左手首にリングをつけながら、師はこう言ったのだ。
「……お前は千年王の器だが……私が守ってやろう、一生をこの村で終えなさい……」
 ではなぜ、師はロニザテーまで出向いたのか?
 千年王の悪意がカギュラカの遺跡にまで及んでおり、その悪意にあれられたのではないかとエルフの王は言った。

■ 4 ■

 ユリシュカデリンは反発する。千年王はそんな人間ではなかった。私には笑顔を向けてくれた!と。
 エルフの村を抜けだし、単身ロニザテーへ向かおうとするユカン。
 だが、独りきりで思い出す千年王との蜜月は、自分からの、一方的で子供っぽい愛と、千年王からの、利用価値を認められただけの上っ面の笑顔だった。
 真の友情と優しさを知ったユカンは、今まで愛されていたと思っていた千年王の笑顔が、実は中身のない仮面だと気付いてしまった。
 テオルに追いつかれ、行くとしても一旦リドンフで体勢をたてなおそうと説得される。
 テオルの笑顔は本物だった――優しさと思いやりであふれ、輝いている――ユカンは目覚めてから初めて、大声で泣いた。
 リドンフでは王都軍の警備体勢が厳重にしかれていた。
 そこで、幼馴染のシュラウドと再会する。部屋を手配してくれたシュラウド。
 そこでシュラウドは、死んだハズの師・レルナンと会ったとテオルに打ち明ける。
 レルナンが生きていたことで、テオルへの殺人疑惑がとけた。
 この軍勢は、ロニザテーへ向けた千年王の討伐隊なのだという。指揮はもちろんクレシィベガ。
 シュラウドの内助で、クレシィベガとなんとか対談する事ができたテオル。
 千年王について書かれたカギュラカの遺跡等の情報交換を行う。

■ 5 ■

 一方その頃。
 大量の軍勢がリドンフへ行き、警備が手薄になった王都ガレー・ギュアマでは、血を流す聖戦――革命が行われていた。
 王族は全員死に、混沌の中、革命議会がかろうじて秩序を保っている……。
 という現状を受け取ったクレシィベガは怒り狂い、シュラウドの小隊を残して全軍王都へ帰還する。
 テオルとユカンとシュラウドはロニザテーへと行く準備を進めるが、そこに現れたのは革命家の女ロージムだった。
 テオルとユカンが王都から逃げたルートと同じ、エンバネリを通ってリドンフまでやってきた。
 女を加え、四人プラス小隊の軍人たち、全13名でロニザテーの城へ向かう。
 山のふもとで遺跡を発見。ユカンが読む。
 カギュラカの遺跡とあわせると、千年王を封印した手順であることが判明した。
 ようやく滅んだ城へたどりつくと、城は、テオルが師と一緒に見た時より明らかに修復されていた。
 氷に輝く城。中で迎えたのは、死んだはずのレルナン・トロクだった。
 思わず師匠に駆け寄ろうとするテオルだが、制止される。
 おかしい、明らかにレルナンではないと叫ぶシュラウド。
 ユカンは、その中身が千年王であることを感じる。だが、大きくはなれなかった。
 中身は千年王でも、器はレルナン。真の千年王の器であるテオルの魔力でないと、ユカンは大きくなれないのだ。
 そして千年王は、レルナンの器で、例の、仮面だけの笑顔をユカンに向ける。
「おいで、ユリシュカデリン。会いたかった」
 ……だが、ユカンの足は動かない。

■ 6 ■

 レルナンを殺そうとした小隊の軍人たちは、テオル達が茫然としている間に全員殺されてしまった。
 遺跡に記された千年王の封印方法は、1・器を殺す、2・別な器に乗り換えようと思念体になった所を封印符で包む、3・凍らせる、4・壺に入れて二重に凍らせる、というものだった。
 当時のエルフの王が施した術式で、当時暖かい気候だったロニザテーは氷の山となった。
 数百年かけて気候はおだやかに→氷のドラゴンが住みつく→壺を割る→千年王はドラゴンの体をかりる→師匠と弟子が到来→師匠が死ぬ→ドラゴン死ぬ→師匠に乗り移る。という順番で現在に至る。
 その封印符をユカンが請け負い、師匠を殺したくないテオルは使い物にならないので、シュラウドと革命家が師匠を殺す→ユカンが封印、という作戦で行く。
 失敗。ユカン含めて三人とも重体となる。
 千年王が、このまま三人を殺すのと自分の器になるのと、どちらがいいかと問い、テオルは千年王の器として体を明け渡すことを了承する。手首のリングを外し、床に落とすテオル。カン、と硬い音が響く。

 倒れこむテオルとレルナン。吹雪はやんだ。レルナンは死体に戻った。
 テオルは意識を失ったまま倒れている。
 重体状態からようやく回復してきたユカンが、テオルをかかえて声をかける。
 目覚めたテオルはふわっと笑うと、ユカンの腹に手刀を入れ、ユカンがゴフッと血を吐いたあたりで高笑いをはじめる。
 立ちあがったテオル……千年王が手をふり上げると、みるみるうちに昔の城が甦り、千年王は久々の受肉を満喫する。

■ 7 ■

 一方その頃の王都。先導者のいない革命議会は制圧された。
 王の死体の前で跪き、手を組んで追悼の意を心で叫び続けるクレシィベガ。ふと、王の指輪が目につく。
 次に手首のリング、次に首飾り、次に王冠――。どこかで見た事がある、と脳内検索をはじめるクレシィベガ。
 テオルが左手首につけていたものと同じだと気付く。
 謁見の間でテオルがリングを外した行為、情報交換の場で明らかになった千年王の思念体……、クレシィベガの中に、千年王を倒す糸口がうっすら見えた。
 そこへ伝令が、千年王が完全復活したとの報せをもってくる。
 伝令を締め出したクレシィベガは、王の死体に向きなおる。
「……お許しください……」
 ふるえる唇で王の手の甲にキスをし、王の装飾品を次々と外しはじめる。

■ 8 ■

 千年王は、今の状態が楽しすぎて、ユカン・シュラウド・革命家がまだ息をしている事を忘れている。
 虫の息のユカン。死んだフリしながらユカンへ回復魔法をかけ続けるシュラウド。逃げる算段をつけてシュラウドへ伝えるロージム。
 そこへ伝令がやってくる。現王都の軍長・クレシィベガが、新たな王に挨拶したい、と。
 一瞬の隙をついて逃げ出す三人。千年王は、まぁどうせ後で殺すしと思ってとりあえず伝令を殺す。切りとった首に魔力を込めてポーイと投げると、遠く王都の城まで飛んでいった。
 雪が完全に溶け、草木がしげる別物の山となったロニザテーを、ころげおちるようにして逃げるシュラウドと革命家。
 ユカンはシュラウドにかつがれたまま、うんともすんとも言わない。
 エンバネリまで逃げたところで一息つくシュラウドとロージム。ユカンを心配しつつも二人でちょっといい感じになる。(※ここは削るかどうか後で決める)
 ユカンが意識をとりもどす。ユカンが息も絶え絶えに二人に謝ると、シュラウドは
「君が本当に謝らなければいけない人は、もう別人になってしまった。僕のかつての親友……かつての幼馴染は……」
 とユカンを静かに批判する。
 誰も住んでいないエンバネリは毎日静かで、三人は回復しきった。
 その間にリドンフやカギュラカ、ヒハマライのソルシエ達が、伝説の王の復活を感知し、集結しはじめていた。

■ 9 ■

 エンバネリに王都の船がやってくる。乗っていたのはクレシィベガで、ある木箱を大事にかかえ、ユカンと対話の席を設けたいと言ってくる。
 ユカンから、碑文の完全な解釈を聞き、千年王(の器であるテオル)の魔力を、たぶん封印できると思われる王の装飾品を提示。
 加えて、ユカン達が静かにしていた間、各地のソルシエ達に協力を乞い、全てのソルシエが了承したと伝える。
 もちろん、魔力は「完全体の千年王>>テオル(手首の制御装置なし)>>ユリシュカデリン(大)>>>(越えられない壁)>>>エルフの王>ユカン(小)>>>(越えられない壁)>>>レルナン>テオル(手首の制御装置付き)>>各地のソルシエ」なのだが、いないよりマシだとクレシィベガは判断した。
 復活した千年王に捧げる品を、列をなしながら持っていく人々。
 全員が、奴隷に扮したソルシエたち。ユカンたちも変装し、列に紛れて隠れながら向かう。千年王の城へと到着するクレシィベガ。
 千年王と対峙し、顔はテオルだというのに冷徹な瞳で射られ、固まる。テオルの面影がまったくない事で、逆に覚悟が決まる面々。
 王にふさわしい装飾品をぜひ……、と、クレシィベガは魔力制御装置を捧げ、千年王がひとつひとつ身につけていく。
 全部身に付けたところで、ソルシエ達全員が千年王に襲いかかる。
 だが、制御装置を身につけた所で、元々の魔力が段違いだったのであっさりザクザク殺されていく。
 ユカンが致命傷を与えようと向かった時、テオルに戻ったようになるが、
「お前はテオルじゃない!テオルは……ッ、テオルの笑顔は!!」
 と千年王の演技を見破って致命傷を与えるユカン。
 その場にいたソルシエの中で、ユカンに次いで魔力が高いエルフの王に乗り移ろうとする千年王の思念体。
 それを、自分を取り戻したテオル・ユカン・エルフ王が同時に術式を展開して封印に成功する。

■ 10 ■

 エルフの王が、自分達の山・ヒハマライを凍てつかせて永遠に封印し続ける事をクレシィベガに約束する。
 傷ついたソルシエ達の回復にひた走るシュラウド。国家転覆罪で手に縄をかけられ、ちょっと抵抗するも、色々思うところがあり大人しく連行される革命家。
 千年王をめぐる冒険も終わりに近づいていた。
 致命傷を受けたまま、ぐったりしているテオル。ユカンが回復魔法をかけようとするが、テオルは治療を拒んだ。
 器である自分がいる限り、いつなんどき封印が壊れて千年王が復活するか分からない。
 このまま死んでしまおうと思っている。とユカンに告げる。
「一度体を明け渡して……王さまの精神の深い所に沈んだから……わかるんだ。彼は、君のことを好きだった。ちゃんと……好きだったんだよ……」
 そう言ってテオルは、一番最初に氷のドラゴンが何かを守っているそぶりを見せていたことを回想する。
 全てが終わり、誰もいなくなった美しい城で、テオルが眠ってしまうまで、たわいもない思い出話をしつづける二人――。

■ 11 ■

 数年後。ガレー・ギュアマは軍事国家として栄えている。だが、軍事国家とは名ばかりで、最高指揮官は民衆を尊重している。
 カギュラカ・リドンフ・エンバネリと、各地を旅して民衆の生活を身近に感じた最高指揮官は、過去に、尊敬する王がなしえなかった事を実行している。
 また、ある一つの墓があるロニザテーに、墓の主と親友だった男が住んでいる。
 彼は千年王時代に栄華をほこったロニザテーの復興にひた走っており、住みついた人々からは、頼りなさすぎて助けてあげたい男ナンバーワンとしてよく名があがっている。
 また、かつて寒波の到来で人々が離れていったエンバネリは、昔の温暖な港町に戻り、そこには一人の女性が住んでいる。
 彼女はかつての革命仲間たちと共に、彼女の理想とする民主主義の自治体を運営している。
 また、ヒハマライは氷の山として、なんびとも立ち入ることのない地区となっている。
 そして――。カギュラカの、かつてレルナン・トロクが住んでいた家に、一人のソルシエが住みつこうとしていた。
 そのソルシエは、今までリドンフで生計をたてていたが、リドンフはソルシエが多いため、この地に移ってきたのである。
 少女は「久しぶりだな……」と呟くと、埃のかぶったテーブルに手をおいた。
 その手の横に涙が、ひとつ、ふたつ、ぽとりとこぼれた。「おっと、」彼女はぐすっ 鼻をこすると、きしむ木窓をバッと開けた。
 了。